財産を多く持つ父親を、姉が介護を目的に、他の人の訪問を拒絶しています。どう対応するのがよいのでしょうか?

Q.私には姉がおり,現在高齢の父の介護をしております(母は既に他界しております。)。父は預貯金の他,不動産も有しているのですが,現在80歳を過ぎ,認知能力に衰えが見え始めています。
姉は父の介護を理由に父と私を合わせてくれません。私がお見舞いに行こうとしても,頑なに拒否されてしまいます。私としては,
①父に会いたい
②姉が父に父の意思に反する遺言を書かせることをどうにかしたい
③姉が父のお金を使い込んでいるのではないか
④姉が父を虐待しているのではないかと心配である
といった悩みがあります,私はどうしたらいいのか教えて下さい。


A.あなたの質問に関して、以下の通り回答します。

現在の状況

あなたのお姉さんが,父をあなたに会わせないという現在の状況は,いわゆる「囲い込み」と言われる問題の可能性があります。ここでいう「囲い込み」とは法律上の言葉ではないですが,一般的に高齢の親がいる子供などが、親と他の子供や親族を会わせないようにすることをいいます。

このような「囲い込み」は,近年増加しており,大きな社会問題となっております。https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53993210Q9A231C1CZ8000

 

「囲い込み」が行われている状況では,高齢者は身体的・精神的に弱っていることが多いことから,高齢者自身が外部に助けを求めることが困難です。また,介護をしている人物の介護疲れ・経済的困窮も,介護者自身を追い込む要因となり,事件を複雑困難なものにしていきます。

そのような事情から,囲い込み事件は,解決が困難な場合が多くなります。

相談①(父への面会希望)について

裁判所は近時,囲い込みに関して,重要な裁判を出しています。

面会の妨害を禁止する仮処分

横浜地裁は,アルツハイマー型認知症と診断された両親を、長男(兄)が福岡県の自宅から連れ出して横浜市内の老人ホームに入所させ、長女(妹)と両親との面会を妨害している事案について、長女と両親との面会の妨害を禁止する仮処分決定を認可しました(横浜地裁平成30年7月20日判決)。

この判決は,両親に面会する子供の権利を初めて認めた裁判例であり,重要な判決といえます。

もっとも、面会の妨害が禁止されるとしても、具体的にどのような行為が禁止されるのか,現実にどのように面会を実現すればよいのかについてまでは前記裁判例からは明らかではありません。

損害賠償請求(金銭による解決)

子が親に会えなかったことにより精神的苦痛があったとする事件においては,囲い込みをした長女と次女による母を三女に会わせなかった行為が,不法行為に当たるとして,長女と次女に110万円の慰謝料の支払いを命じるという判決があります(東京地裁令和元年11月22日判決)。

このように,両親に子を会わせない行為は,その理由や期間・態様等によっては,慰謝料の対象になるということが判決で明らかになっております。

以上のように,親に会えない精神的苦痛を,事後の金銭賠償で解決するという方法も存在します。また,このような損害賠償を請求するための弁護士費用相当額(ただし,請求額の10%程度)も,相手方に請求することができます。

 

相談②(姉が父に遺言を書かせることに対する不安)について

例えば,「姉に全財産を相続させる。」という遺言を父に作成されてしまった場合,それが父の本意でなかったとしても,この遺言を無効だと主張し,その主張を裁判で認めてもらう(証明する)ことは,なかなかハードルが高いです。

そこで,このような遺言が作成されてしまった場合は,あなたとしては,父が姉からの囲い込みから脱出できた後に,父の真意に基づく新たな遺言を作成するよう父にお願いすることが考えられます。

遺言は何度でも書き直すことができ,後の遺言に矛盾する前の遺言は無効になる(民法1023条1項)ことから,新たな遺言を作成することで,父親が望んでいない内容の遺言を無効にすることができるのです。

書き直しの内容としては「先にした姉に全財産を相続させるという遺言は取り消す。」といったものが考えられます。この点につきましては,「遺言を書き直すことができますか?」という記事がございますので,是非ご参考になさってください。

もっとも,遺言を有効にするためには,遺言者の遺言能力が重要になってきますので,できるだけ早い時点で遺言の書き直しに着手することが重要です。

相談③(お金の使い込み)について

既に使い込んだ金銭等について

 父の生前に使い込みが発覚した場合 (ア) あなたの父の判断能力に問題がない場合は,あなたの父ご本人が,姉に損害賠償請求または不当利得返還請求をすることになります。
(イ) あなたの父の判断能力に問題がある場合は,父に成年後見人を選任した上で,その成年後見人が,加害者である姉に損害賠償請求等をすることが考えられます。
※これらの場合,あなたが父に代わって請求することはできません。
父の死後に使い込みが発覚した場合 この場合は,父の損害賠償請求権等を相続人がその法定相続分に応じて取得します。その結果,あなたが自分の権利として,姉に損害賠償請求等をしていくことになります。
あなたが,姉との交渉で解決できない場合には,弁護士に依頼することも考えられます。

 

これからの金銭等の使い込みを防止するためにできること

姉による父の財産の使い込みを防止するために,弁護士等の専門職を成年後見人に選任することで,成年後見人が父の財産を管理し,姉に父のお金等を使えないようにすることも考えられます。

成年後見制度とは、判断能力が不十分なため契約等の法律行為を単独で有効に行えない人を,後見人が代理し、必要な契約等を締結したり財産を管理したりして,本人の保護を図ることを目的とする制度です。成年後見人が選任されますと,後見人が被後見人の財産を管理しますし,後見人は被後見人の財産の使い方について裁判所に報告する義務があります。また,後見人以外の人は,被後見人の預貯金や不動産等の財産を処分できなくなります。したがって,被後見人の財産を,被後見人のために,適切に管理していくことができます。

このように,成年後見制度を使うことによって,囲い込み家族による,被後見人の財産の使い込みを防止することができます。

 

相談④(虐待に対する対応)について

虐待には下記のように,様々なものが存在します。

身体的虐待
○殴る、たたく、つねる、蹴るなどの暴力をふるう
○ベッドに縛り付ける、家に閉じ込めるなど、身体を拘束する
介護・世話の放棄・放任
○食事を与えない、入浴をさせない
○本人が必要とする医療・介護サービスを受けさせない
心理的虐待
○怒鳴りつける、排せつの失敗などを他人に話し、恥をかかせる
○意図的に無視して、家族の中で孤立させる
性的虐待
○性行為の強要
○こらしめるために下半身を裸にして放置する
経済的虐待
○本人の年金や預金を勝手に使う
○日常生活に必要な現金を渡さない、使わせない

このように虐待の態様は様々でありますし,家庭内の状況は,外からはただちにはわからないものです。また,虐待者には虐待をしているという認識がないかもしれません。このような点からあなたご自身による判断には限界があります。

そこで,虐待の疑いがある場合は(証拠までは不要です),専門機関に相談することが重要です。
高齢者虐待防止法という法律が存在することから,行政機関には,高齢者に対する虐待を防止するための措置を講じる義務があります。種々の機関と連携して,適切な解決を図ることが可能です。

弁護士が,行政機関への相談等に関して,お手伝いすることも可能です。

 

実際に姉による虐待があった場合

(1)加害者と被害者の分離

実際に虐待の事実が存在する場合には,虐待の加害者と被害者の関係を断ち切ることが重要です。

行政の関係機関や医療機関,福祉機関と連携して,父を病院に入院させたり,老人保健施設などに父を移すことで姉との関係を断ち切ることも考えられます。

(2) 経済的虐待に関しての対応

前記4のとおりです。

 

結びに

以上のように,囲い込みは近年増加している社会問題です。
高齢者と介護者たる親族は,いずれも複雑な状況をはらんでいたり,親族間に感情的なもつれがあったりします。それらの事情から,事件解決が困難となりやすいことが,囲い込み問題の特徴としてあげられます。
このような事件類型でありますので,遺言の効力の問題や後見制度を選択するべきかの問題等,専門的知識に基づく判断が必要となる場面が多数存在します。

したがって,御家族等の間でトラブルが生じないようにし,また,仮にトラブルが生じてしまった場合には,適切に解決するため,法律の専門家により適切な助言を得ることが望ましいのではないでしょうか。

囲い込みによって著しく不合理な遺言が作成されてしまった場合には,改めて遺言を作成することにより,問題を解決することが出来る場合があります。
遺言を作成するのに早すぎることはありません。また,早い段階で遺言を作成されたものの,その後の家族関係の変化に応じて,その時々の御家族の状況にあった遺言を作成し直すことが必要な場合もあります。

当事務所では,遺言を作成したいとお考えの皆様のご希望に沿った遺言作成をサポートさせていただくだけではなく,既に作成された遺言書について法的な問題がないか,あるいはご希望の内容を実現できる遺言の内容になっているのか等のチェックをするサービスもご提供しておりますので,遺言の作成や書き直し等についてお悩みの方は,是非一度,当事務所にご相談ください。

また,成年後見人を選任することで,被後見人の方の財産を守ることができます。成年後見制度について疑問がある方,成年後見制度の利用を考えている方は,是非一度,当事務所にご相談ください。

 

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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