遺産分割がまだ終わっていない!申告期限に間に合わない場合の対策
目次
Q.私の父が先日亡くなりました。相続人は,父と同居していた長女である私のほか,母及び遠方に住んでいる弟がいます。
私と弟は元々仲が悪く,父の財産を相続人の間でどのように分けるかについて,意見が対立しており,話し合いがしばらくまとまりそうもありません。テレビで見た相続税の特例というのを利用して,相続税の支払いを少なくしたいのですが,私達は相続税の特例を受けることはできるのでしょうか?
A.「配偶者の税額の軽減」や「小規模宅地等の特例」が適用されるためには,原則として,相続税の申告書の提出期限までに遺産分割がされていなければなりません。もっとも,一定の手続を経ることで,これらの特例の適用を受けることができる場合があります。
相続税の基本
相続税の申告のために必要な準備
相続税の申告の準備として、相続人の特定、遺言の有無の確認、被相続人の財産の調査と遺産の評価、遺産の分割などの手続が必要です。以下その概略を説明します。
相続人の確認
被相続人(死亡した人のこと)と相続人(被相続人の権利義務を引き継ぐ人のことをいいます。誰が相続人となるかは,法律で決まっています。)の戸籍謄本を取り寄せ,被相続人の相続人が誰になるのかを特定します。
被相続人の財産の確認
相続税を算定するためには,被相続人のプラスの財産だけではなく,借金等のマイナスの財産を明らかにする必要があります。
なお、生命保険の死亡保険金は法律上は相続財産ではありませんが,相続税では「みなし相続財産」として一定の控除のうえで,遺産総額に加算します。逆に,葬儀費用は,法律上は相続債務ではありませんが,相続税の計算においては,遺産総額から差し引くことができます。
相続人調査・相続財産調査についてはこちら
遺言書の有無の確認
被相続人の遺言書があるかを確認します。
自筆証書遺言については,遺言書を開封する前に家庭裁判所で検認を受けます(例外的に,法務局の遺言保管制度を利用した自筆証書遺言の場合は,検認が不要です)。公正証書による遺言については,検認を受ける必要はありません。
遺言の検認についてはこちらについてはこちら
遺産の評価
相続税がかかる財産の評価方法は、相続税法・財産評価基本通達により定められ,一般に公表されていますので、それらを用いて評価します。例えば,土地については,路線価方式により評価をすることになります。
遺産の分割
被相続人の有効な遺言書がある場合には,遺言書の内容によって,被相続人の財産が誰のものになるか決まります。
これに対して,遺言書がない場合には、相続人全員で遺産の分割について協議をし、遺産分割協議が成立した場合には、遺産分割協議書を作成することとなります。
遺言書がない場合は,基本的に,相続税の申告には遺産分割協議書の写し及び相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)を提出することとなります。なぜなら,遺産分割協議書によって,誰がどの財産を相続することになったのかを明らかにする必要があるからです。
相続税の計算においては,まずは遺産分割の内容に関係なく、相続財産の総額,法定相続人の人数・法定相続分から相続税の総額を算定します。
そして次に,各相続人が実際に取得した遺産の額を基に,その額に比例させて各人に相続税総額を割り振り,各人ごとの相続税額を算定します。
このように,相続税の額を算定するための資料として,だれがどれだけの財産を相続することになったのかを明らかにする遺産分割協議書が必要となります。
相続税の申告と納税
相続財産の課税価格が基礎控除額を超えると相続税の申告が必要です。一方,基礎控除額以下の場合には相続税の申告は不要です。
平成27年1月1日以降の相続または遺贈の場合の基礎控除額は,3000万円+600万円×法定相続人の人数となっております。
相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に被相続人の住所地を所轄する税務署に行わなければなりません。
例えば、被相続人が,ある年の2月14日に死亡した場合には同じ年の12月14日が申告期限となります。
この期限は,遺産分割協議が成立していない場合であっても,延長されず,期限内の申告・納税が必要です。
遺産分割協議が終了していない場合の相続税の申告・納付について
分割未了の場合の不利益
相続財産の全部または一部について,申告期限までに共同相続人等による分割が未了である場合には,その分割されていない財産については,各相続人等が民法の規定による相続分に従って財産を取得したものとして課税価格を計算するものとされています。
もっとも、この場合には,相続税の特例である小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例や,配偶者の税額の軽減の特例などが適用できない申告になり,特例が適用できた場合に比べて高額の相続税を納付することになる可能性が高いという不利益が生じますので注意が必要です。
申告後の更正の請求等について
民法の規定による相続分に従った相続を前提にして相続税の申告をした後に,遺産分割が成立し,現実に取得した財産をもとに計算した税額と申告した税額とが異なる場合には,修正申告(税額が増加する場合)又は更正の請求(税額が減少する場合)をすることができます。この際には,前記のような特例の適用をすることができる場合があります。
つまり,例外的に,10ヶ月の申告期限の後に遺産分割協議が成立した場合においても,相続税の特例が適用されることになります。
相続税の申告期限から3年以内に分割された場合
遺産分割がされていない理由や遺産分割の見込を記載した「申告期限後3年以内の分割見込書」を作成して,相続税の申告書に添付することで,相続税の申告から3年以内に遺産分割がされた場合には,相続税の特例の規定の適用を受けることができます。
なお,分割が行われた日の翌日から4か月以内に「更正の請求」を行う必要があります。
相続税の申告期限から3年を経過するまでの間に,当該財産が分割されなかったことにやむを得ない事情があった場合において,納税地の税務署長の承認を受け,分割ができることとなった日として定められた日の翌日から4ヶ月以内に分割された場合
更に例外として,相続税の申告期限後3年を経過する日までに分割されなかったことについてのやむを得ない理由を記載した「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」に,やむを得ない理由の裏付になる資料(相続に関し訴えの提起がなされていることを証する書面等)を添付して,管轄税務署長の承認を受けることで,その後の更正の請求において,特例を適用できる可能性があります。
ただし,この承認を受けた場合であっても,分割ができることとなった日として定められた日(例えば,判決の確定日など)の翌日から4ヶ月以内に遺産分割をする必要があり,また前記①と同様に分割が行われた日の翌日から4か月以内に「更正の請求」を行う必要があります。
なお,単に申告をするべきことを知らなかったことや,忘れていたことは「やむを得ない事情」に該当しないものと考えられています。
まとめ
それでは今回の内容を確認しましょう。
- 相続が発生すると,まず,相続人の特定,遺言書の有無の確認,被相続人の財産の確認,遺産の評価をする必要があります。
- 相続財産の課税価格が基礎控除額を超えると相続税の申告が必要です。
※平成27年1月1日以降の相続または遺贈の場合の基礎控除額は,3000万円+600万円×法定相続人の人数となっております。 - 相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に被相続人の住所地を所轄する税務署に行わなければなりません。
※この期限は,遺産分割協議が終了していない場合においても,延長されません。 - 申告期限までに遺産分割協議が整わない場合であっても,「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して相続税の申告をし,相続税の申告期限から3年以内に分割された場合は,「更正の請求」をする際に,相続税の特例を適用することができます。
- 相続税の申告期限から3年経過するまでに,遺産分割ができない場合であっても「やむを得ない事情」がある場合において,所轄の税務署長の承認を受けることで,相続税の特例の適用をできる可能性があります。
相続税の申告のためには相続人の調査や相続財産の調査が不可欠です。その際は,戸籍謄本を収集・調査をすることに加えて,不動産や預貯金,株式や保険等の調査をしなければなりません。相続税の申告期間というタイムリミットがある中でこれらの作業をご自身で行うことは心理的にも時間的にも御負担となるかと思われます。
また、その他の相続財産の有無や額,特例の適用によって相続税の計算が変わってきますので,専門家の助力を得ることが円滑な相続手続きには欠かせません。
相続の申告期限後に,相続税の特例の適用を受けることができる救済的措置が規定されています。もっとも,実際に修正申告や更正の請求をすることは時間的,心理的,経済的に負担がかかります。
したがいまして,遺産分割を適切かつ迅速に行うことが,法的にも税務面においても,相続の手続を円滑に進める第一歩であり,そのためにも早期に,遺産分割手続に精通した弁護士に相談をすることが重要です。
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