事業承継における弁護士の役割と対応内容
私は、大企業の下請けとして、工業製品を製造する会社を創業し、長年会社を経営してきました。私が引退したら、現在他の企業に勤めている息子に、私の会社を継いでほしいのですが、事業承継について何をすれば良いのかよく分かりません。弁護士さんに相談したらどのようなことをしてくれるのでしょうか。
事業承継は非常に手間や時間がかかり、複雑な手続きが必要です。円滑に次世代に繋げるためにも、弁護士等の専門家の協力を得ることで、迅速かつ適切に行うことができます。本記事では事業承継を考えている方へ、事業承継において弁護士ができること、弁護士に依頼をすることのメリットをご紹介します。
目次
そもそも事業承継とは?
事業承継とは、会社などの事業経営を後継者へ継がせることをいいます。株式会社はもちろん、医療法人や学校法人、飲食店や小売業を営む個人商店などでも、経営者が経営を継続することが困難になってくると、事業承継を検討していくことが必要となってきます。
事業承継の方法には、ざっくり言うと、親族内事業承継、従業員等への親族外事業承継、M&Aがあります。
親族内事業承継とは
親族内事業承継とは、経営者の子などの親族に事業を引き継がせることをいいます。
親族内事業承継では、現経営者の相続人が複数いる場合、相続が発生することで、経営権が分散してしまうリスクがあります。経営権が分散すると、後継者による円滑な経営に支障が出る可能性がありますので、あらかじめ弁護士に相談して適切に対処する必要があります。基本的かつ有効な方法は遺言を作成することですが、経営者が充分な判断能力を有しているうちに行うことが必須です。
その際に重要なことは次のとおりです。
①自社株を可能な限り後継者に集中させる
自社株を経営者から後継者に、株式の売買、贈与、あるいは遺言による相続などの方法により承継させることが必要です。
注意点として、遺言や一定の贈与により承継させる方法については、後述する遺留分との関係が問題になりやすいため、できれば生前の売買、あるいは長期的な計画に基づく速い段階での贈与による承継が望ましいです。
経営者が、売買や贈与により株式を後継者に承継させる場合は、株式譲渡契約書を作成すること及び株主総会または取締役会で株式譲渡の承認を得ることが必要となります。
②遺留分対策を行う
自社株をすべて後継者に承継させようとする場合は、後継者以外の相続人の遺留分を侵害しないかという点が問題になります。
遺留分とは、相続に際して、被相続人の財産のうち、一定の相続人に承継されるべき最低限の割合のことです。
遺留分・遺留分侵害額請求の詳細について>>>
例えば、先代経営者が亡くなったときに配偶者と子ども2人が相続人になる場合、それぞれの子どもには法律上、相続財産の4分の1の法定相続分があり、更に法定相続分の2分の1である8分の1の遺留分があります。
そして、冒頭の事例のようなオーナー社長の場合、自社株の評価額が相続財産の多くの部分を占めることが少なくありません。このような場合には、自社株をすべて後継者に承継させることにより、他の相続人の遺留分を侵害してしまう可能性があります。
その結果、後継者が、先代経営者の死後に、他の相続人から、遺留分侵害額として多額の金銭を請求される危険があります。
③後継者以外の相続人には議決権のない株式を分配する
「除外合意制度」「固定合意制度」の活用のためには、前記のとおり推定相続人の同意が必要です。このため、推定相続人の同意が得られず、遺留分対策ができない場合には、後継者以外の相続人にも自社株式を分配せざるを得ないこともありえます。
このような場合でも、会社法の制度を活用することで、後継者以外の相続人が相続する自社株式の議決権行使を制限することは可能です。
典型的には、先代経営者が保有する自社株式を株主総会の「議決権を有する株式」と「議決権を有しない株式」に分け、後継者以外の相続人には「議決権を有しない株式」を承継させる方法があります。
後継者以外の相続人が自社株式を持つことになっても、その株式が株主総会の議決権を有しない株式であれば、後継者による経営に大きな支障は生じにくいです。
この「議決権を有しない株式」を活用するためには、基本的には、新たな種類の株式の発行のために定款の変更が必要であり、株主総会の特別決議が必要です。
株主総会の手続きに誤りがあると、株主総会の効力を否定される等、後に大きなトラブルに発展する場合がありますので、弁護士に依頼し、株主総会と定款変更の手続きを確実に行うことを推奨します。
親族外事業承継
親族外事業承継とは、親族以外の従業員などに事業を引き継ぐことを指します。
親族外事業承継では、親族内に適任者がいない場合でも、会社内から候補者を求めることができます。特に、社内で長期間勤務している役員、従業員に承継する場合は、経営の連続性を保ちやすいというメリットがあります。
ただし、後継の候補者には、会社の株式を取得するための資金が無い場合が多いこと、親族でない後継の候補者は、会社の代表者になって金融機関等からの借入等についての個人保証を引き継ぐことを嫌がる傾向にあり、この点をどのように対応するのかという問題が生じやすいというデメリットもあります。
このようなデメリット解消のため、弁護士が、後継者の資金調達や現経営者の経営者保証解除のために、金融機関と交渉することができます。
また、株式の譲渡手続きを、法律に則り、資料を整備する等して適正に行うことで、現経営者の推定相続人と、親族以外の後継者との間で後日トラブルが発生することを防止することができます。
M&Aによる事業承継
M&Aによる事業承継とは、M&Aを活用して第三者へ事業承継を行うことを指します。
M&Aの最大のメリットとは、経営者の手元に売却益が残ることです。また、後継者不足に悩む親族内承継・親族外承継に比べて、候補者の幅が広がるという点もM&A選択のメリットといえます。
ただし、M&Aは相手のあることのため、会社の状況によっては、買い手が見つからない可能性があり、また、希望売却額や従業員の待遇などについて、承諾してもらえる買い手を見つけることが難しい場合があります。そして、売却・統合後は会社の経営方針が大きく変わる恐れもあるため、会社の従業員にとって、必ずしも良い方向へ向かうとは限りません。
M&Aによる事業承継についての弁護士の役割として、法務デューデリジェンスがあります。デューデリジェンスとは、M&Aにかかる調査のことで、M&Aを実行する前に対象会社の状況を確認するプロセスになります。法務デューデリジェンスは、買収対象会社の株主がどうなっているのか、組織の現状、関連会社、保有資産などを確認し、法令順守がなされているか、訴訟などのリスクがないか、取引の継続性、保有資産の権利関係やそれに伴うリスク等を調査します。
法務デューデリジェンスでは、弁護士は買い手側の立場で調査することが多いですが、売り手側の立場で、自社の社内体制の整備,労務管理等を適切なものにすること、契約条件の見直し、株式の集約等によって、企業価値を向上させ、より良い条件でM&Aを締結するためのサポートもできます。
事業承継において弁護士はなにができる?
会社の現状の把握と事業承継計画の立案をする
事業承継を行うためには、まず、会社の現状把握を行い、事業承継計画の策定をすることになります。弁護士が登記事項証明書、定款、就業規則等の社内規定の確認や、会社資産、負債の状況や株式の保有状況、相続人の関係などの調査を行った上、会社に最適な事業承継計画を立案します。
株式の承継をサポートする
前述のとおり、事業承継をスムーズに行うためには、株式を新経営者に適切に承継させることが重要です。少なくとも過半数、できれば株主総会特別決議も可決できる3分の2以上を集中させる必要があります。
親族内事業承継や親族外事業承継の際は、相続による経営権の分散リスクが発生することがあります。
弁護士に依頼をすることで、後継者以外の相続人による遺留分対策も行いながら、なるべく後継者へ株式を集中させる方策をとります。このとき、贈与税や相続税に対する配慮もすることになります。弁護士としては、税理士とも連携して、中小企業の株式の贈与や相続の際に認められる納税猶予制度を利用したり、遺言書を作成したりして、最適な方法で後継者候補に株式を集約させるサポートをします。
遺産相続トラブルを発生させないようにする
事業承継の際には、経営者の相続人たちの間で、遺産相続トラブルが発生してしまうことも見受けられます。後継者へ遺産を集中させると、他の相続人が遺産の分割方法に納得できず、相続人同士でトラブルが生じたり、遺留分侵害額の請求がされるなどの事態が生じかねません。
このようなトラブルが生じないように、弁護士は、遺留分対策を講じたり、現経営者の遺言書作成のサポート、遺言執行者への就任、生前贈与についてのアドバイスを行うなど、相続トラブルを最小限に食い止めることができます。
金融機関との交渉を行う
現在の経営者が、会社の借入について、個人保証しているケースがあります。事業承継をしようとする場合、金融機関は後継者に個人保証の引継ぎを求めることがあります。しかし、保証の引き継ぎがハードルになって、後継者候補が事業承継をする決断ができず、結果として事業承継が困難となってしまう可能性があります。
そこで、弁護士は、金融機関との間で、後継者には個人保証をつけないように交渉することもできます。
取引先との契約書の整備を行う
中小企業では、多くの取引先と継続的に取引をしていることが通常ですから、事業承継の際には、それらの取引先との契約関係が引継がれることも必要です。M&Aのように経営権に変動があった際に、契約を相手方から解除されたり、契約内容に制限をかけたりされるチェンジオブコントロール(Change Of Control)条項が存在しないか確認し、このような条項があっても契約を継続できるよう交渉をすることもあります。
また、契約関係が引き継がれる場合でも、契約関係があいまいな場合には、契約の解釈で争いが生じたり、契約で定められていない点について紛争が生じる恐れもあります。契約書にいい加減な部分があるなどの問題点がある場合には、弁護士が事業承継の際にきっちり整理することで紛争が予防され、企業価値の向上を図るとともに、後継者がスムーズに事業経営に入っていけるようにサポートします。
労務管理体制の構築・整備
後継者が、事業を承継し、盤石な会社経営を行うには、適正な労務管理体制が構築されている必要があります。近年では従業員もインターネット等で比較的容易に知識を得ることができるようになりました。これまで、なあなあで許されていた未払の残業代やパワハラ・セクハラ等を原因とする損害賠償などについて、現実に請求をされるリスクが増加しています。
労使関係に関する規律については、法改正なども頻繁に行われており、中小企業などでは対応が間に合っておらず、現状の体制が不十分なケースも多いので、弁護士が労務管理の体制構築からサポートします。
具体的には、就業規則や退職金規程、雇用契約書などを適切かつ会社の実態に沿ったものに整備したり、パワハラ・セクハラ等の講習、労災防止対策などについてサポートしたりします。このような対策を講じることで従業員とのトラブルや訴訟のリスクを回避して企業価値向上を図るとともに、後継者がスムーズに事業承継しやすくなるよう支援します。
弁護士に依頼をするメリット
上記のとおり、円滑な事業承継のためには、会社法や労働法、相続法等に関する抱負な知識が不可欠になります。
事業承継に関する数々の資料の作成や、関係各所との折衝など、煩雑で専門的な知識が求められる手続を弁護士が行うことで、後のトラブルを防止できるとともに、時間と労力を節約し、経営に集中することができます。
また、相続をきっかけとする紛争についての交渉・裁判について、専門的なサポートが受けられる点も弁護士に依頼するメリットです。相続問題は感情的な対立が起きやすく、親族間で憎しみあうこともあり、大きな負担となる場合もあります。
弁護士が法的に主張を整理し、話し合いを行うことで、感情的なもつれを解き、紛争を最小限に抑え、事業承継に伴う精神的負担を減らすことができます。
まとめ
事業承継で会社の経営権をスムーズに後継者に引き継がせるには、弁護士が関与することが不可欠です。株式の次世代への承継、他の相続人からの遺留分侵害額請求対策、会社の労務管理、取引先との契約関係の整備など、法務問題は弁護士にサポートを受けるべき内容です。
紛争を未然に防ぎ、適正・迅速に、かつ円滑に事業承継を実施するためには、相続問題・企業法務に精通した弁護士に相談するべきでしょう。
弊事務所の弁護士は、弁護士歴25年以上の経験の中、多くの専門性を要する相続・遺産分割、遺留分、企業に関する法律問題に関する相談を受け、事件を解決してまいりました。机上の法律知識だけでは得られない、多数の相談や解決実績に裏付けられた実践的なノウハウを蓄積しております。
また、弊事務所は税理士や公認会計士、司法書士とも緊密に連携しているため、弊事務所を窓口として、税金関係は税理士、企業会計は公認会計士、登記関係は司法書士に任せることができ、ワンストップでの対応が可能です。
事業承継についても、皆様に最適なサポートを提供いたしますので、お悩みの方は、是非一度、弊事務所にご相談ください。
弁護士による相続・生前対策の相談実施中!
岡本綜合法律事務所では、初回相談は無料となっております。
「遺産分割でトラブルになってしまった」
「不安なので相続手続きをおまかせしたい」
「子どもを困らせないために相続対策をしたい」
「相続税対策として、生前贈与を考えている」
「認知症対策に家族信託を組みたい」
などのニーズに、弁護士歴25年の豊富な実績と、税理士及び家族信託専門士を保有している弁護士がお応えいたします。
お気軽にご相談ください。
LINEでも相談予約いただけます!
当事務所の特徴
1、天神地下街「西1」出口徒歩1分の好アクセス
2、税理士・相続診断士・宅地建物取引士(宅建士)の資格所持でワンストップサービス
3、相続相談実績300件以上
4、弁護士歴25年の確かな実績
5、初回相談は無料
遺産相続のメニュー