遺言執行者を弁護士に依頼しておくべき理由
遺言執行者はすべての相続人の代理人であり,遺言を滞りなく執行することが仕事です。
遺言執行者にはだれを指定しておくべきでしょうか。
もちろん,遺言執行者には親族や相続人を指定することもできます。親族等を遺言執行者に指定した場合,遺言執行者の報酬も発生しないのが通常ですので,費用面ではメリットがあるかもしれません。
しかし,できる限り,遺言執行者には,遺言や相続に詳しい信頼できる専門家である弁護士に依頼しておかれることをお勧めいたします。
もちろん,弁護士などの法律専門家や信託銀行などに依頼した場合は遺言執行報酬が発生しますが,円滑な執行,トラブルの防止という意味では,費用以上のメリットがあるのではないでしょうか。
1.煩雑な手続からの解放
遺言執行者は就任してから,業務の完了までに概ね次のような業務を行わなければいけません。
●就任承諾をした旨を相続人全員に通知
●戸籍謄本等を収集して相続人を確定
●相続財産の調査をして,財産目録を作成し,相続人に交付
●法務局での各種登記申請手続
●各金融機関での預貯金等の解約手続
●証券会社での株式等の名義変更・売却手続
●その他の財産の換価手続
●遺言の執行状況の報告と完了の業務報告
●遺言執行の妨害をしている者がいる場合はその者の排除
●必要な場合には,遺言執行に必要な訴訟行為。
これだけ見ても,相当な業務であり,大変そうではないでしょうか。仕事を抱えた方だとなかなかスムーズに進めることは難しいでしょうし,金融機関も法務局も基本的には平日の日中しか対応してくれませんので,お仕事を休んで対応しなければならず,負担も大きいかと思われます。
2.相続人間の対立の防止
これに加えて,遺言の内容に不満を抱えている相続人や執行が円滑に進まないことで不満を募らせる相続人からの非難を受けることもあり,せっかく遺言を作成して遺言執行者まで指定したのに,親族間での紛争に発展する可能性もあります。
「なぜ俺ではなく,お前が遺言執行者なんだ?!」
「本当にこれが遺産のすべてなのか?」
「早く手続きを進めろ。遅いぞ」
など,ただでさえ負担が重い遺言執行業務を抱えながら,不満を抱える相続人との対応にも追われることになります。
また,逆に,遺言執行者である相続人が,自分が取得できる財産についてのみ,名義変更等の手続をして,その他の相続人が取得する財産に関してはその相続分を引き渡さなかったり,業務を放棄してしまう危険性も考えられます。
この点,相続手続に精通した弁護士に遺言執行者を依頼した場合には,相続人がストレスを感じる煩雑な業務から解放され,また執行手続も円滑に進み,結果として早期に財産を取得することができます。
また,公平な立場,専門家としての立場から手続を進めることで,相続人間の不信感が生じることを防ぐことも可能です。このように残された家族がもめないために遺言書を作成するのであれば,遺言執行者の指定についても専門家である弁護士を指定しておくのが望ましいといえるでしょう。
また,内容が複雑な遺言の場合,事業の承継のためなどに,形式的には不公平な割合での相続を考えている場合,遺贈がある場合など,相続人間でトラブルが生じる可能性がありそうな遺言を作成する場合などでは,相続の専門家であり,また唯一法的紛争を扱うことできる弁護士に遺言執行者への就任を依頼しておくことを検討すべきでしょう。
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