収益不動産を巡る相続トラブル
相続トラブルの多くは「不動産」が関係してきます。中でも、相続財産の評価額における不動産の価格が多数を占めるケースでは,スムーズに解決できないことも多いです。特に賃貸マンション、賃貸アパートなど収益不動産が含まれる場合、相続人間でその適正時価の評価につき合意が得られないこともしばしば見受けられます。
多くの方にとって、相続の当事者になることは多くありませんし、相続トラブルともなれば、初めての経験という方がほとんどです。しかも、被相続人が収益不動産を所有している場合、複数の法的トラブル(不動産の評価額、賃料収入の分配や管理方法など)が同時に発生するため、これらに対応するため同時並行で法的手続を進めていかないといけない場合もあります。
収益不動産を調査する
まずは、収益不動産の評価について調査をすることが必要です。
収益不動産の場合は、居住用不動産とは違い、評価額は収益価格(収益利回り)をベースに算定されることも多くあります。評価額算定の前提として、賃貸条件、入居者の属性,管理状況などをしっかりと把握する必要があります。特に、管理にまったく関与されていなかった相続人は、現実に管理している他の相続人に対し、資料や報告を求めるなどして、しっかり情報収集しなければなりません。
収益物件に関し、金融機関からの借入が残っている場合には、返済額と収益が見合っているかも検討する必要があります。
収益不動産の相続トラブル
遺産分割
遺産分割協議が成立した後は、その遺産分割によって収益不動産の所有権を取得した相続人が、収益不動産から生じる家賃や地代も取得します。管理・修繕費用も収益不動産の所有者となった相続人が負担することになります。
しかし、遺産分割においては、収益不動産の評価方法が複雑になり、この評価方法をめぐり、相続人間で激しい議論がなされることになります。
① 収益不動産の評価(時価)と相続税申告評価が乖離している
収益不動産が相続財産に含まれている場合,相続財産の評価額も大きくなり,相続税の申告が必要になることが多いです。
相続税申告における評価額は、土地については公示地価の概ね8割を目途に設定される路線価を基礎にして算定されます。さらに、小規模宅地等の特例に代表される不動産の評価を減額する特例が数多く存在していますので、もともと路線価をベースに算定された評価額がさらに減額されています。そのため,相続税申告における不動産の評価と,現実の時価とは乖離していることが多く,評価を巡って相続人間で意見が分かれることがあります。
② 収益不動産の評価額から債務を差し引くと主張している
収益不動産に融資・保証金等の相続債務がある場合、この問題も遺産分割と併せて解決する必要があります。
このようなケースでよくあるのが、収益不動産を相続する相続人が債務も相続することを前提として、収益不動産の評価額から債務を差し引いた額を自身の実質的な相続による取得額であるという主張です。形式的には間違った主張ではありませんが、時価よりも安く評価した収益不動産の評価額から時価の債務を差し引くという提案であれば、収益不動産の評価額は相当低額になってしまい、その他の相続人は相続分を大幅に減らされてしまうことにもなります。
遺産分割以外
① 収益物件の管理業務・賃料回収業務を遺産分割と同時並行で行う必要がある
相続開始から遺産分割協議が完了するまで、収益不動産は相続人全員の共有状態であり、賃料は各相続人が相続分に応じて取得することになります。また、その管理や修繕にかかる費用も共同で負担すべきということになります。
ただ、相続開始後、一般に被相続人の口座は凍結され、入出金ができなくなることがあります。この場合でも賃料は継続的に発生しますから賃料の振込口座をどうするか、だれが管理するのか等が問題になります。
このように,法的には,相続開始後,遺産分割協議成立前の賃料は法定相続分に従って受け取るとはいっても,毎月各相続人が,それぞれの法定相続分の割合で受け取るというのは現実的ではありませんし,賃料を払う賃借人が,そのような面倒なことに応じてくれるかも疑問です。そのため、相続人の中の誰かひとりが代表となって賃借人から賃料をひとまず受け取っておいて、ある程度まとまってからそれぞれに分配するという方法が一番スムーズと思われます。
ただし、これは相続人間で争いがなく、信頼関係があることが前提になります。最終的に精算してくれるか不安があるような相続人しかいない場合は取り得ない方法です。
また,不動産管理会社に,管理業務を委託している場合などであれば,不動産管理会社が,毎月各相続人に相続割合に応じた分配をしてくれる場合もあります。
このように遺産分割協議成立までの賃料は,遺産分割の対象となる相続財産ではありませんが,相続人全員が同意すれば,相続開始後協議成立までの賃料について,相続財産とあわせて分割協議のなかで決めてしまうこともあります。
② 相続税等の申告・納税のための協議が必要
相続税の申告・納税は、原則、相続開始から10か月以内に行わなければなりません。相続税の申告・納税期限までに遺産分割協議が成立しなかった場合、未分割のまま各相続人が法定相続分で相続をしたとの内容で相続税の申告・納税を行う必要があります。この場合,具体的に誰がどの財産を取得するのかが決まっていることを前提にする各種の特例を利用することができず,遺産分割協議後に最終的に負担することになる相続税よりも多くの金額を一旦納税しないといけない場合もあります。
また,遺産である預貯金を原資として納税するつもりであった場合,遺産である預貯金を解約・払い戻しするためには相続人全員の協力が必要であり、原則として相続税申告期限までに遺産分割を終わらせる必要があります。そのため、相続税申告を伴う遺産分割において,協議が紛争化した場合は、期限までに合意を取り付けて相続税を申告・納税することが困難になってしまうということもあります。
本来は事前対策として,遺言書を作成することで,申告期限までに誰が何を取得するのかが決まっていないという状況を避けるべきということになります。もっとも,遺言がなく,なおかつ期限までに遺産分割協議が成立する見込みがない場合の対策も考える必要があります。実務上は、相続人間で協議して,納税資金に足りる金額の範囲に限定して一部遺産分割協議を成立させ,金融機関から納税資金相当額の払い戻しを受けるという方法や不動産を共同で処分して売却代金から納税資金を準備する方法,遺産分割前の払戻し制度により預貯金の払い戻しを受ける(民法909条の2)方法,仮分割の仮処分による預貯金の払い戻しを受ける(家事事件手続法200条3項)方法,税務署に対し,延納申請をして相続税を分割で支払って行く方法,金融機関から融資を受けて相続税を支払う方法などがあります。
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