「相続させる」と「遺贈する」という遺言の違いは?
目次
Q.誰かに財産を残してあげるときの遺言の表現として,「相続させる」と「遺贈する」という表現があって,法律上,意味が異なると聞いたのですが,どのように違うのでしょうか?また,具体的にどちらの表現を使えば良いのでしょうか?
A.「相続させる」場合は相続人のみを対象にしますが、「遺贈する」場合は相続人でなくても対象となります。また、不動産を相続した場合は相続人単独で相続登記ができますが、不動産を遺贈で受け取った場合は、そうはいきません。詳しくは下記にまとめております。
相続と遺贈の違い①「対象となる人」
遺言書の内容で,よく見られる文言が,ある財産をある相続人に「相続させる」というものです。
このように特定の遺産をどの相続人に相続させるのか指定されている遺言を特定財産承継遺言と呼びます(民法1014条2項)。
この「相続させる」という文言は,特段の事情がない限り,何らの行為を要せずして,被相続人死亡時に直ちにその遺産はその相続人に相続により承継されるとされています(最判平成3年4月19日・民集45巻4号477頁)。
また、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の特定財産承継遺言は、原則として民法908条の遺産の分割の方法を定めたものである、ともされています(前出最判平成3年4月19日。「遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか、又は遺贈であると解すべき特段の事情がない限り、」という例外があります。)。
「遺贈」について
一方,「遺贈する」という表現も,お聞きになったことがあるかも知れません。遺贈とは,遺言による財産の無償譲渡をいいます(民法964条)。「遺贈する」という遺言を行った者を遺贈者といい,遺贈によって利益を受ける者を受遺者と呼びます。
受遺者は,必ずしも相続人でなければならない,ということではなく,相続人以外の者も受遺者になることができます。
もちろん,相続人も受遺者となることができます。特定の財産を遺贈することもできますし(特定遺贈),相続と同様に相続財産(プラスの財産とマイナスの財産(債務)を含みます。)の一定割合を遺贈することもできます(包括遺贈)。
「相続させる」と「遺贈する」の意味は,このように異なります。
相続と遺贈の違い①「受け取った側の性質」
前記のとおり「相続させる」遺言(特定財産承継遺言)の場合は、死亡と同時に、遺言書で指定された遺産はその相続人に相続により承継されることになりますので、不動産を「相続させる」とされた相続人は、単独で所有権移転登記が可能になります。
他方で、遺贈の場合は、受遺者(財産を送られる人)と法定相続人(または遺言執行者)との共同申請で所有権移転登記をしなければならず、相続人の協力が得られないケースもあります。
不動産に関しては、ほかにも
また、少し特殊なケースですが、「相続させる」、「遺贈する」とされて不動産を取得することになった方が所有権移転登記をする前に、他の法定相続人から法定相続分相当の持分を譲り受けた第三者がその不動産について所有権(持分)移転登記をしてしまった場合についても結論が異なります。また、この点は2019年7月1日から施行された改正民法によって大きく内容が異なっていますので、注意が必要です。
従来は、「相続させる」という文言を用いた場合には、所有権移転登記を具備しなくても第三者に対抗することができます(最判平成14年6月10日)ので、「相続させる」として相続した相続人は、その不動産についてされた第三者の所有権移転登記の抹消を求めることができることになっていました。
しかし、2019年7月1日から施行された改正民法により899条の2という条文が新設され、相続分を超える部分の相続による権利の承継については、所有権移転登記などの対抗要件を備えなければ第三者に対抗すること ができないこととされました(相続分を超えない部分については、これまでどおり、所有権移転登記などの対抗要件を備えることなく、権利の承継を第三者に対抗することが可能です。)。
つまり、特定財産承継遺言であっても、相続開始後、速やかに相続登記の手続きをしないと不測の損害を被る可能性があるので、注意が必要です。
一方,「遺贈する」という文言を用いた場合は,民法177条の適用があり,遺贈の登記をしなければ受遺者は第三者に所有権の取得を主張することができないとされています(特定遺贈について,最判昭和39年3月6日・民集18巻3号437頁)。
【相続登記の義務化との関係】
相続登記が令和6年4月1日から義務化されます。相続(相続人が遺贈を受けた場合も含む)による不動産取得を知ったときから3年以内に相続登記の申請をすることを義務づけ,正当な理由なく申請しない場合には,10万円以下の過料の対象となります。
相続登記義務化の対象は、特定財産承継遺言(財産を承継するのは相続人)と相続人に対する遺贈になります。一方で、相続人以外の第三者に対する遺贈については、所有権移転登記の申請は義務とはなっていません。したがいまして、相続登記の義務化は、特定財産承継遺言か遺贈かによって異なるものではなく、財産を承継するものが相続人か相続人以外の第三者かによって異なりますので、ご注意下さい。
遺言書には「相続させる」と記載したほうが相続人にとって有利
以上のとおり,法定相続人に遺産を取得させる場合には,「相続させる」という文言を使う方が,残された相続人にとって有利なことが多いといえるでしょう。
なお,相続人以外の者に遺言者の財産を承継させるためには,正確には「遺贈する」という表現を使わないといけませんが,間違って「相続させる」という文言を用いたとしても,それは遺贈であると一般的には解釈されることが多いです。
しかしながらこのように読み替えることを否定した例もありますので,文言は正確に使い分ける必要があります。この点でも,自筆証書遺言を作成される場合には,少なくとも専門家に相談しながら,作成されることをお薦めいたします。
借地権・借家権の取得における相続と遺贈のメリット・デメリット
相続では,被相続人のもとで形成されてきた財産関係が一体として相続人に承継されます。このことを包括承継といいます。
一方,遺贈は,特定の目的物(現金や,不動産,株など)を受遺者に与える特定遺贈と,遺産の全部又は一定割合で示された遺産の一部を受遺者に与える包括遺贈があります。
相続,特定遺贈,包括遺贈のそれぞれの性質の違いから,
①農地の承継の問題
②借地権ないし借家権の承継の問題
③不動産の登記手続きにおいて
「相続させる」と遺言に記載した場合と,「遺贈する」と記載をした場合に差異が生じてまいります。以下,この点について解説いたします。
農地の承継について
個人や法人の方が、耕作目的で農地を売買又は貸借する場合には、一定の要件を満たし、原則として農業委員会の許可を受ける必要があります。(許可を受けないで行った売買や賃貸借は無効となります。(農地法第3条))
これに対して,農地の所有権を相続により取得した場合には,事前に農業委員会の許可を得る必要はありません(農地法3条1項12号)。ただし、農業委員会に対し、「農地法第3条の3第1項の規定による届出」をする必要があります(同法3条の3、3条1項12号)ので,ご注意下さい。
この届出を怠ると、10万円以下の過料に処せられます(同法69条)。自らに農業を承継していく意思がない場合等、他に農地の担い手を必要とする場合には、この届出書の中で農業委員会によるあっせんを希望する旨の意思表示をすることができます。意思表示の方法は、「あっせん等の希望の有無」のうち、「有」を選べば大丈夫です。
相続の場合と同様,包括遺贈を原因とする場合についても,農地法の許可は不要とされております。
特定遺贈の場合では,相続人への特定遺贈については,農地法の許可は不要です(平成24年改正)が,相続人以外への特定遺贈については,農地法の許可が必要であり,農地法の許可がないと無効となり,不動産の名義変更手続きを行うことができませんのでご注意ください。
借家権・借家権の承継について
借地権とは,建物所有を目的とした土地賃借権(または地上権)のことをいい,借家権とは,賃料を支払って建物を借りている借主の権利のことをいいます(借地借家法)。
借地権の中でも,地上権を譲渡する場合は,地主の承諾は不要です。一方,賃借権の譲渡(借地権,借家権ともに)については,原則として,地主ないし大家の承諾が必要です(民法612条1項)。そのため,賃借権の譲渡を承諾してもらうにあたっては,承諾料を要求されることが多いです。
もっとも,相続は,被相続人の権利義務を包括的に承継することから,相続により借地権・借家権を承継する場合には,地主・大家の承諾は不要です。
これに対して,遺贈の場合は,難しい問題が生じます。
遺贈により借地権,借家権を譲り受ける者が相続人であるか否かによって,結論が異なるという考えが有力です。
遺贈で借地権,借家権を得る者が相続人であれば,相続に近い性質として扱われ,賃貸人の承諾が不要,あるいは背信性がないため,賃貸人は賃貸借を解除できないという解釈があります。しかしながら,明確に判例がない以上は,相続人に対して借地権,借家権を承継させたい場合には,遺言には「遺贈する」ではなく「相続させる」と記載をするべきでしょう。
これに対して,借地権,借家権を譲り受ける者が相続人でない場合には,売買や贈与などの一般的な取引に近いものと評価され,原則どおり賃貸人の承諾が必要となります。
不動産登記に関する「相続」と「遺贈」の差異
「相続させる」とされた遺言(法改正により,「特定財産承継遺言」といいます。)により不動産を取得すると定められている方は,その方が単独で,「相続」を原因とする所有権移転登記を行うことができます。
これに対して,「遺贈する」と遺言で定められている場合には,受遺者(遺贈を受けた人)が所有権移転登記をするためには,単独で登記申請できず,他の共同相続人と共同して登記申請する必要があります。この点,遺言によって遺言執行者が選任されている場合には,遺言執行者と受遺者との共同申請によって所有権移転登記をすることができます(民法1012条2項)。
遺言執行者を遺言で指定していればスムーズに手続きができますが,遺言書で遺言執行者が指定されていない場合には困難が伴います。この場合には,受遺者は,共同相続人と共同して登記申請をする必要がありますが,共同相続人の中に非協力的な者がいる場合や,行方不明の者がいる場合には,登記申請が円滑に進められません。
このような不都合を回避するためにも,法定相続人に不動産を取得させたい場合には,「遺贈する」よりも「相続させる」旨記載をし,加えて遺言執行者を指定しておくとよいでしょう。
まとめ
以上のように,遺言に記載する内容について,「遺贈する」,「相続させる」というほんの数文字違うだけで,結論に差が生じる可能性があります。ご自身のお気持ちを正確に遺言に反映させるために,また残された御家族がスムーズに財産の移転手続をとれるように,遺言作成について一度専門家にご相談下さい。
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