身寄りのいない私の死後、所有している共有不動産の持ち分はどうなりますか?

 私には、身寄りがいません。私は不動産を所有していますが、その不動産は友人との共有名義に 

 なっています。私の死後、所有している共有不動産の持分は、どうなるのでしょうか。共有者である友

 人に移転するのでしょうか。その場合、贈与という形になりますか。


A 「相続人がいないとき」、さらに「特別縁故者などがいないとき」にあたる場合、持分は、最終

 的に他の共有者に移転することになります(民法255条)

 

 ★特別縁故者とは

 

 

 なお、この場合、持分の移転は「贈与」にはなりません。

 

 贈与とは、『贈与者(財産を譲る側)が、受贈者(財産を受け取る側)に対して、財産を無償で譲る旨の意思表示を行い、受贈者(財産を受け取る側)が承諾して成立する契約』になります。

 

 しかし、民法255条という法律の規定によると、共有不動産の持分が移転することになりますので、契約ではありません。そのため、贈与にはなりません。

 

 以下で、「相続人がいないとき」(民法255条)の解説と、民法255条により、持分を譲り受ける際の注意点について解説します。

   

「相続人がいないとき」(民法255条)の解説

 

「相続人がいないとき」とは

 

 民法255条には、「共有者の一人が・・・死亡して相続人がいないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。」という規定が設けられています。

 

 他の共有者に帰属しなければ、持分が国庫に帰属してしまうため、不動産が、他の共有者と国との共有になってしまいます。こうした煩雑な事態が生じることを避けようとするため、民法で規定されました。

 

 そのため、「相続人がいないとき」とは、相続財産たる持分本件のQ&Aでは、共有不動産の持分になります。)が、国庫に帰属するしかないという状況になったときとされます。

 

相続財産が国庫に帰属する場合とは

 

 ① 相続財産が、国庫に帰属する場合にあたるためには、被相続人(亡くなった

  方)の相続人がいないことが明らかである必要があります。

 

 【相続人がいないことが明らかである条件】 

  ・戸籍上の相続人がいないことが明らかな場合

  ・相続人全員が廃除などにより相続資格を失った場合

  ・相続人全員が相続放棄をした場合

 

 自分の死後の手続きなどを任せる人がいないという意味で、「身寄りがいない」と言う場合には、兄弟姉妹が生存していることもあります。この場合、兄弟姉妹が相続人となりますので(民法889条1項1号)、相続人がいないことが明らかであるときにあたりません。

 

 

 ② 相続人がいない場合であっても、相続財産清算人を選任し、その後、特別縁故者の請求に基づい

  て、家庭裁判所が、特別縁故者に対する相続財産の分与を行う場合(民法958条の2第1項)に

  は、相続財産が国庫に帰属することになりません。

 

   特別縁故者とは、「被相続人(亡くなった方)と生計を同じくしていた者」「被相続人(亡くなっ

  た方)の療養看護に努めた者」「その他被相続人(亡くなった方)と特別の縁故があった者」をいい

  ます。特別縁故者は、親族関係の有無ではなく、密接な実質的関係の有無によって判断されます。

 

   内縁配偶者や事実上の養子が典型例ですが、付添看護師などに認められた例もあります。

 

 あわせて読みたい>>「相続財産清算人の選任が必要になるケースとは何でしょうか?(上篇)」

 

 

 ③ 特別縁故者に対する相続財産の分与(民法958条の2)と、民法255条の「共有者の一人が・

  ・・死亡して相続人がいないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。」は共に、「相続人が

  ない」場合の規定です。

 

   前者と後者の規定では、前者を優先する扱いになっています。これは、被相続人(亡くなった方)

  が、他の共有者よりも、特別縁故者の方に自身の財産を与えることが通常と考えられること・特別縁

  故者の被相続人(亡くなった方)の財産を受け取ることへの期待を保護する必要 があるからです。

  特別縁故者に対する相続財産の分与の方が優先することは、裁判でも認められています(最判平成元

 年11月24日民集43巻10号1220頁)。

 

 本件のQ&Aでは、「相続人がいないとき」、また、特別縁故者に対する相続財産の分与もないときに、はじめて、共有不動産の持分が他の共有者に移転することになります。

 

 もし仮に、他の共有者が、共有不動産の持分を自らに移転させることを希望した場合、相続財産清算人の選任を家庭裁判所に申立てる必要があります。

 

 相続財産清算人の選任の申立を行う場合は、家庭裁判所に予納金を納める必要があります。この予納金は、選任される相続財産清算人の報酬に対する担保のためで、その金額は100万円程度になります。申立てから手続きが終了するまでには、1年近くの時間がかかることになります。

 

 あわせて読みたい>>「相続財産清算人の選任が必要になるケースとは何でしょうか?(下篇)

 

相続税について

 

 民法255条の規定(「共有者の一人が・・・死亡して相続人がいないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。」)により、共有不動産の持分を取得した場合には、その持分に応じて遺贈(※遺言により、その一方的意思によって行う財産処分のこと)により取得したものとして、相続税を課税されることになります。

 

相続財産の評価時点

 

 相続税を計算する際、相続財産の評価は、相続開始時点となります。これは、共有持分を、遺贈により取得したものとみなされることから、遺贈の場合と同様に相続開始の時となります(国税庁ホームページ

 

相続税の申告期限

   

 相続税の申告期限は次のとおりになります。

 

 ① 特別縁故者による相続財産の分与の請求がない場合

    特別縁故者の財産分与の請求期限の満了日の翌日から10ヶ月以内

 

 ② 特別縁故者による相続財産の分与の請求がある場合

    分与額または分与しないことの決定が確定したことを知った日の翌日から10ヶ月以内

 

国税庁ホームページ

  

登記について

 

 他の共有者は、家庭裁判所が発行する「特別縁故者不存在に関する証明書」をもって、不動産登記の手続きをすすめることになります。

 

まとめ

 

 被相続人(亡くなった方)に「相続人がいないとき」には、その持分は他の共有者のところに移転することになります(民法255条)。

 

 相続人がいる場合や、特別縁故者に対する相続財産の分与が認められる場合には、他の共有者に共有不動産の持分は移転しません。

 

 被相続人が、他の共有者に対して、共有不動産の持分の移転を希望する場合には、遺言書を作成することで、確実に共有不動産の持分を移転することができます。遺言書の作成には注意すべき点がありますので、専門家である弁護士に相談するのがおすすめです。

 

 当事務所は、弁護士歴26年以上の弁護士が在籍しており、多くの専門性を要する不動産に関するご相談を受けてきました。机上の法律知識だけでは得られない、多数の相談や解決実績に裏付けられた実践的なノウハウを蓄積しております。

 

 こういった経験から、不動産の共有関係の問題はもちろん、相続全般について、皆様に最適なサポートを提供いたしますので、お悩みの方は是非一度、当事務所にご相談ください。

 

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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