経営者世帯における遺留分問題について(事業承継と相続トラブルの回避策)

1.今回のポイント

  今回のテーマのポイントは次の3つです。

  ① 経営者の相続は、通常の相続以上に遺留分の争いが起きやすい。

  ② 自社株式や持分の払戻請求権の評価額で争いになりやすく、評価方法も専門的な知識が必要となる。

  ③ トラブルを未然に防ぎ、スムーズな事業承継と円満な相続を実現するためには、早期に専門家に相談し、適切な遺留分対策を行うことが不可欠である。

2.経営者の相続

  被相続人が経営者である場合、公務員や会社員の場合と異なり、預貯金や自宅不動産の他に経営する会社をどのように承継していくのかという問題が生じます。

  安定した事業承継をするためには、誰に、いつ、どのように会社を引き継がせるのかを決めていく必要があります。

  後継者である相続人が被相続人の経営する株式を相続した場合、株式しか相続できず、他の財産を相続できないという結果が生じる可能性があります。また、遺言書や生前贈与により株式等を承継させようとしても遺留分の問題は避けて通れません。

  ここでは、経営者世帯における遺留分問題について解説していきます。

3.遺留分侵害額請求の基本と時効

  遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人である配偶者、子及び直系尊属(父母など)に最低限保障されている遺産の取得割合のことをいいます。これは、生前贈与や遺言書において、特定の相続人や第三者に財産を集中させたとしても、最低限のものとして保証されます。

  遺留分の割合は、原則法定相続分の2分の1となっています。相続人が父母のみの場合は、3分の1となっています(民法第1042条第1項)。

  遺留分を侵害された相続人は、遺言書や生前贈与により遺留分を侵害している受遺者や受贈者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます。

  例えば、被相続人の財産が1200万円、相続人が配偶者と子ども2名の場合、法定相続分に従ったとすると、配偶者が2分の1の600万円、子どもは1人当たり4分の1の300万円を相続することになります。

仮に遺言書により配偶者が全ての財産を相続した場合は、子どもは法定相続分の2分の1、つまりは、8分の1相当にあたる150万円の遺留分が侵害されていることになります。そこで、子どもは、配偶者に対して、1人当たり150万円を請求する権利を有していることになります。

  遺留分は、いつまでも請求できるわけではありません。遺留分権利者が相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知ったときから1年間で時効となり請求ができなくなります。

また、相続開始から10年間経過した場合も同様に請求ができなくなります(民法第1048条)。

 

遺留分について詳しくはこちら

 ★遺留分侵害額請求についての記事

 

4.経営者の相続で遺留分が問題になる理由

  円滑な事業継続のため、自社株式や持分の払戻請求権を法定相続分で相続人に分割して相続させるのではなく、後継者である特定の子または第三者に集中して承継させるのが定石といえます。

  しかし、特定の子または第三者に集中して承継させた場合、他の相続人の遺留分を侵害する可能性が高くなります。

  株式市場に上場していない(非上場企業)の自社株式や合同会社等の持分払戻請求権は、会社の資産状況、特に業績次第で高額な評価になることがあります。評価額が大きくなればなるほど、遺留分侵害額も高額になる傾向にあります。

  非上場会社の自社株式は、流通性がないため、現金化が難しいだけでなく、現金化してしまうと経営権を奪われてしまうため、事実上現金化することもできないので、別途遺留分侵害額請求に備えるために別途金銭を準備する必要があります。合同会社等の持分の払戻請求権も同様です。

  また、被相続人が経営者である場合、自社株式に加えて、個人の不動産や金融資産なども多岐にわたりますし、会社が事業用に使用している不動産が社長個人の名義であるケースなどもあり、相続財産の範囲や評価を巡って争いになりやすい傾向があります。

5.経営者の相続で遺留分侵害額請求における特有の問題

 (1) 遺産の範囲について

   経営者の相続においては、自社株式や持分の払戻請求権が遺産の中心となるケースが多いです。遺留分算定の基礎となる財産に、生前贈与や遺贈された自社株式や持分の払戻請求権が含まれるかどうかが重要な争点となります。もちろん、自社株式だけでなく、個人名義の預貯金や不動産も遺産の範囲に含まれます。

 (2) 生前贈与など特別受益

   特別受益とは、相続人が被相続人から生前に受けた特別の利益(生計の資本としての贈与や遺贈など)をいいます。

   遺留分の算定の基礎となる財産は、相続開始時に被相続人が保有している財産のほかに、相続開始前10年間になされた相続人への特別受益と相続開始前1年間になされた相続人以外への贈与が含まれます(民法第1046条第2項)。

   経営者の場合、後継者が事業開始資金や自社株式及び持分の払戻請求権の贈与を受けたことが特別受益として認められる可能性があり、遺留分算定の際に考慮されることになります。

  第三者が後継者であっても、相続開始の1年以内の事業開始資金や自社株式及び持分の払戻請求権の贈与は遺留分算定の際に考慮されます。そのため、遺留分侵害額請求者の後継者に対する請求額が高額になる可能性があります。

 (3) 遺産の評価について

   遺産の評価に関しては、通常の相続であれば、不動産の評価額で争うことがほとんどです。しかし、特に非上場企業の自社株式及び持分の払戻請求権や事業用不動産の評価が争いの中心になることも多いです。

   税務上は、自社株式の評価方法は、大きく3つの方法があります。

   まず、類似業種比準方式です。これは、株式市場に上場していて、事業内容が共通する会社の株式評価を参考に自社株式や持分を評価する方法です。株式市場の価格を前提にするため、一定の明確性はありますが、参考にする会社によって評価が変わります。

   次に、純資産価格方式です。これは、会社の総資産から株式や持分を評価する方法です。当該会社の帳簿から算定するため、明確ではありますが、税務上の評価では簿価から算定するため、実際の動産や不動産の評価額とは異なる評価を前提として算定することとなります。

   最後に配当還元方式です。これは、1株あたりの配当率をもとに株式の評価額を決める方法です。この方法は、比較的簡易に算定ができますが、主に少数株主の相続の際に利用されること、配当をしていない会社では使えないことに注意が必要です。

   上記評価方法は、会社の規模や資産状況等により使い分けることとなります。また、あくまで税金上の評価方法ですので、遺留分侵害額訴訟では異なる評価方法により算定される可能性があることにも注意する必要があります。

   持分の払戻請求権は、純資産価格方式を利用することが多いようです。

   自社株式及び持分の払戻請求権の評価は、専門的な判断が必要となりますので、専門家に判断してもらう必要があります。

   事業用不動産については、固定資産税評価額、路線価、不動産業者の査定に基づく査定書、不動産鑑定士による鑑定額など、評価方法は様々です。

不動産の評価ついて詳しくはこちら

 ★相続不動産の査定とは?~評価額の算出方法について~

 ★不動産の評価方法は、どのようなものがありますか?評価方法に決まりはありますか?

 

6.生前の遺留分対策について

  将来のトラブルを避けるために、経営者世帯では生前に適切な遺留分対策を講じることが極めて重要です。

 (1) 遺言書の作成と遺留分への配慮

   事業に必要な資産は後継者に、その他の資産を後継者以外の相続人に残すなど、遺留分を侵害しないように配慮した遺言書を作成します。

   また、後継者に資産を多く残す理由を付言事項にしっかりと記載することで、他の相続人への理解を促し、紛争を未然に防ぐことができます。

 (2) 生命保険の活用

   後継者である相続人を生命保険の受取人とし、その生命保険金を遺留分侵害額の支払いに充てられるよう準備しておくことが考えられます。生命保険金(死亡保険金)は受取人固有の財産であり、原則として遺産分割の対象にならないため、遺留分侵害額請求を受けた際の資金を確保することができます。

 (3) 早期の生前贈与

   自社株式などを後継者に対して、相続開始より10年以上前に贈与することで、遺留分算定の基礎財産から除外することができます。

   相続人ではない第三者に承継させる場合は、相続開始の1年前までに贈与することで、遺留分の算定の基礎財産から除外することができます。

 (4) 株式を買い取る方法

   また、株式評価額が低いうちに(株式評価額が低くなった時期に)、被相続人から後継者に対し、適正価格で株式を売却するという方法も考えられます。この場合、贈与ではありませんので、遺留分の算定基礎財産にはなりません。ただし、どこまで株式の評価額を下げられるのか、また後継者が買取資金を準備できるのかという問題がありますので、専門家に相談してご対応ください。

 (5) 特例の利用

   中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下、「円滑化法」といいます。)に定められている特例を利用する方法が考えられます。円滑化法に定める遺留分に関する民法の特例は、特定の要件を充たすことで、遺留分の算定から除外(除外合意)したり、財産の評価額を相続時ではなく合意時に固定(固定合意)したりすることで、遺留分侵害額請求の負担を減らすことができます。

   しかし、経済産業省の確認や家庭裁判所の許可等、要件と手続きが厳格に定められていることや、全ての推定相続人の同意を取り付けるのが難しいことなどから、現実の利用件数も低迷しており、この特例を利用するか否かについては、専門家に相談することをお勧めします。

7.まとめ

  経営者世帯の遺留分問題は、事業の存続に直結する自社株式の評価・承継という特殊性から、一般の相続よりもトラブルになりやすく、複雑かつ深刻になりがちです。

  トラブルを未然に防ぎ、スムーズな事業承継と円満な相続を実現するためには、早期に専門家に相談し、適切な遺留分対策を行うことが不可欠です。

  事業の承継を円滑に行う上で、少しでも不安に感じる場合には、専門家に相談することをお勧めします。

 

  遺産分割や遺留分に関する問題については、考慮すべき法的な問題が多数あることから、専門家である弁護士に相談することがおすすめです。

当事務所には、弁護士歴28年以上の弁護士が在籍しており、多くの相続に関するご相談を受けてきました。机上の法律知識だけでは得られない、多数の相談や解決実績に裏付けられた実践的なノウハウを蓄積しております。こういった経験から、遺産分割や遺留分など相続全般について、皆様に最適なサポートを提供いたします。お悩みの方は是非一度、当事務所にご相談ください。

 

 

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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