家族の仲が良くても遺言書を作る必要はありますか?

Q うちの家族は仲が良く,お盆や正月など,節目には必ず実家に集まり,食事をしたり,互いの近況を報告し合ったりしています。相続でもめることはないと思うので,遺言書を作る必要はないのではないでしょうか?

A.遺言は,全ての方が書かれることをお勧めします。遺言を書くべき理由の一つには,相続に関する親族(相続人)間の紛争リスク(争族のリスク)をグッと抑えることができるから,という点があります。しかし,遺言を書いておくべき理由は,それだけではありません。遺言書があれば,相続に関する様々な手続の負担を軽減することができます。

 

権利関係の複雑化を防止

相続財産は,原則として,相続人が複数いる場合,各相続人による共有状態となります(民法898条)。共有状態になると,各相続人は,その持分に応じた使用をすることになりますので,自分では利用しない土地を他人に売ったり,古くなった建物を取り壊したりということも,単独では行うことができず,各相続人間で話し合って,合意に達しないと処分できないという事態が起こります。これでは法律関係が極めて複雑になりますし,実際の財産管理としても非常に煩雑になります。

 

仲が良い関係をずっと継続するために

そこで,多くの場合は,相続人間で誰がどの財産を承継するのかについて協議することになります(遺産分割協議)。

ここで話し合いがまとまれば良いのですが,話し合いがまとまらない場合,このことをきっかけに,せっかく仲の良かった親族間において,紛争に発展する可能性は十分にあります。残念なことですが,仲の良かった親族が,遺産の分け方を巡って争いになり,親族関係が断裂してしまうという例は少なくありません。

 

しかし,きちんとした遺言があれば,そもそも遺言作成者の死亡後に遺産分割協議をすることなく財産の承継等を行うことができます。このように,遺言書の存在により遺産分割協議という手続を経る必要がなくなりますし,誰がどの財産を引き継ぐのかが既に決まっていますので,そこで争いになる可能性も格段に低くなるということにもなります。折角仲の良い親族であれば,良好な関係が永続するように,遺言書をしっかり作成して,争いの種を摘んでおくということは重要なことではないでしょうか。

 

手続を簡略化できる

また,遺言書がなくても,結果として円満に遺産分割ができる場合もあります。ただ,遺言がない場合には,各種遺産の名義変更手続きのために,相続人であることを明らかにするための被相続人の出生から死亡までの全戸籍等謄本や相続人全員の戸籍謄本,相続人全員が実印を押した遺産分割協議書など多くの資料を揃える必要があるのに対し,遺言(特に公正証書遺言)がある場合には,これらの資料の一部は不要であり,資料を揃える手間暇や遺産分割協議を行う手間暇などが省略できるなど,手続も非常に簡略化できます。

やはり,愛する家族を失って,精神的にも落ち込んでいる時期ですので,煩雑な手続が簡略化できるのは大きなメリットといえるのではないでしょうか。

 

相続税対策にも効果が

また,税金対策上も,遺言書の作成は極めて重要になります。相続税に関する様々な優遇制度の適用を受けるためには,相続税の申告期限(被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内)までに,どの相続人がどの相続財産を相続するのか,決まっている必要があります。

遺言書がなければ,これを遺産分割協議において決めていくことになりますが,スムーズに決まらないことも十分に考えられます。

しかし,上記のとおり,遺言があれば,その内容次第では,遺産分割協議を行わなくても,どの相続人がどの相続財産を相続するのか決まっています。したがって,相続税に関する優遇制度の利用も容易になる,というメリットもあります。

 

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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