亡くなった親の土地に,兄弟が自分名義の家を建てて親の土地を無償で使っている場合の遺産分割はどうなりますか?

Q.私の父が,先日亡くなりました。相続人は,母,妹と私の3人です。
 父の財産は,預貯金の他に,A土地があります。
 妹は,A土地に妹名義の建物(B建物)を建てて,そこに住んでいます。妹は地代を父に支払っていませんでした。
 この度,父の相続に関して,相続人全員で遺産分割をすることとなりました。私は,妹のように,父の不動産の無償使用をしていません。妹にB建物の取壊しをさせてまで,A土地を欲しいとまではいいません。ただ,妹が父の土地を無償で使用していた点を考慮した遺産分割をするべきと考えているのですが,私の主張は法的に認められるのでしょうか?


A.お父様が妹様に土地を無償で使用させていた場合,特別受益に該当する可能性があります。ただし,遺産分割の方法によっては,特別受益に該当するとしても,あなたが取得できる財産の額が増加する訳ではありません。

 

不動産を無償で使用させるとどうなるの?

 被相続人(死亡した人のことをいいます。)の遺産である土地の上に相続人の一人が被相続人の許諾を得て建物を建て,その土地を無償で使用している場合には,被相続人が相続人に使用借権を設定していると評価されます。

 

 本件の事案においては,お父様は,A土地について,妹様に対して使用借権を設定していると評価されます。

  
 使用借権とは,噛み砕いて言うと、無償で物を借りる権利のことをいいます。

 

 不動産の使用借主は,不動産の保管に要する「通常の必要費」を負担することとされております。そして,ここでいう通常の必要費には固定資産税も含まれると考えられております。

 

したがいまして,本件の事案で,借主である妹様が,貸主であるお父様に固定資産税に相当する金銭を支払っていたとしても,賃貸借ではなく使用貸借にあたると評価される可能性が高いです。

 

遺産の無償使用(使用貸借)による利益が特別受益にあたる?

 遺産を無償使用させることが,使用貸借に該当しうることは上記のとおりです。

 

 では次に,遺産である土地についての使用借権の設定が特別受益に該当し,遺産分割に影響を与えるのかについて解説していきます。

 

特別受益とは

 特別受益とは,相続人が被相続人から受け取った特別な利益のことです。
 

 被相続人の生前,一部の相続人だけが被相続人から多額の贈与等を受けていた場合、そのことを考慮せずに遺産分割を行うと,相続人間で著しい不公平が生じます。このような被相続人からの贈与等は,いわば,相続財産を相続人に前渡ししているようなものだからです。

 

 そこで、相続人が特別受益にあたる多額の生前贈与等を受けていた場合は,その贈与等の額を死亡時点で存在した遺産の額に加えた金額を遺産の総額であるとみなして各相続人の相続分を計算したうえで,生前贈与を受け取っていた相続人の相続分から既に受け取っている生前贈与の額を差し引くという処理(これを「持ち戻し」といいます。)を行うことになります。

特別受益について詳しくはこちら

 

使用借権の設定が特別受益か

 相続人が,被相続人から設定された使用借権は,基本的には,特別受益に該当するとされています。具体的にいいますと,被相続人の遺産である土地に,被相続人の生前,自己の建物を建てて,土地を無償で使用している相続人は,土地の使用借権の生前贈与を受けたものとして,土地の使用借権相当額について特別の利益を受けたと考えることになります。


 ここでいう使用借権相当額は,土地を更地として評価した価格の1~3割程度(地上建物が木造等の建物である場合は,1割程度)とされております。


 本件の事案では,妹様は,A土地の使用借権相当額であるA土地の価格の1~3割程度の特別受益があると考えられます。


 もっとも,妹様が,お父様に一緒に住むようにお願いをされてA土地上にB建物を建築し,お父様を扶養することと引き換えに地代を払っていないような場合には,扶養の負担と土地の利用は対価関係にあると評価され,特別受益でないとされる場合もあります。

 

 また,特別受益にあたるとしても,必ずしもあなたが取得できる財産の額が増えるということにはなりません。なぜなら,妹様がA土地を取得する場合,

  • ①生前に設定された使用借権は特別受益になり,使用借権の評価額相当額が持ち戻されますが,
  • ②A土地は使用借権の負担付の土地であり,その評価は更地評価から使用借権の評価額を減額して評価されますので,
  • ③結局,妹様が取得する財産の評価は①+②=更地の評価額ということになるからです。

 

特別受益の持戻し免除とは?

 使用借権の設定が特別受益にあたったとしても,被相続人が持戻し免除の意思表示をしている場合があります。遺言や何らかの文書に明記されておらず,持戻し免除をしているかが明確ではない場合は,贈与をした経緯や,被相続人が受贈者から利益を得ていたか等の諸事情を考慮して総合的に判断します。

 

 そして,持戻し免除の意思表示が認められれば、遺産相続の手続きにおいて、生前贈与を「特別受益」として相続財産の価額に加える必要はなくなります。

※ 別途遺留分侵害の問題が生じる場合はあります。

 

賃料相当額も特別受益にあたる?

 なお,使用借権相当額に加えて,無償で土地を使用しているということは,土地の地代相当額の利益を得ているとも考えられますので,地代相当額についても特別受益に該当するのではないかという疑問を感じる方もいるかもしれません。

 

 この点については,裁判例(東京地判平成15年11月17日)は,

使用期間中の使用による利益は,使用貸借権から派生するものといえ,使用貸借権の価格の中に織り込まれていると見るのが相当であり,使用貸借権のほかに更に使用料まで加算することには疑問がある 「東京地判平成15年11月17日)」

として,地代相当額についての特別受益該当性を否定しています。このように,実務上は,地代相当額については特別受益にならないとされています。

 

建物の無償使用の場合

 冒頭の事案とは違い,お父様名義の建物を無償使用していた場合には特別受益に該当するのでしょうか?


 この点については,お父様名義の建物に妹様が同居しているときは、妹様に独立の占有が認められず,そもそも使用貸借契約が成立しているとはいえないことも多く,また扶養の範囲内とも考えられますので,特別受益とはならないと考えられます。

 

 これに対して、お父様の建物について妹様が独立して占有するときは、使用貸借契約の成立を認めることができます。ただし,この場合も,一般的に,特別受益は認められないとされています。その理由としましては,建物の使用貸借は親族間における恩恵的要素が強く,特別受益の特徴である遺産の前渡し(遺産が減少する)という要素が弱いこと等が挙げられています。

 

 なお,いわゆる収益物件で本来賃貸して賃料収入を得られていたものを相続人に無償使用させていた場合には,本来得られたであろう賃料を得られなかったことから,遺産の減少と評価できるとして,例外的に賃料相当額が特別受益になり得るかもしれないという見解も存在しています。ただし,調停等の実務ではこの見解は採用されていないものと思われます。

 

本件についての弁護士としての対応

 あなたから依頼を受けた場合,弁護士としては,まず,お父様の相続人及び相続財産を調査します。

 

 そして,相続財産を調査して不動産,使用借権の存在が明らかになれば,これらについて不動産鑑定士に依頼するなどして価値を評価します。

 

 これらの調査を経て,遺産の全体像,特別受益の額等を明らかにしたうえで,他の相続人の方々と遺産分割の話合いを進めていきます(ただし,前記のとおり使用借権の評価についても顕在化しない場合もあります。)。また,遺産を調査した結果,相続税が発生する可能性がある場合には,税理士と連携して,税務申告についてもサポートします。

 

まとめ

 それでは今回の内容を確認しましょう。

  • 遺産である不動産を無償使用させることは,使用貸借契約に該当します。
  • 遺産である土地を,一部の相続人に無償で使用させていた場合,使用借権相当額が特別受益に該当する場合があります。
  • 特別受益に該当すれば,その額を相続財産に加算して相続分を算定します。ただし,当該土地は使用借権付きの土地として評価されるために,結果として特別受益の問題として顕在化しないことも多いです。
  • 特別受益にあたったとしても,被相続人が持戻し免除の意思表示をしている場合があります。持戻しの免除がされると,生前贈与を特別受益として相続財産の価額に加える必要はなくなります。
  • 建物の無償使用については,その賃料相当額は特別受益にならないとする見解が一般的です。

 

 被相続人の遺産である不動産の無償使用のケースは,相続人間において,使用借権にあたるのか,使用借権相当額がいくらなのかについて揉める可能性があります。また,十分な預貯金がない場合は,不動産を取得できない相続人に対する代償金を支払うことができず,トラブルが発生する可能性が高いといえます。


 したがいまして,一部の相続人による,被相続人の不動産の無償使用がある場合には,相続手続に精通した専門家に相談をすることが重要です。

 

 当事務所の弁護士は、弁護士歴25年以上の経験の中、多くの専門性を要する相続・遺産分割の相談を受けてきました。机上の法律知識だけでは得られない,多数の相談や解決実績に裏付けられた実践的なノウハウを蓄積しております。

 

 こういった経験から,遺産分割はもちろん,相続全般について,皆様に最適なサポートを提供いたしますので,お悩みの方は,是非一度,当事務所にご相談ください。

 

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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