会社を経営していた親が急死しました。今後どうしていけばいいのでしょうか?
目次
Q 私の父は,先日亡くなりました。相続人は,母,妹と私,さらに母の違う兄弟(長年連絡をとっていません。)が一人います。
父は会社を経営していたこともあって,財産は,父個人の預貯金,不動産の他に,経営していた会社の株式など多岐にわたります。また,細かいことは分かりませんが,借金も色々あるみたいです。なお,父は遺言を作成しておらず,突然亡くなってしまいました。
この度,父の相続に関して,相続人全員で遺産分割をすることとなりました。会社の株式や不動産等の評価,誰がどの財産を取得するのか等について相続人間で意見が対立しています。また,父の借金についてもどのように処理してよいのか分かりません。
このような場合,どのようなことに注意をすれば良いのか,色々教えて下さい。
A 会社を経営されていた方が遺言を作成していなかった場合には,経営していた会社の株式の評価や経営権の帰属等を巡って事件が複雑・長期化しやすいです。適切かつ迅速な事件解決のために,相続及び企業法務の経験が豊富な弁護士に相談されることをオススメします。以下に,一般的に注意するべきことをお伝えいたします。
経営者に相続が発生した場合,相続財産が多岐にわたります。
経営者(以下,本ページでは,大株主である経営者を想定して説明します。)が死亡し,相続が発生した場合には,財産が多種かつ大量になる場合が類型的に多いです。
例えば,自身の経営する会社の株式や,不動産,預貯金,上場株式,債券,貸付金,動産等(骨董品や絵画等)などです。
いくつかの種類の財産についての手続きを簡単に説明します。
株式
株式は,通常の相続手続と共通する部分も多いですが,上場株式は,相場の変動に伴って価値が大きく変動する可能性があること,非公開株式の場合には評価の算定が困難であることや譲渡を自由にできず複雑な手続きを要する場合があること等に注意が必要です。
大株主である経営者が死亡した多くの場合,非上場株式の相続が発生します。非上場株式については,客観的な市場価格というものがないのが通常であり,そうすると,評価額が客観的に定まりません。その場合,一般的には、国税庁の財産評価基本通達において定められた方法や,会社法上の株式買取請求における株価算定方法を参考に,非上場株式の評価を行うことになります。
具体的には,純資産価額方式,配当還元方式,類似業種比準方式などの複数の方法が存在し,いずれかの方法を用いたり,また,これらの方法を複合的に組み合わせて評価を行い,相続人間の合意を目指して協議します。
遺産分割が当事者だけでは解決できない場合,家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てて,裁判官や調停委員に間に入ってもらったうえで,話し合いを行うことになります。
また,経営者の株式については,評価額の問題だけでなく,経営権を誰が獲得するのかについても大きな紛争が生じる可能性があります。
不動産
不動産についても,相続人間で,不動産の評価額や,誰が不動産を取得するのかについて,紛争が生じやすいです。
まず,固定資産税の評価額や路線価,不動産会社の査定等から,不動産の評価額を算出することになります。そのうえで,不動産の取得を希望するのか,あるいは他の相続人が取得するのか,それとも売却して金銭を分けるのか等について交渉をしていきます。
特に経営者は,収益不動産を持っている場合も多く,その場合はより複雑になりやすいです。
そして,何よりも大変なのは,相続財産である被相続人名義の不動産が,会社の事務所や工場等の事業のために利用されている場合です。この場合,経営を引き継ぐ相続人において当該不動産を取得しないと,他の相続人から立退きを求められるなどの事態が生じる可能性もあります。
会社への貸付金
相続の対象となる財産には,貸付金などの「債権」も含まれます。
中小企業では,会社が軌道に乗るまでの運転資金や,業績が悪化した際の運転資金などとして,経営者が会社に資金の貸し付けを行うということはよく行われていることです。
貸付金が返済されず,残っている状態で経営者が死亡した場合には,貸金の返還を求める権利が相続の対象になります。
法的には,貸付金返還請求権等の債権は,相続と同時に,各相続人が法定相続分の割合で債権を取得することになります。
その結果,被相続人である経営者自身の存命中は,返済を求めずに会社経営をしてきたところ,相続が起こったことによって法定相続分の割合で債権を取得した相続人の一部が,貸付金の即時返済を求めるという可能性もあります。
このような事態になると,会社ないし会社の経営を引き継いだ相続人としては,対応に苦慮することになります。
被相続人が経営していた会社の株式はどうなるの?
オーナーである経営者が死亡した場合,その経営者が有していた自社の株式は,遺言がない場合は,相続人が相続分に応じて共有することとなります。
従いまして,本件の事案では,母と妹だけではなく、母親の異なる疎遠な兄弟とも,会社の株式を共有していることになります。
相続においては,相続人間で争いが生じ,遺産分割協議が長期にわたってしまうことも少なくありません。とりわけ,中小企業において,株式が相続され,共有となった場合に,誰が会社を継ぐかということについて相続人間で争いが生じることもあります。
例えば,遺言書は作成していないが,死亡した経営者が,常日頃,本件事案の質問者を後継者にすると周りに言っていた場合はどうでしょうか?
このような場合であっても,遺言がない以上,遺産分割協議が成立するまでの間は法定相続分の割合で株式を共有する状態となってしまいます。共有となった株式は、そのままでは権利行使することができません。
共有者間において,権利を行使する人を定めたうえで、会社に対して通知し,株主としての権利を行使することが必要になります(会社法106条)。この場合、権利を行使する者は共有者の過半数で決することになりますので、権利行使者を決定できないという事態が生じることもあり得ます。
非上場株式であり,被相続人が経営者かつ大株主であるような場合には、相続人間で協議が成立しないと、経営権を巡る争いが生じたり,会社として重要な決定ができなくなることもありえますので注意が必要です。
こういった事態を避けるために,経営者は,遺言により,自身の経営する会社の株式を取得する人を指定しておいたり、後継者に対し、計画的に株式の譲渡を進めていくなどの対策をとっておくべきでしょう。
経営者が行う相続対策
資産の整理
まず、会社資産と個人資産の区別を明確化し、相続の対象となる個人資産を整理しましょう。
不動産がある場合は、登記事項証明書等を確認し,不動産の所有が個人なのか、あるいは会社になっているのか,借り入れがあるか,その場合の債務者は誰になっているのか,抵当権は個人・会社いずれの不動産に設定されているのか等を確認します。個人所有の不動産を事業用に使用している場合のように、契約関係が明確になっていないこともままあるため、契約書等を確認し,権利関係を確認しておく必要もあります。名義が実体にあっていない場合には,適宜実体に沿った内容にしていくべきでしょう。
代表者個人名義の預貯金口座を事業用に利用している,代表者個人所有の不動産を事業用に利用している,代表者が個人資産を会社に貸付しているといった事情がある場合,会社と経営者は法的には全く別の権利の主体です。そうすると,経営者の死亡によって,会社経営において必須の財産が会社から流出する(会社の経営とは関係がない相続人が取得する)おそれがありますので,こういった問題は事前に解消しておくべきでしょう。
また、経営者が会社の債務を保証するなど、保証人としての義務を負っている場合、保証債務も法定相続分に応じて,各相続人に引き継がれることになります。
なお、蛇足ですが、経営者による個人保証なしに融資を受けられるための要件として,経営者保証ガイドラインでは,資産の所有やお金のやりとりに関して、会社と経営者との関係の明確な区分・分離されていることも1つの要件としています。このような観点からも,会社資産と個人資産の区別を明確化しておくのが望ましいでしょう。
遺言を作成する
株式の項でも述べましたが,経営者は遺言を作成することが必須といえるでしょう。
また,本件の事案のように,疎遠な相続人がいる場合には,特に遺産分割協議がまとまりにくい可能性がありますので、遺言によって予め各財産を取得する者を指定しておくべきです。
株式を分散させずに,後継者に集中させ,円滑な事業承継をするために,必ず遺言を作成しましょう。
なお、後継者となる相続人1人に株式を集中させる遺言を作成するとき、気を付けなければならないのが「遺留分」です。
遺留分は、兄弟姉妹以外の法定相続人(すなわち、配偶者、子、直系尊属)に最低限保障されている持分的利益であって、株式を1人に集中して相続等させる際には,遺留分を侵害することにならないか注意が必要です。
遺留分対策としては,株式の評価額が低くなるようにするという方法があります。具体的には,現経営者の引退時に退職金を支払う方法や,生命保険を法人で契約する方法などがあります。
事業承継の方法を検討しておく
事業承継といえば、親族に会社を引き継ぐというイメージを持っている方もいるでしょう。事業承継の方法には、ざっくり言うと,親族内承継、従業員等への承継、M&Aがあります。
親族内承継
会社を被相続人の息子や配偶者などの親族に承継する方法です。
中小企業では一般的であり,取引先や従業員にも理解が得られやすいでしょう。また,後継者として教育等をしっかり行っていくことができます。もっとも,近年の少子化や価値観の変化等から,後継者のなり手がいないということもあります。
従業員等への承継
自社や取引先の役員,従業員等に承継させる方法です。
このような場合,会社の業務をよく理解している優秀な人物を選ぶことができるので,適任者を見つけやすいというメリットがあります。しかしながら,現経営者からの個人保証引き継ぎに関連して問題が生じたり,会社によっては後継者のなり手がいないということがあります。
M&A
自分の会社を他社に買収してもらう形で事業承継を進める方法です。
M&Aの最大のメリットとは、経営者の手元に売却益が残ることです。
また、後継者不足に悩む親族内承継・親族外承継に比べて、候補者の幅が広がるという点もM&A選択のメリットといえます。
ただし,M&Aは相手のあることですから,会社の状況によっては、買い手が見つからない可能性があり,また、希望売却額や従業員の待遇などについて、承諾してもらえる買い手を見つけることが難しい場合があります。そして、売却・統合後は会社の経営方針が大きく変わる可能性もあるため、会社の従業員にとって,必ずしも良い方向へ向かうとは限りません。
まとめ
経営者が被相続人であるケースは,自社の株式の分割方法や評価額等について揉める可能性が高いです。相続人間の紛争が複雑・長期化することに加えて,会社運営にも支障をきたす可能性もあります。
こういった事態を未然に防ぎ,また,仮に紛争が生じてしまった場合にすみやかに解決するために,相続問題・企業法務に精通した弁護士に相談するべきでしょう。
当事務所の弁護士は、弁護士歴25年以上の経験の中、多くの専門性を要する相続・遺産分割,企業間の法律問題に関する相談を受け,事件を解決してきました。机上の法律知識だけでは得られない,多数の相談や解決実績に裏付けられた実践的なノウハウを蓄積しております。
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