自分で相続放棄の手続きを行う際の注意点

 先日、父が亡くなりました。父は生前に、ギャンブルで多額の借金をしていたようです。

  私は、父の借金を相続しないために、相続放棄の手続きを考えています。自分で相続放棄の手続きを

 行う際の注意点はありますか?


A 自分で相続放棄の手続きを行う際の注意点は、以下の4つです。

 ① 相続放棄の対象が消極財産だけではないこと

 ② 相続放棄は撤回ができないこと

 ③ 相続放棄には期間制限があること

 ④ 相続放棄が認められない場合があること

 

 

 相続放棄とは、『被相続人(亡くなった方)から財産を相続する権利を放棄する制度』です。

 「相続しても借金しかない」「他の相続人とは関わりたくない」など、相続をすることが、相続人の不利益・負担となる場合に活用できます。

 

 しかし、不利益・負担を回避する手段としては、大変有用な相続放棄ですが、相続放棄をすることで、かえって不利益を受ける場合や、そもそも相続放棄自体ができない場合があります。

 

 以下では、自分で相続放棄の手続きを行う際の注意点について解説いたします。

   

注意点① 相続放棄の対象が消極財産だけではないこと

 

 相続放棄の対象は、借金のような消極財産(マイナスの財産)だけではないことに注意が必要です。

 

 相続放棄は、被相続人(亡くなった方)の全ての財産について、相続する権利を放棄する制度です。そのため、借金のようなマイナスの財産だけでなく、預貯金や、財産価値のある株式のような、積極財産(プラスの財産)についても放棄することになります。

 

 親が、多額の借金をしていたという理由だけで、安易に相続放棄をすると、本来相続することのできたはずのプラスの財産についても、相続する権利を失うことになりかねません。

 

 相続放棄の手続きを始める前に、まずは被相続人(亡くなった方)が死亡した時点において、どのような財産がいくらあったのかを十分に調査して把握し、プラスの財産がマイナスの財産を上回っていないかをきちんと調べた上で、相続放棄をするか否かを判断する必要があります。

 

 

注意点② 相続放棄は撤回ができないこと

 

 相続放棄は、一度手続きをすると、撤回ができないということに注意が必要です(民法919条1項)。

 

 相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったとして扱われるため、他の相続人の相続分だけでなく、相続人の範囲が変わる可能性があります。

 

 相続人の範囲について詳しくはこちら>>

 

 また、相続人が死亡した場合などとは異なり、代襲相続の対象とはならないので、相続放棄した人の子どもが、代わって相続をすることもできません。

 相続放棄は、相続人が、単に相続する権利を放棄するだけにとどまらず、他の相続人や親族に影響を与えるものです。

 

 相続放棄によって変動した相続関係が、自分の意図しないものとなった場合であっても、相続放棄の撤回はできません。

 

 また、相続放棄した後に、被相続人(亡くなった方)の預貯金や、価値のある株式が発見されたとしても、相続放棄の撤回はできないため、それらを相続することはできません。

 

 このように、自分が相続放棄をすることで、他の相続人の相続分や、相続人の範囲にどのような影響が生じるのか、また、相続放棄をすることが、どのくらいのメリットとなるのかは、事案によって様々です。

 

 そのため、相続放棄の影響と、被相続人の財産状況をしっかりと確認した上で、相続放棄の手続きをする必要があります。

 

 

注意点③ 相続放棄には期間制限があること

  

 相続放棄は、被相続人(亡くなった方)が死亡したことを知った日から、原則3か月以内に手続きをしなければならないことに注意が必要です(民法915条1項)。

 

 被相続人(亡くなった方)の死亡を知った日から、原則3か月以内に手続きをしなければ、「被相続人の財産を全て相続する意思がある」と法律上判断され、相続放棄をすることができなくなります(民法921条2号)。

 

 そのため、相続放棄する場合には、早急に相続放棄の手続きをする必要がありますのでご注意ください。

 

 しかし、身内の方が亡くなった場合、感情の整理も大変でしょうし、亡くなった直後は葬儀・各種の事務手続きに追われてしまい、どのような財産が残されているか確認したり、相続放棄するかを判断することは、難しいことと思います。

 

 その場合は、『相続放棄の申述期間伸長の手続』をすることによって、相続放棄の期間を、1か月から3か月程度伸長することができます(民法915条1項ただし書き)。

 

 もっとも、この『相続放棄の申述期間伸長の手続』は、被相続人の死亡を知った日から3か月以内に、家庭裁判所で手続きをする必要があります。少しでも、被相続人の財産状況に不安がある場合には、早めに手続きをすることをおすすめします。

 

 

注意点④ 相続放棄が認められない場合があること

 

 そもそも、相続放棄が認められない場合があることにも注意が必要です。

 

 以下に記載している要件に当てはまる場合、相続放棄が認められない可能性がありますので、ご注意ください。

 

相続放棄の手続きをする前に、相続財産を処分していたり、隠匿している場合(民法921条1号、同条3号)

 

 「相続財産の処分」とは、不動産の売却・建物の解体だけでなく、不動産を担保に入れる行為や債権の取立て、さらに、被相続人(亡くなった方)の債務の弁済、遺産分割協議を行った場合なども含まれます。

 

 つまり、相続財産の財産状況に、何らかの変動を生じさせるようなことをすると、その相続人には「財産を相続する意思がある」と法律上判断され、相続放棄ができなくなるのです。

 

 

相続財産を意図的に申告しないなど、相続財産を隠匿した場合

   

 相続財産を隠匿する行為は、相続財産の中から支払ってもらえると信頼している債権者に対する背信行為にあたり、そのような行為をした相続人を、法が保護する必要はないとされています。

  

 

相続財産の処分及び隠匿を、相続放棄の手続後に行った場合

 

 相続放棄の手続き後に、財産の処分などを行った場合には、相続放棄自体が無効となり、再度手続きをすることはできません。そのため、相続放棄の手続きを行った後も、行動には注意が必要です(民法921条3号)。

  

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まとめ

 

 自分で相続放棄の手続をする際の注意点は、

  ① 相続放棄の対象が消極財産だけではないこと

  ② 相続放棄は撤回ができないこと

  ③ 相続放棄には期間制限があること

  ④ 相続放棄が認められない場合があること

の4つです。

 

 相続放棄は、相続による不利益・負担を回避する手段としては有用な制度です。しかし、相続財産を十分に調査し、相続放棄の制度を正確に理解して手続きを行わなければ、かえって不利益を受ける場合や、そもそも相続放棄ができない場合があります。

 

 ただし、どこに何があるのかも分からない複数の相続財産を、ご自身で調査するには、かなりの時間と労力がかかりますし、調査漏れが生じる可能性もあります。

 

 また、どのような行為が相続財産の「処分」にあたるのかの判断や、相続放棄をすることで生じる影響については、専門的な知識が必要となります。

 

 限られた期間で、適切な相続放棄の手続きを行うために、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

 

 弊事務所は、弁護士歴26年以上の弁護士が在籍しており、相続に関して、様々な手続きをサポートしてきました。机上の法律知識だけでは得られない、多数の相談や解決実績に裏付けられた実践的なノウハウを蓄積しており、スピーディーかつ適切なサポートを行うことができます。

 

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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