遺留分放棄って何?なんで遺留分を放棄することでもらえる遺産が増えるの?

Q 私の妻は、既に死亡しています。もし私が死亡したときに相続人となるのは、2人の息子です。
  私は、長男に家業を引き継がせることを考えています。「長男にすべての遺産を相続させる」という内容の遺言書を作成して、私の全ての財産を長男に相続させることはできますか。


A 長男にすべての遺産を相続させる場合には、
① 遺言書をしっかり作成したうえで、②次男に遺留分の放棄をしてもらう必要があります。

 

 一定の範囲の相続人には、遺言に基づいても奪うことができない、法律上保障されている最低限度の遺産の取得分があり、これを「遺留分」といいます。

 被相続人(今回の事例では父親)が「長男にすべての遺産を相続させる」という内容の遺言書を作成していた場合には、他の相続人(今回の事例では次男) の遺留分を侵害することになります。遺留分侵害を受けた相続人(今回の事例では次男) は、遺留分侵害額請求を行うことによって、侵害された「遺留分」に相当するお金を取り戻すことができます。

 

 以下では、遺留分の放棄について、詳しく解説します。

 

遺留分について

 

遺留分とは

 

 法定相続人(民法上で定められた、亡くなった人の財産を相続できる人) には、遺産を取得することへの期待があります。そのような期待を保護して、相続人の生活保障を図るために遺留分が認められています。

 

 しかし、遺留分は、すべての法定相続人に認められているわけではありません。遺留分が認められるのは、亡くなった人の兄弟姉妹以外の相続人です。これは、遺留分が認められる趣旨が、遺産取得への期待の保護・相続人の生活保障を図ることにありますので、被相続人(亡くなった人)の兄弟姉妹にまで、遺留分という手厚い保護を及ぼす必要はないと考えられているからです。

 

 あわせて読みたい:遺言を書く時に注意すべき”遺留分”とは何ですか?

 

遺留分の放棄とは

 

 遺留分の放棄とは、遺留分の権利者が、その権利を自ら手放すことです。遺留分を放棄した場合、その人は遺留分侵害額を請求できなくなります。

 その結果、被相続人(亡くなった人)が、遺留分のことを気にせずに、自由に処分できる財産が増えることになります。また、相続開始後に起きる可能性がある、「遺留分を巡ってのトラブル」を防ぐ結果にもなります。

   

相続人の1人が遺留分を放棄した場合でも、他の相続人の遺留分が増加するわけではないので、注意が必要です。

 

 

 

 

  ~相続開始前に遺留分を放棄する場合~  

 

 遺留分の権利者本人が、家庭裁判所へ遺留分放棄の許可の審判の申し立てを行います(民法1049条1項)。

 ★必要書類★

  ・家事審判申立書

  ・被相続人となる者の戸籍謄本

  ・申立人(遺留分を放棄する人)の戸籍謄本

  ・その他主張を裏付ける資料

   ※注意点については、後記「相続開始前の遺留分放棄の注意点」をご覧ください。

 

 

  ~相続開始後に遺留分を放棄する場合~  

 

 相続開始後に遺留分を放棄する場合には、家庭裁判所の許可は必要ありません。

 遺留分を放棄したい場合には、遺留分権利者(遺留分を請求できる権利がある人)が、遺留分を侵害する者に対し、遺留分を放棄する旨の意思表示をすれば足ります。

 法律上、書面などは不要ですが、言った言わないのトラブルを防止するために、念書や証明書などの書面を作成することがおすすめです。

 ただし、遺留分侵害額請求は「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年以内」に行なわなければ時効により消滅します。そのため、この期間内に遺留分侵害額請求が行われなければ、遺留分を放棄した場合と同じ結果になります。

 

遺留分放棄の撤回について

 

 遺留分を一度放棄してしまうと、基本的に撤回することはできません

 裁判所の遺留分放棄許可を得ている場合には、相続開始前に、裁判所に許可取消しの申し立てをして、裁判所が許可を取り消す必要があります。遺留分放棄の前提となった事情に変化が生じており、遺留分放棄を許可することが適当でない状況にあると、裁判所が判断しない限り、取り消しは認められません。

 したがって、熟慮してから遺留分放棄を申請した方がよいですし、相続開始後の放棄の意思表示も同様に、熟慮して行う必要があります。


相続放棄との違い

 

 遺留分を放棄しても、相続人であることには、変わりはありません。しかし、相続放棄をした場合には、元々相続人でなかったことになり、相続権自体を失います。その他の具体的な違いは次のとおりです。

 

 ★遺留分の放棄と相続放棄の主な違いのまとめ★

遺留分の放棄 相続放棄
特徴 遺留分を放棄する 遺産をすべて放棄する
相続債務 負う 負わない
他の相続人への影響 影響がない 相続分が増える
生前の手続き 不可
家庭裁判所の手続 相続開始前は必要 必要
相続人としての権利 遺留分の他には影響しない 全ての権利が無くなる
遺産分割協議 参加が必要 参加できない
代襲相続 あり なし

 

相続開始前に遺留分放棄を行う場合の注意点(許可される要件)

 

 遺留分の放棄は、遺留分の権利者(遺留分を放棄する者)本人の申立てが必要となります。また、裁判所では、次の基準にもとづいて遺留分放棄を許可するか審査が行われます。

 

  ①強要されたのではなく、自らの自由意思で遺留分を放棄しようとしているか  

 

 遺留分の放棄が、権利者の自由な意思でない場合には、この制度は使えないことになります。そのため、放棄してもらいたい者に対して、「何故遺留分の放棄をしてもらう必要があるのか」を具体的に伝えることが重要です。遺留分の権利者に対して、単に「遺留分を放棄してほしい」という説明だけでは、納得が得られないと考えられます。例えば、本事例のように、相続人の一人に家業を継いでほしいのであれば、なぜ、一人に遺産を集中させる必要があるのかを伝えて、納得してもらう必要があります。

 

  ②合理性と必要性があるか  

 

 遺留分の権利者が、放棄することに納得したとしても、裁判所にも同じように、放棄する合理的な理由とその必要性について理解してもらう必要があります。

 

  ③遺留分に見合う「代償財産」を得るなど、遺留分放棄の見返りがあるか  

 

 遺留分放棄許可の申立てをする者は、原則として、遺留分相当額の見返りを得ていることが必要になります。(過去の贈与でも構いません。)

 そのため、もし、「渡せる財産がないから放棄をしてもらいたい」と考えている場合であれば、放棄のために結局「代償財産」を渡さないといけないため、放棄してもらう意味がないということになります。

 この要件がネックになることが多いため、最終的な判断として、遺言の作成のみを行い、相続開始後に遺留分侵害額の請求があったときには、そのときに対応するという方法を選択せざるを得ない場合もあります。

 

まとめ

 

 上記で説明したとおり、遺留分の放棄をすることは、相続開始前でも可能ですが、家庭裁判所の許可が必要となります。そのため、遺留分の放棄を行う必要性・合理性について、裁判所に理解してもらえるような説得的な主張を書面に記載し、かつ、それを裏付ける資料を準備する必要があります。また、遺留分放棄許可の申立てをするときは、遺言の作成とセットでの事前対策ということになりますので、ご注意ください。

 遺留分の放棄については、遺言書の作成とあわせて、専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。弊事務所では,弁護士歴26年以上の経験がある弁護士のノウハウ等をもとに対応しておりますので、相続手続全般について熟知しております。

 適切なサポートを提供いたしますので,お悩みの方は是非一度,弊事務所にご相談ください。

 

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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