預貯金の遺贈があった場合、どのように遺言執行を行う必要がありますか?

Q.私の名前は丙といいます。
私の父甲は,遺言書を残して死亡しました。甲の相続人は,別居中の妻乙と子が私丙です。
遺言書には,「甲の預貯金のうち,X銀行の預金を,死亡直前まで同居していたAに遺贈する,遺言執行者を弁護士Bとする」と書かれていました。
遺言執行者は,預貯金が遺贈された場合,どのようなことをするのでしょうか?また,遺言執行者の費用はいくらくらいかかるのでしょうか?


A.遺言執行者は,まず遺贈の対象になった預貯金の調査をし,預貯金が存在した場合には,その預貯金について払戻しを受けて受遺者に交付したり,預貯金の名義変更をする等して,遺言の内容を実現していきます。また,遺言執行者の報酬は相続財産の額の1~3%となるのが一般的であり,別途実費がかかります。

遺言執行者とは

遺言執行者とはそもそもどういう役割なのか?

遺言執行者とは,遺言が効力を生じた後に,遺言の内容を法的に実現する目的のために選任された人のことをいいます。

 

遺言執行者は,亡くなった人の最終意思である遺言の内容に従って,不動産の名義を変更したり、預貯金口座を解約して相続人それぞれに分配したりします。相続人のうちの1人が遺言執行者となることもありますが、相続争いが起こる可能性が高い事案や、遺産が高額な場合は弁護士や司法書士等第三者の専門家が指定されているケースが多いです。

 

遺言執行を弁護士に依頼するメリットについてはこちら

遺言執行者は,未成年者や破産者でなければ,特に資格がなくてもなることができます。最近では,金融機関が取り扱う「遺言信託」を利用する人も増えたこともあり,信託銀行等の法人が就任することも多くなっています(ただし,相続人の間に紛争がないことが前提となります。)。

遺言執行者ってどうやって選ばれるのか?

遺言執行者の選び方は3つあります。

 

① 遺言作成者が遺言書の中で予め指定する。
② 遺言者が遺言で委託した人が指定する。
③ 相続開始後に,相続人等の申立てにより,家庭裁判所に選んでもらう。

 

こうして選ばれた者が,遺言執行者となることを承諾した場合に,遺言執行者となります。

 

遺言執行者はなにをするの?

遺言執行者は就任してから,業務の完了までに概ね次のような業務を行わなければいけません。

 

①就任承諾をした旨を相続人全員に通知
②戸籍謄本等を収集して相続人を確定
③相続財産の調査をして,財産目録を作成し,相続人に交付
④法務局での各種登記申請手続
⑤各金融機関での預貯金等の解約手続
⑥証券会社での株式等の名義変更・売却手続
⑦その他の財産の換価手続
⑧遺言の執行状況の報告と完了の業務報告
⑨遺言執行の妨害をしている者がいる場合はその者の排除
⑩必要な場合には,遺言執行に必要な訴訟行為

 

預貯金の遺贈に関する遺言執行

預貯金の確認調査

遺言執行者は,遺贈の対象となっている預貯金について,その存在及び内容を調査します。

 

そのために,預貯金通帳や印鑑を保管している相続人等に確認し,関係書面等の引き渡しを受けます。また,預預金通帳や印鑑が銀行の貸金庫に入れてある場合には,貸金庫を開扉し,これらのものを確保する必要があります。

 

遺言執行者からの貸金庫の開扉請求に対する金融機関の対応は様々であり,善管注意義務を理由に,相続人全員の印鑑証明書付きの承諾書を要求されることもあります。したがって,あらかじめ遺言書に,遺言執行者に貸金庫の開扉権限を与える旨を記載しておくことでスムーズな執行が可能になります。

 

このように,遺言執行者は,遺贈の対象となった預貯金に関する資料を収集し,調査を行います。

 

払戻しまたは名義変更

次に,預金の払戻し(解約),または名義変更を行います。

 

預貯金の場合、相続や遺贈がされると,通常は解約して払い戻すことになります。そして、払い戻したお金は、遺言書で指定された受遺者に振り込み等して渡すことになります。もっとも、払い戻し(解約)ではなく、名義変更(例えば被相続人から受遺者へ名義変更)といった方法もあります。どちらの手続を選択するかは,金融機関の対応や,口座を引き続き使いたい事情があるかといった観点から決定することが多いです。

 

なお,預貯金債権は金融機関への債権であり,預貯金の遺贈は債権譲渡の一種ですので,遺贈については指名譲渡の場合と同様に債権譲渡の通知ないし債務者の承諾が必要になります(民法467条)。

 

従いまして,遺言執行者は,金融機関に対して指名債権譲渡の通知または金融機関から承諾通知を受領します。

 

払戻し請求は誰の権利か?

預貯金の特定遺贈(相続財産の中から特定の財産を指定して遺贈すること)があった場合に,誰が払戻し請求権者であるかという点については,法律上ただちに決まるのではなく,遺言者の意思を探求して決めることになっています。この点,民法では,遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる(民法1021条2項)と定められています。

 

もっとも,本条文は,遺言執行者の権限を定めること自体を目的としているものではなく,遺贈義務の履行を相続人と遺言執行者どちらがすべきかを明らかにした規定とされています。

 

したがって,例えば「X銀行の預金をAに遺贈する。遺言執行者にはBを指定する。」という遺言書がある場合においても,現在の実務では,遺言執行者が払戻し権を有する者であるとする確定的な解釈が存在せず,金融機関によって,払戻しに応じてくれるか否かの対応が異なることがあります。

 

もっとも,上記のようにただ遺言執行者を指定するだけでなく,遺言で「遺言執行者にBを指定する。Bには預貯金の払戻し・解約の申入れ権限を与える」というように,具体的に預貯金の払戻し権限まで明記されている場合には,実務上,この遺言に従って,遺言執行者に預貯金を払い戻すのが一般的であるようです。

 

したがって,預貯金の特定遺贈の場合には,遺言執行者の預貯金の払戻し権限等についても,遺言において具体的に記載しておくべきです。

 

払戻しを受けた預貯金を受遺者に引き渡す

遺言執行者は、遺言を執行するにあたって受け取った財産を相続人や受遺者に引き渡さなければなりません(1012条3項,646条)。

 

したがいまして,遺言執行者は,金融機関の預貯金口座から払い戻しを受けたお金を,受遺者に引き渡さなければなりません。

 

遺言執行者にかかる費用について

遺言執行については,遺言執行者の報酬と,手続に必要な実費がかかります。

遺言執行者の報酬について

遺言執行者に対する報酬は、 遺言に報酬に関する記載があれば、その内容に従います。遺言に記載がない場合には、相続人全員と遺言執行者との協議で決定することとなります。信託銀行や法律事務所に遺言執行を依頼する場合には、事前に報酬を確認しておくとよいでしょう。

 

上記の協議が整わないときは、遺言執行者の報酬は,相続財産の状況その他の事情(執行行為の複雑性や、執行行為に要した時間等)を考慮して家庭裁判所が決定します(民法1018条1項)。

 

そして,決定した報酬は,相続財産から遺言執行者に支払われます。

 

弁護士が遺言執行者になった場合の報酬の相場はどのくらいなの?

弁護士が遺言執行者になる場合には、旧弁護士会の報酬基準規定を参考にして決めていることが多いようです。


旧弁護士会の報酬基準規定は下記のとおりです。

経済的な利益の額
300 万円以下の場合          30 万円
300 万円を超え 3000 万円以下の場合  2%+24 万円
3000 万円を超え 3 億円以下の場合   1%+54 万円
3 億円を超える場合          0.5%+204 万円

このように,概ね相続財産の1~3%が遺言執行者の報酬となります。
※事件の複雑性等から,具体的な報酬額が変動することがあります。

 

その他実費について

上記の弁護士報酬のほかに,遺言執行のための実費がかかります実費としては,例えば,登記・登録の名義変更費用,交通費,郵便料等といったものがあります。

 

まとめ

⑴ 遺言執行者とは,遺言の内容を法的に実現する目的のために選任された人で,不動産の名義変更手続や預貯金の払戻し手続等を行います。

 

⑵ 預貯金を遺贈する場合に,手続をスムーズにするために,遺言の内容として遺言執行者に貸金庫の開扉権限,預貯金の払戻し・解約の申入れ権限を与える旨を定めておくことが望ましいです。

 

⑶ 遺言執行者の報酬は相続財産の額を基準に算定されることが多く,それに加えて遺言執行の実費がかかります。

 

⑷ 弁護士を遺言執行者に選任すると,手続の煩雑さから開放されますし,相続人間の対立防止につながります。

以上のように,遺言者の最終意思たる遺言の実現を円滑にすすめるためには,法律の専門家である弁護士に遺言執行を依頼することだけでなく,遺言の作成段階においても,弁護士が関与することが重要です。

 

当事務所では,弁護士歴25年以上の経験がある弁護士のノウハウ等をもとに、相続手続全般について熟知しており、適切なサポートを提供いたしますので,お悩みの方は,是非一度,当事務所にご相談ください。

 

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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