遺言の書き直しはできますか?

Q.私は,以前,Xにお世話になったこともあり,「自分の遺産のうち,赤坂の土地をXに遺贈する。」といった内容の遺言を作成しました。しかし,その後,Xは,私のことを侮辱したり,無礼な態度をとったりするようになりました。そこで,赤坂の土地をXに遺贈することをやめたいのですが,この場合,遺言の書き直しをすることはできるのでしょうか?


A.遺言は,何度でも書き直すことができます。民法1022条においても,「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」と定められております。
そして,この遺言を書き直すことができる権利は,生前に放棄することもできません(民法1026条)。
したがって,仮に,「これが最終の遺言である。」とか,「今後遺言は撤回しない。」といった遺言が存在する場合でも,遺言は書き直すことはできます。また,遺言者が,相続・遺贈により財産を貰う人に対し,遺言を撤回しないことを書面で約束していても遺言を書き直すことができます。

書き直しの方法(形式面)

遺言を書き直し(法的には前の遺言についての「遺言の撤回」と言います。)をするのにも,法律で定められた遺言の方式に従っていなければなりません(民法1022条)。

したがって,例えば「Xに赤坂の土地を遺贈する。」という内容の遺言を作成していた場合,新たに法的に正しい方式の遺言によって撤回しなければいけません。単に「Xに赤坂の土地を遺贈するという遺言を撤回する。」といった内容をXさんにメールや電話,内容証明郵便で連絡したとしても,その行為は,法的には「遺言の撤回」にはなりません。

また,遺言の撤回をするときは,別の遺言の方式であっても問題ありません。具体的には,当初公正証書遺言で遺言を作成していた場合に,自筆証書遺言で先の遺言を撤回することもできます。公正証書遺言の方が,効力が強いと誤解し,公正証書遺言は公正証書遺言でしか撤回できないと思われている方もおられますが,前記のとおり自筆証書遺言でも撤回は可能ですので,注意が必要です。また,当初自筆証書遺言で遺言を作成していた場合に,公正証書遺言で先の遺言を撤回する場合も同様に認められています。

書き直しの効力が生じる内容になるためには(内容面)

(1) 遺言を撤回するという内容の遺言をする

例えば,「Xに赤坂の土地を遺贈する。」といった遺言をした場合,新たに「Xに赤坂の土地を遺贈するという遺言を撤回する。」という内容の遺言をすることによって,前の遺言の撤回をすることができます。

 

(2) 前の遺言と後の遺言が矛盾する内容の遺言をする

前の遺言と,後の遺言が矛盾するときは,前の遺言は撤回されたものとみなされます(民法1023条1項)。

例えば,「Xに赤坂の土地を遺贈する。」といった遺言をした場合,遺言によって,「Yに赤坂の土地を遺贈する。」といった内容の遺言をすることで,両者に矛盾が生じ,後の遺言が有効となり(民法1023条),前の遺言の効力はなくなります。

遺言の一部の撤回をすることもできます

遺言は,そのうちの一部について撤回をすることも認められています。

例えば,遺言で,「赤坂の土地と,平尾の土地をZに相続させる。」との遺言を書いていたが気が変わって,赤坂の土地のみを遺贈することにした場合,後に,「先の遺言のうち,平尾の土地をZに相続させるとした部分を撤回する。」と遺言することで,この部分に限り,撤回することができます。

このような場合,赤坂の土地をZに相続させるという部分については,別途撤回をしない限り,遺言の効力は残存します。

 

書き直した遺言を更に書き直す(撤回の遺言をさらに撤回する)場合

応用的な内容になりますが,遺言を書き直した内容をさらに撤回するのも考えられます

例えば,「赤坂の土地と,平尾の土地をZに相続させる。」との遺言を書いていたものの,気が変わって「先の遺言を撤回する。」との遺言を作成した後,さらに気が変わり,「撤回するといった遺言はなかったことにする。」という遺言があったとします。

この場合は,当初の,「赤坂の土地と,平尾の土地をZに相続させる。」という遺言の効力はどうなるのか問題となります。

この点についてですが,原則,当初の遺言の効力は復活しません(民法1025条本文)。先のような「撤回するといった遺言はなかったことにする。」という内容では,当初の遺言の効力について,遺言者がどのように考えていたのかが明確とはいえないからです。また,真に遺言者が当初の遺言を復活させたいのであれば,再度「赤坂の土地と,平尾の土地をZに相続させる。」という遺言を作成すればよいと考えられるからです。

 

もっとも,例外的に,当初の遺言が復活する場合もあります

それは,撤回の遺言が,錯誤,詐欺,強迫によりなされた場合です(民法1025条但書)。

例えば,遺言者が「赤坂の土地と,平尾の土地をZに相続させる。」との遺言を書いていたが,そのことを知ったZの兄弟が,遺言を書き直すように遺言者に迫り,暴力を加え,「先の遺言を撤回する。」との遺言を書かせたような場合です。

このような場合には,遺言者が,「赤坂の土地と,平尾の土地をZに相続させる。」という遺言の効力を残したいと考えていることが明らかといえますから,当初の遺言が復活します。

遺言の書き直しについての関連事項

Q.「父が,私に不動産を相続させるという遺言を書いていました。しかし,その後,その不動産を私以外の人に既に売却(贈与)してしまっています。このような場合どうなりますか?私は不動産を取得することができるのでしょうか?」

A.結論として,あなたに不動産を相続させるとする遺言の効力は無効になってしまい,あなたはその不動産を取得することはできません。以下で詳しく説明していきます。

①前の遺言と矛盾する生前行為を行う

遺言の内容と矛盾する生前の遺言者の行為により,前の遺言は撤回されたものとみなされます(民法1023条2項)。

例えば,「Xに赤坂の土地を遺贈する。」といった遺言をした後に,遺言者が,Yに対し,赤坂の土地を生前贈与した場合は,先に作成していた遺言を撤回したこととなります。

ご質問のケースはこの場合に該当します。したがって,あなたに不動産を相続させるという遺言の効力は失われてしまいますので,あなたは不動産を取得することができなくなってしまいます。

 

②遺言者が故意に遺言書を破棄する

遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなされます(民法1024条前段)。

例えば,「Xに赤坂の土地を遺贈する。」といった遺言をしていたものの,この遺言書を破り捨てたり,赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線をひいた場合(最高裁平成27年11月20日判決)には,その遺言は撤回したものとみなされます。

 

③遺言者が,故意に遺言の目的物を破棄する

遺言者が,故意に遺言の目的物を破棄した場合も,遺言を撤回したものとみなされます(民法1024条後段)。

例えば,「Xに王貞治のサインボールを遺贈する。」といった遺言をした場合に,その後に,その王貞治のサインボールを捨ててしまった場合には,先に作成していた遺言は撤回したものとみなされます。

結びに

以上のように,何度でも遺言の書き直しはできますので,その時々の家族の状況などを踏まえて,遺言の内容の見直しをすることが必要な場合もあるかと思います。

もっとも,遺言については,様式が厳格に定められていますので,書き直しによって,考えていたとおりの効力が生じないなど複雑な問題をはらんでいますし,複数の遺言書が存在することは相続人間で争いを生じさせる原因となってしまうこともあります。

したがって,折角,残された御家族等の間でトラブルが生じないようにし,将来に渡り幸福な家族関係を維持したいと考えて遺言の作成や書き直しをされるのであれば,万全を期して,法律の専門家により適切な助言を得ながら作成等されるのが望ましいのではないでしょうか。

相続について不安を持たれる皆様にとって,遺言を作成するのに早すぎることはありません。また,早い段階で遺言を作成されたものの,その後の家族関係の変化に応じて,その時々の御家族の状況にあった遺言を作成し直すことが必要な場合もあります。

当事務所では,遺言を作成したいとお考えの皆様のご希望に沿った遺言作成をサポートさせていただくだけではなく,既に作成された遺言書について法的な問題がないか,あるいはご希望の内容を実現できる遺言の内容になっているのか等のチェックをするサービスもご提供しておりますので,遺言の作成や書き直し等についてお悩みの方は,是非一度,当事務所にご相談ください。

 

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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