口約束で「財産をあげる」という遺言は有効なの?
目次
Q 私の父は5年前に他界しており,母は今年亡くなりました。両親の子は私と弟の2人でしたが,弟は母より先に亡くなっています。弟には,息子(私にとっては甥)がいますので,母の相続人は私と甥になります。私は母の近所に住み,長年面倒を見てきたのですが,弟は遠方に引っ越したことで母とは疎遠となっていたため,甥と母はほとんど交流がありませんでした。
その後、私は母と同居して,私と私の妻が,母の介護や日常のお世話をしていました。母も、このことについて非常に感謝してくれて,普段から「私の財産は,全部あんたにやるから。」と言っておりました。母は遺言書を作成しておりませんが,私は母の生前の言葉が遺言だと思っています。私は,母の言っていたとおり,母の財産を全て貰えるのでしょうか?
A 遺言は書面で作成する必要があり,口約束では遺言とは認められません。そのため,基本的には,甥と遺産分割協議をする必要があります。ただし,場合によっては,被相続人から死因贈与を受けたと認められる場合もあります。
口約束では遺言にならない!
遺言は、法令で厳格な方式が定められており,この方式を満たさない遺言は、無効になってしまいます。したがって,口頭で話していたとしても,遺言書を作成していない場合は,遺言があるとは認められません。
被相続人の意思を実現するために遺言を作成する
被相続人(亡くなった方)の意思を実現するためには,遺言書を作成することが最も有効な方法です。
遺言書の要式としては,「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」によることが一般的です。
(1) 自筆証書遺言の特徴
「自筆証書遺言」は,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに押印するという方法により作成します(民法968条)
自筆証書遺言のメリット・デメリット>>>
自筆証書遺言のデメリットを解消して,より自筆証書遺言を利用しやすくするために,2020年7月10日から公的機関である法務局で遺言書を保管する制度が開始されています。
(2) 公正証書遺言の特徴
一方,「公正証書遺言」は,証人が2人以上立ち会った上で,遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授します。そして,公証人がこの口授を筆記し,これを遺言者及び証人に読み聞かせ,又は閲覧させ,遺言者及び証人が筆記の正確なことを承認後,各自これに署名押印します。最後に公証人がその証書は民法に定める方式に従って作ったものである旨を付記して,これに署名押印するという方法により作成します(民法969条)。
このように公証人が関与して作成され,遺言書の原本も公証人役場で保管するため変造のおそれがなく,遺言が無効とされることはほとんどない,というメリットがあります。また、家庭裁判所での検認の手続を経る必要がない,というメリットもあります。デメリットとしては,公正証書作成のための費用がかかることと,証人の立会いを要するため遺言の内容を秘密にできない,ということが挙げられます。
公正証書遺言のメリット・デメリット>>>
生前贈与による方法
被相続人から財産を譲り受ける方法としては,遺言書を作成する方法のほかに,被相続人の生前に贈与を受ける方法もあります。
生前贈与とは,死亡による相続が発生する前,つまり生前に財産を贈与する(無償で財産を与える)ことです。
生前贈与は,相続税対策の方法として,シンプルであり一般的な方法といえます。
生前贈与をお考えの方へ>>>
しかし、贈与税は,相続税よりも高額になる可能性がありますので,進め方を間違えると,多額の贈与税が課税される危険性があります。また死後の税務調査において,名義預金として,そもそも贈与(財産の移転)自体が否認されるといった危険性があります。
また,税務上の生前贈与には、暦年贈与、相続時精算課税制度、教育資金贈与,夫婦間の居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除等の各種の制度などもありますので,これらを効果的に組み合わせることも重要です。
弊事務所では,法的に有効な贈与契約書の作成や、贈与のための財産の移動方法に関するアドバイス等について、相続に強い弁護士・税理士がサポートいたします。
遺言として無効でも死因贈与が認められる場合も
被相続人から「私が死んだら私の財産をあなたに全てあげる。」と言われていた場合、被相続人との間で「死因贈与契約」が成立していた可能性があります。
死因贈与契約とは,自らの死亡を原因として、他人に財産を贈与するという内容の契約です。
死因贈与契約は「書面」がなくても成立します。口約束でも要件を満たせば、契約は有効となる余地があります。
しかしながら、ただ単に,「母は私にあげると言っていたんだ。」と主張するのみで,死因贈与が認められるわけではありません。死因贈与契約が有効であるというためには,相続人全員に死因贈与契約の存在を認めてもらったり,信用できる証人の存在や客観的資料に基づいて死因贈与契約の存在を立証していく必要があります。
そのため、死因贈与契約の存在が認められることは簡単ではありません。したがいまして,充分な生前対策をしておくことが,相続を円満に進めるために極めて重要です。
弁護士ができること
(1) 相続全般を見据えたアドバイスができる
相続対策としては,遺言書作成や生前贈与などを行うことにより,誰がどのような財産を取得するのか決めておくことで、死後の紛争を予防するという観点が重要です。
また,相続税や贈与税などの税金を少なくすることについても検討をすることが有益です。弊事務所では,相続税対策コンサルティングを提供しております。
さらに,遺言や生前贈与の内容によって特定の相続人に財産を集中させてしまうと,他の相続人から遺留分侵害額の請求がされるなどの事態が生じかねません。
この点も、弁護士が関与することで,遺留分を原因とした紛争が生じないように対策をすることができます。
(2) 遺言作成のサポート
まずは,遺言書を書いていただけるように,遺言作成をすることで遺言者の意思が実現できることや,相続紛争を回復することができることなどの遺言作成のメリット,また、遺言を作成しないことの問題点を弁護士として説明いたします。
そして,遺言作成のご依頼をいただけましたら,遺言者の財産を整理したうえで,意思の実現できる遺言を作成いたします。
遺言の内容が決まりましたら,現実の作成作業を進めていきます。公正証書遺言で作成される場合は,公証役場に連絡をし,遺言内容について公証人と打合せをして,弊事務所で日程を調整いたします。また,公正証書遺言の作成には,証人が二人必要ですが,証人になっていただく方の用意が難しい場合には,弊事務所にて準備することもできます。
また,近年利用が増加している法務局での自筆証書遺言の保管制度についても,制度自体の説明や,遺言保管申請書の作成支援等,遺言保管制度を円滑に利用できるように援助いたします。
家族であっても,なかなか遺言を作成して欲しいとは言いづらいものです。しかしながら,ご両親も,専門家に遺言作成のメリットや,遺言を作成していない場合に生じる不都合等を聞けば,遺言作成の必要性を感じ,「遺言を作成しよう。」と思いやすくなります。このように弁護士が関与することで,まず,遺言作成の意思決定をサポートすることができます。
また,実際に遺言を作成するとしても,遺言には法律上満たさなければならない要件があり,要件を満たしていない遺言は無効になってしまいます。この点,遺言作成を弁護士にご依頼いただければ、確実に有効な遺言を作成することができます。
そして,遺言は書き方次第では、様々な工夫をして遺言者の意思を実現することができます。例えば,弁護士に依頼をすることで,遺言者の子が,遺言者より先に亡くなってしまった場合には,孫に相続させる,といった予備的な内容を記載した遺言を作成することができます。また、付言事項をしっかり書くことで後の相続紛争を事前に抑制することもできます。このように,遺言作成を弁護士に依頼することで,遺言者の意思を実現した柔軟かつ適切な遺言を作成することができるでしょう。
まとめ
遺言書を作成せず,「私の財産は,全部あなたにあげるから」という口約束だけでは、遺言としての効力はなく、死因贈与が認められるための立証が困難です。
被相続人の意思を実現するためには,遺言の方式や,遺留分との関係,税金の問題など注意をするべきことが多岐にわたります。したがいまして,法律の専門家である弁護士に遺言作成を依頼することだけでなく,遺言を作成するための準備段階から,相続に熟知した弁護士が関与し、策をしていくことが重要です。また,税務の観点からも,専門家と連携することで,最適な遺言の内容をご提案させていただきます。
当事務所の弁護士は、弁護士歴25年以上の経験があり,税理士・司法書士などの専門家とも連携して、相続手続全般について、適切なサポートを提供いたします。お悩みの方は,是非一度,当事務所にご相談ください。
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