【民法改正】所有者不明土地等関係の主な改正項目を弁護士が解説②
2021年(令和3年)に所有者不明土地の解消のために、民法の改正や新たな制度の創設がされました。
新しい制度の適用開始(施行日)は、2023年(令和5年)4月1日です。
新しい制度は、主に次の3点ですが、今回は③の制度について解説いたします。
① 土地・建物に特化した財産管理制度の創設
② 長期間経過後の遺産分割のルール
③ 共有制度の見直し
3.共有制度の見直し
現状の問題点
共有状態にある不動産について、これまで,所在が分からない共有者がいる場合は、その不動産の利用について共有者間の意思決定ができないといった問題がありました。
そこで、共有物の利用について,また,共有関係の解消を容易にできるように共有制度全般について様々な見直しがされ,法改正に至りました。
現在,土地などの共有となっている財産を利用するためには、次のルールが定められています。
① 共有物の「変更」:共有者全員の同意が必要
② 共有物の「管理」:各共有者の持分の過半数の決定をすることが必要
③ 共有物の「保存」:各共有者が単独で行うことができる
しかしながら,このような従来の制度のもとでは共有物に変更を加える場合、共有者全員の同意が必要となるため,所在不明の共有者がいる場合には、共有物の変更ができず円滑な利用が阻害される他、共有物について連絡をとっても明確な返答をしない共有者がいる場合には、共有物の管理さえも困難になるなど、さまざまな問題が発生していました。また、現実には特定の行為が①~③のいずれに該当するのか明確ではない場合もありました。
改正の内容
そこで、今回の改正では「変更」、「管理」、「保存」という枠組みを維持しつつも、次のような改正をしています。
○ 共有物の利用促進のために
① 軽微な変更についてのルール
② 短期の賃借権の設定のルール
③ 共有物を使用する共有者がいる場合のルール
④ 賛否を明らかにしない共有者がいる場合の管理に関するルール
⑤ 所在等不明共有者がいる場合の変更・管理に関するルール
⑥ 共有物の管理者を選任することができるルール
○ 共有関係の解消促進のために
① 共有物の管理者/共有の規定と遺産共有持分
② 裁判による共有物分割
③ 所在等不明共有者の不動産の持分の取得
④ 所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡
軽微な変更についてのルールの創設
共有物の変更行為をするためには、共有者全員の同意が必要です。この規定には例外がなかったため、たとえ軽微な変更であっても共有者全員の同意が必要とされており、共有物の円滑な利用が阻害されていました。
そこで改正法では、共有物に変更を加える行為であっても、「形状又は効用の著しい変更を伴わないもの(軽微変更)」については、持分の過半数で決定することができることになりました。
ここでいう「形状の変更」とはその外観、構造等を変更することをいい、「効用の変更」とは、その機能や用途を変更することをいうとされています。例として,砂利道をアスファルト舗装することや、建物の外壁や屋上防水等の大規模修繕工事は、事案にもよりますが,基本的に共有物の形状又は効用の著しい変更を伴わないものとされています。
短期の賃借権の設定のルールの創設
「長期間」の賃借権の設定をするためには,実務上,共有者の全員の同意が必要とされています。
しかしながら,現行法においては,「長期間」の判断基準が明確ではないことから,後に紛争を防止するため,事実上,共有者全員の同意を得ることが多く,過度な負担となっていました。
このような不都合を回避するため,法改正により,全員の同意が必要ではない「短期の賃貸借」の範囲を明確にしました。
改正法においては,次の賃貸借については,共有物の持分の過半数において賃貸借の設定を行うことができます。
① 樹木の植栽又は伐採を目的とする山林の賃借権等:10年
②①に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等:5年
③ 建物の賃借権等:3年
④ 動産の賃借権等:6か月
(注)借地借家法の適用のある賃借権の設定(ex.建物所有目的で土地を賃貸すること)は、約定された期間内での終了が確保されないため、基本的に,共有者全員の同意がなければ無効とされており,持分の過半数による決定によることはできません。
なお、一時使用目的の場合や,存続期間が3年以内の定期建物賃貸借の場合には、持分の過半数の決定により賃借権の設定が可能です。ただし、契約において、更新がないことなど、所定の期間内に賃貸借が終了することを明確にする工夫が必要です。
共有物を使用する共有者がいる場合のルールの創設
改正前の規定では,共有物を使用する共有者がいる場合に、その共有者の同意がなくても、持分の過半数により,共有物の管理に関する事項を決定できるかどうかは明確ではありませんでした。
この点,改正法においては,共有物を使用する共有者がいる場合でも、持分の過半数で管理に関する事項を決定することができることとなります。
具体的には,長男A、長女B及び次男Cが各3分の1の持分で建物を共有している場合において、長女B及び次男Cが同意をしていないのに,長男Aが建物に住んでいる場合には,長女B及び次男Cの決定により,共有者長女B及び次男Cやそれ以外の第三者に使用させる旨の決定をすることができます。
ただし,管理に関する事項の決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすときは、その共有者の承諾を得なければなりません。
例えば,前記の例において、過半数の決定に基づいて長男Aが当該建物を住居として使用しているが、長男Aが他に住居を探すのが容易ではなく、次男Cが他の建物を利用することも可能であるにもかかわらず、長女B及び次男Cの賛成によって、次男Cに当該建物を事務所として使用させる旨を決定するような場合は,長男Aの承諾を得なければなりません。
また、共有物を使用する共有者(前記例での長男A)は、他の共有者(長女B及び次男C)に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負うことが規定されました。ただし、共有者間で無償とするなどの別段の合意がある場合には、その合意に従うことになります。
賛否を明らかにしない共有者がいる場合の管理に関するルールの創設
共有物の管理に関心を持たず、連絡をとっても明確な返答をしない共有者がいる場合には、共有物の管理が困難になってしまいます。
そこで,改正法においては,賛否を明らかにしない共有者がいる場合には、裁判所の決定を得て、その共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定することができることとなりました。
賛否を明らかにしない共有者の持分が、他の共有者の持分を超えている場合や、複数の共有者が賛否を明らかにしない場合であっても、この手続きを利用することは可能です。
ただし,共有物の変更行為(例:建物所有目的で土地を賃貸することなど),賛否を明らかにしない共有者が共有持分を失うことになる共有物への行為(抵当権の設定等)には、この手続きを利用することはできません。
所在等不明共有者がいる場合の変更・管理に関するルールの創設
従来,所在等不明共有者(必要な調査を尽くしても氏名等や所在が不明な共有者のこと)がいる場合には、その同意を得ることができないという問題点がありました。そのため、共有物に「変更」を加えることができず、また「管理」に関する事項についても、所在等不明共有者以外の共有者の持分が過半数に及ばないケースなどでは、決定ができないという事態に陥っていました。
そこで,改正法においては,裁判所の決定を得ることで,次のことができるようになりました。
① 所在等不明共有者以外の共有者全員の同意により、共有物に変更を加えること
② 所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定すること
例えば,A、B、C、D、Eが各5分の1の持分を有する共有の土地につき、必要な調査を尽くしてもC、D、Eの所在が不明である場合には、裁判所の決定を得た上で、AとBにより、第三者に対し、建物所有目的で土地を賃貸することができることとなります。
ただし,所在等不明共有者が共有持分を失うことになる行為(抵当権の設定等)には、この手続きを利用することはできません。
共有物の管理者を選任することができるルールの創設
共有物について管理者を選任し、管理を委ねることができれば、共有物の円滑な管理が期待できます。しかしながら,これまでは,管理者に関するルールが規定されておらず、管理者の選任要件や権限の内容なども明確ではありませんでした。
そこで,改正法においては,共有者の持分の過半数で,共有物の管理者(共有者以外でも構いません。)を選任・解任できることが定められました。
管理者は,共有物の管理に関する行為(軽微変更を含む)をすることができます。ただし,軽微でない変更を加えるには、共有者全員の同意を得なければなりません。
管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決定した場合には、その決定に従ってその職務を行わなければなりません。
共有の解消方法のルールの創設
従前、共有者が他の共有者の持分を取得する方法は、① 裁判所の判決により共有物を分割する方法、②共有者全員の協議(合意)により共有物を分割する方法、③他の共有者と協議し、特定の共有者から任意で持分の譲渡を受ける方法がありました。
しかし、共有者が所在不明である場合には,①の判決による共有物分割は可能ですが,全ての共有者を当事者として訴えを提起しなければならず、共有者が多い場合などには手続き上の負担が大きくなっていました。
また、共有者の一部が所在不明である場合に、②の話し合いによる共有物の分割,③の任意譲渡は,不在者財産管理人の選任を申し立てる等の手続きを採らざるを得ません。これは手続きとしてかなり面倒な上,不在者財産管理人の報酬等に要する費用負担も問題となっていました。
そこで、改正法においては,共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明共有者(氏名等不特定を含む)の不動産の持分を取得することができることとなりました。不動産を取得する代金(時価相当額)は,供託することとなります。申立人は、他の共有者を当事者とする必要はありませんので、手続き的な負担は軽減されます。
他方で、他の共有者は、所定の期間内であれば、別途持分取得の裁判を申し立てることが可能であり、このように申立人が複数のケースでは、各申立人が、その持分割合に応じて、所在等不明共有者の持分を按分して取得することになります。
また,共有持分のみを売却するよりも、不動産全体を売却し、持分に応じて共有者に分配する方が受け取る代金が高額になるのが一般的です。共有物分割請求や前記の持分取得制度によっても、所在等不明共有者の持分を他の共有者に移転し、共有物全体を売却することができますが、売却した上で代金を按分することを予定しているのに、所在等不明共有者の持分を他の共有者に一旦移転するのは迂遠であり、手間や登記費用等も必要になります。そこで、裁判所の決定によって、申立てをした共有者に、「所在等不明共有者の不動産の持分を譲渡する権限」を付与する制度が創設されました。
この制度は、不動産全体を特定の第三者に譲渡するケースでのみ利用可能ですので、所在不明者以外の共有者全員が,持分の全部を特定の第三者に譲渡する必要があります。
なお,遺産共有(相続の開始により相続人の共有となった状態のことをいいます。)の場合には,相続人に遺産分割をする機会を保障する必要があることから、相続開始時から10年を経過しなければ,これらの制度を利用することはできません。
4.まとめ
以上のとおり,所在不明不動産,共有不動産,遺産共有となって長期間経過した不動産等については,近年大きな法改正がなされ,今後ますます制度が適切に運用され、不動産の円滑な運用ができるようになることが期待されます。
当事務所では、弁護士歴25年以上の経験から,相続及び不動産法務に詳しい弁護士が在籍しており,多くの専門的な事件を解決しております。改正法のことを知りたい,不動産・相続の問題を解決したい場合には、是非一度当事務所にご相談ください。
弁護士による相続・生前対策の相談実施中!
岡本綜合法律事務所では、初回相談は無料となっております。
「遺産分割でトラブルになってしまった」
「不安なので相続手続きをおまかせしたい」
「子どもを困らせないために相続対策をしたい」
「相続税対策として、生前贈与を考えている」
「認知症対策に家族信託を組みたい」
などのニーズに、弁護士歴25年の豊富な実績と、税理士及び家族信託専門士を保有している弁護士がお応えいたします。
お気軽にご相談ください。
LINEでも相談予約いただけます!
当事務所の特徴
1、天神地下街「西1」出口徒歩1分の好アクセス
2、税理士・相続診断士・宅地建物取引士(宅建士)の資格所持でワンストップサービス
3、相続相談実績300件以上
4、弁護士歴25年の確かな実績
5、初回相談は無料
遺産相続のメニュー