【民法改正】所有者不明土地等関係の主な改正項目を弁護士が解説①

 2021年(令和3年)に所有者不明土地の解消のために、民法の改正や新たな制度の創設がされました。
 新しい制度の適用開始(施行日)は、2023年(令和5年)4月1日です。
 新しい制度は、主に次の3点ですが、今回は①と②の制度について解説いたします。

 

 ① 土地・建物に特化した財産管理制度の創設
 ② 長期間経過後の遺産分割のルール
 ③ 共有制度の見直し

 

1.土地・建物に特化した財産管理制度の創設
(令和5年(2023年)4月1日施行)


 どのような制度なの?

 

 所有者が不明であったり、管理不全状態にある不動産は、公共事業の障害になったり、民間の取引を阻害したり、あるいは近隣住民に悪影響を及ぼすなどして問題が生じる可能性があります。
   

 これまで、このような不動産についての管理に適した財産管理制度がなく、管理が非効率になりがちでした。被害があったとしても,近隣住民は,具体的な請求などはできず,役所に相談することで応急措置を行ってもらう等の対応をしてもらうしかできませんでした。
   

 そこで、土地・建物の効率的な管理を実現するために、所有者が不明であったり、所有者による管理が適切にされていない土地・建物を対象に、個々の土地・建物の管理に特化した財産管理制度が新たに設けられました。
   

 土地・建物に特化した財産管理制度とは、所有者が不明・あるいは管理不全である土地・建物につき管理人を選任してもらうことができる制度です。
   

 管理人が選任されることで,土地・建物の効率的かつ適切な管理を実現できます。


 所有者不明土地とは?

 

 所有者不明土地とは、相続が発生した際に,土地の所有者についての登記が行われないなどの理由により、不動産登記簿を確認しても所有者が分からない土地、または所有者は分かっていてもその所在が不明で所有者に連絡がつかない土地のことをいいます。土地のイラスト
   

 このような土地が日本各地で増加しており、その面積を合わせると、国土の約22%(平成29年度国土交通省調べ)にも及んでいます。高齢化の進展により,今後、所有者不明土地は、さらに増えていくと予想されており、現在,各地で大きな社会問題になっています。
   

 所有者不明土地が生じる主な原因としては、次のような場合があります。
   

 ・ 土地の相続の際に登記の名義変更が行われないこと

 ・ 所有者が転居したときに住所変更の登記が行われないこと

   

 相続登記をしないまま放置しておくことで、時の経過により更に土地の相続関係者が増えていき、所有者を特定したり、土地を処分したりすることが極めて困難になってしまうのです。
   

 所有者が分からない状態が続くと、土地や建物の管理がきちんと行われないまま放置され、壊れた建物の一部が飛んできたり,害虫が発生する,異臭がする等,周辺の環境や治安の悪化を招き、近隣住民に被害を与えることになります。
   

 また、土砂崩れなどの防災対策のための工事が必要な場所であっても、所有者が分からないために、工事を進めることができず、危険な状態が続いてしまったり、公共事業や市街地開発などのための用地買い取り交渉ができず、土地の有効活用の妨げとなる等の各種の問題が生じます。

 

 土地・建物に特化した2つの財産管理制度

 

 土地・建物に特化した財産管理制度には、「所有者が不明であるもの」と「管理不全状態であるもの」とに分けて、次の2つの制度が設けられています。

 

 所有者不明土地・建物の管理制度

 

 所有者不明土地・建物の管理制度は,所有者が分からない土地・建物や、所有者は分かっても所有者の所在を知ることができない土地・建物について、その土地・建物の管理人を選任してもらう制度です。


 この制度を活用するためには、次の要件を満たさなければなりません。

 

 ① 調査を尽くしても所有者又はその所在を知ることができないこと

 ② 管理状況等に照らし管理人による管理の必要性があること


  そして,所有者の調査方法の例としては次のようにされています。

  

 ・ 登記名義人が自然人である場合 …登記簿、住民票上の住所、戸籍等を調査。

 ・ 登記名義人が法人である場合 …法人登記簿上の主たる事務所の存否のほか、代表者の法人登記簿

        上・住民票上の住所等を調査。

 ・所有者が法人でない社団である場合 …代表者及び構成員の住民票上の住所等を調査。
 

 なお,事案に応じて現地調査が求められることもあります。


 申立をすることができるのは,所有者不明土地・建物の管理について「利害関係」を有する利害関係人でなくてはなりません。利害関係人の例としては次のようにされています。    

 

 ・公共事業の実施者など不動産の利用・取得を希望する者

 ・共有地における不明共有者以外の共有者


 管理人が選任されますと,対象財産の管理処分権は管理人に専属します。そこで,管理人は,保存・利用・改良行為の他,裁判所の許可を得て,対象財産の処分(売却,建物の取り壊し)などを行うこともできます。

 

 管理不全状態にある土地・建物の管理制度

 

 管理不全状態にある土地・建物の管理制度は,所有者による管理が適切に行われず、荒廃・老朽化等によって危険を生じさせる管理不全状態にある土地・建物について、近隣に悪影響を与えるような問題がある場合に,管理人を選任してもらう制度です。
    

 この制度の特徴は,所有者の所在が判明している場合にも利用することができる点です。
   

 要件


 ① 所有者による土地又は建物の管理が不適当であることによって、
 ② 他人の権利・法的利益が侵害され、又はそのおそれがあり、土地・建物の管理状況等に照らし、
 ③ 管理人による管理の必要性が認められる場合に管理命令が発令され,管理人が選任されます。


 管理不全土地・建物の例としては次のようなものが挙げられます。


 ・ひび割れ・破損が生じている擁壁を土地所有者が放置しており、隣地に倒壊するおそれがあるケー
 ・ゴミが不法投棄された土地を所有者が放置しており、臭気や害虫発生による健康被害を生じているケ

  ース
   

 同制度においても,管理者選任の申立ができるのは,管理不全土地・建物の管理についての「利害関係」を有する利害関係人に限られます。利害関係人の例としては次のようなものがあります。
    

 ・ 倒壊のおそれが生じている隣地所有者
 ・ 臭気や害虫発生による健康被害を受けている者   

 

 管理不全土地等管理命令が発令されると、管理人は、当該対象土地等につき,ひび割れ・破損が生じている擁壁の補修工事や,ゴミの撤去,害虫の駆除といった行為を行うことができます。
     

 しかしながら、所有者不明土地等の管理とは異なり、管理不全土地等の管理人は、所有者の同意なく、当該土地等を処分(売却,建物の取り壊し等)することはできません。

 

2.相続開始から長期間経過した遺産分割のルール


 現行法の問題点


 現行法においては,遺産共有となった不動産について,遺産分割がされないまま相続が繰り返され、多数の相続人による遺産共有関係となると、遺産の管理・処分が困難になり,このような状態の下で相続人の一部の所在等が不明になり、所有者不明土地が生じることも少なくありません。
   

 早期の遺産分割により遺産共有の状態を解消することは,所有者不明土地が生じることを予防することからも重要です。


 改正の内容

「LAW」と書かれた本のイラスト

 

 そこで,改正法においては,遺産分割の早期解決のため,相続開始(被相続人の死亡)時から10年を経過した後にする遺産分割は、具体的相続分ではなく、法定相続分(又は指定相続分)によるということになります。

   

 言い換えると、各相続人の個別事情である特別受益と寄与分について,相続開始の時から10年を経過すると主張できないことになります。

 

あわせて読みたい

 

 相続開始後遺産分割がないまま長期間が経過すると、生前贈与や寄与分に関する書証等が散逸し、関係者の記憶も薄れていきます。遺産分割がなされず,長期間が経過すると各相続人の個別事情である特別受益と寄与分を考慮することは遺産分割の支障となるという理由から本改正に至りました。
   

 この度の改正によって、相続開始から長期間が経過した場合であっても遺産分割を簡明に行うことのできるよう、特別受益・寄与分に関する規定の適用が主張できなくなり、法定相続分に従った処理をすることとなります。
   

 これにより、遺産分割が円滑に実施されるようになり、結果として所有者不明土地の発生を予防するとともに、遺産共有状態下で存在した相続財産の管理・処分の困難等を軽減して、その利用を促進することが期待されています。

   

 もっとも,当該法改正によっても,共同相続人間の合意で、相続開始後10年間が経過した後になされる遺産分割の基準として具体的相続分を用いることまで否定された訳ではありません。相続人全員が合意したケースでは、具体的相続分による遺産分割が可能です。
   

 本改正は,施行日である令和5年4月1日より前に相続が開始した遺産分割についても適用されることを定めています。
   

 しかし,施行日より前に開始した相続の場合は、経過措置として、相続開始時から10年の期間とは別に、少なくとも施行時から5年の猶予期間が設けられているということです。

民法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について

 

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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