【民法改正】相続登記に期限が設けられるの?不動産・土地相続への影響を弁護士が解説
不動産登記簿から所有者が直ちに判明しない,または所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地のことを「所有者不明土地」といいます。これまで,土地の所有者が死亡し,相続が発生しても,相続登記をすることが義務ではなかったため,このことも原因となって,「所有者不明土地」が発生していました。
そこで、相続登記と住所変更登記の義務化,相続土地の国庫帰属制度の創設,土地利用の円滑化のための制度の導入を盛り込んだ民法,不動産登記法等の改正法が,2021年4月21日に成立し,同月28日公布されました。
相続登記義務化関係は令和6年4月1日から施行され、住所等変更登記義務化関係は令和8年4月27日までの政令で定める日(令和4年9月27日時点で政令未制定)に施行されます。
登記義務化のポイント
今回の登記義務化のポイントは次のとおりです。
相続登記の義務化
相続(相続人が遺贈を受けた場合も含む)による不動産取得を知ったときから3年以内に相続登記の申請をすることを義務づけ,正当な理由なく申請しない場合には,10万円以下の過料の対象となります。
住所等変更登記の義務化
住所等変更登記も住所等の変更日から2年以内の変更登記申請が義務付けられ,正当な理由のない申請漏れは,5万円以下の過料の対象になります。
相続登記の負担の軽減
これまで相続登記をするにあたって障害とされてきた様々な手続き負担を軽減するために,相続人が、登記名義人の法定相続人であることを申し出て,登記官が職権でその旨を登記する制度(相続人申告登記制度)が新設されます。また登録免許税の負担軽減なども検討されています。
所有不動産記録証明制度の新設
所有不動産の把握を容易にして申告漏れ等を防ぐため,特定の者が名義人となっている不動産の一覧を証明書として発行する制度(所有不動産記録証明制度)も新設されます。
相続登記の義務化のQ&A
相続登記をしなかった場合に生じる不都合
相続登記とは、不動産の所有名義を、被相続人(亡くなった人)から不動産の所有権を取得した相続人に移転する手続きのことです。相続登記をしなかった場合、不動産の所有名義は被相続人(亡くなった人)のままで、次のような不都合が生じます。
(1) 遺産分割協議が困難になる
相続登記を行わず放置しておくと、その間に本来の相続人が死亡するなどして、その子や孫というように何世代にもわたって順次相続人が出てくることになります。
遺産分割協議の成立のためには、相続人全員の合意が必要になりますので、相続人が増えることで、遺産分割協議の成立が難しくなることが考えられます。
また、遺産分割協議を行うために、相続人の調査(相続人の確定)が必要になりますが、相続人の数が増えるや何世にも渡って数次の相続が発せすることにより、相続人の調査に時間や費用がかかります。
(2) 手続きの手間が増える
時間の経過とともに、相続人も年齢を重ねることになります。相続人のうち1人でも認知症等になり、判断能力が十分でないという状態になってしまった場合、たとえ全員で相続手続を行ったとしても、相続人が欠けたまま手続をしたものとみなされて、その遺産分割協議は無効とされてしまう可能性があります。
このような場合に問題なく遺産分割協議を進めるためには、後見人の選任手続きをとる必要が生じるなど、手続きに手間と時間がかかることになってしまいます。
(3) 必要書類の収集に労力を要する
相続登記には、被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍や相続人全員の戸籍、印鑑証明書等が必要になります。相続登記を放置していれば、数次の相続に関する戸籍謄本を収集するなど必要書類は増えていき、それらの収集にはかなりの労力がかかります。
(4) 土地の売却・担保に影響する
相続登記が行われず被相続人の名義のままであれば、土地の所有者が誰であるか確定できず、土地の売却に支障が生じます。また、金融機関から相続により取得した土地を担保に金銭を借りることも難しくなります。
(5) 差押えの可能性
不動産は遺産分割協議が成立するまで、共同相続人が法定相続割合に応じて共有している状態です。そのため、借金がある相続人の債権者が、借金がある相続人の法定相続分を差し押さえる事態が生じる可能性があります。
相続登記の義務化について
相続登記については、令和3年4月21日に、民法等の一部を改正する法律が成立したことで、令和6年4月1日から相続登記が義務化されます。相続登記の義務化は、所有者不明の土地の発生を予防するために導入されました。
相続によって不動産の所有権を取得した相続人には、「自己のために相続の開始があったことを知り」かつ「その不動産の所有権の取得を知った日」から3年以内に、相続登記の申請をしなければなりません(新不動産登記法76条の2)。
そして、正当な理由なく相続登記の申請を怠れば、10万円以下の過料に処するとされています(新不動産登記法164条)。
また、今回の改正で注意しなければならないのは、今回の改正以前に相続した不動産についても、相続登記義務の対象となる点です(民法等の一部を改正する法律 附則第5条第6項)。
今回の改正以前に相続した不動産については、その不動産の取得を「知った日」又は「施行日」である令和6年4月1日のいずれか「遅い日から」3年以内に相続登記を行わなければなりません。
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いいえ,施行日前に相続が開始した場合にも適用されます。
この場合は,登記の期限は「相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日」または,「改正法施行日」のいずれか遅い日から3年以内になります。多くの方にとっては,改正法施行日である令和6年4月1日から3年以内に登記をしなければならないことになるかと思われます。
不動産登記法上、他の相続人等との共同申請を求められていたものが簡略化されて、受遺者が単独で所有権移転登記を申請することができるようになります。
相続の開始(相続人に対する遺贈も含む)があったことを知り、かつ、所有権を取得したことを知った日から3年以内に、申請する必要があります。
2024年(令和6年)4月1日からです。
なお,住所等変更登記の義務化は2026年(令和8年)4月27日までの政令で定める日(令和4年9月27日時点で政令未制定)からになります。
登記名義人本人又はその相続人が,法務局に対し,所有不動産の一覧情報(所有不動産記録証明書)の交付を請求できる制度が新設される予定です。
これまで実務では,固定資産税課税明細(名寄帳)を各市区町村に申請して取得する方法で、被相続人の所有不動産を調査するという方法をとってきました。しかし、私道など非課税地については漏れているといった点や,市町村ごとに申請する必要がありますので,各地に分散して不動産を所有されている場合に漏れが生じる可能性があるなどの課題がありました。新たな制度では,法務局で、所有財産一覧を発行してもらえるようになりますので,これまでよりも簡単に調査ができるようになることが期待できます。
ただし,現実には,住所と氏名が一致していなければ財産の集約ができませんので,住所等変更登記が義務ではない現状では,登記上の住所・氏名が変更されていないものも存在していますので,正確な情報を反映したものになるのかという問題はあります。今後,どのようなシステムになっていくのかなど注目されます。
「相続人である旨の申出」をすれば,法務局が職権で「相続人である旨の申出等による登記(相続人申告登記)」をする制度が新たに創設されます。この手続きをすれば,「登記を申請する義務を履行したものとみなす」とされていますので,過料の対象にはなりません。
なお,相続人申告登記は,あくまで「登記簿上の所有者」が亡くなったことを示しているに過ぎず,相続人から相続人に権利が移転したということを示すものではありません。
そのため,「相続人である旨の申出」をする際に、法定相続人全員を調査して,法定相続分を明らかにするなどの作業は必要なく,登記簿上の所有名義人が死亡したことと,申し出をするものがその相続人であることを明らかにできる戸籍謄本等があれば申し出できることになると思われます。
このように簡単な手続きではありますが,相続登記そのものではありません。そこで,申出をした者が,その後遺産分割協議を成立させて,不動産の所有権を取得した場合には、遺産分割の日から3年以内に登記をしなければなりません。
登記の義務化を踏まえて対応すべきこと
すでに相続が開始しているにもかかわらず,相続登記をせずに放置している方にも,改正法施行後は,「相続登記の義務化」の規定が適用されます。したがって,令和6年4月1日の改正法施行までには,まだ時間はあるものの,速やかに相続の手続きを進める必要があります。
これまで相続登記を放置していたのには,様々な理由があると思われます。そもそも,他の相続人と連絡がとれない,他の相続人との遺産分割協議がまとまらない,面倒なので放置していた,資産価値の低い不動産なので,取得したいと思わないなど様々かと思われます。理由によって,今後の対応方法も異なってきますので,まずは弁護士に相談するなどして,相続登記ができるように準備を進めましょう。
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