相続財産清算人の選任が必要になるケースとは何でしょうか?(下篇)
上篇では、相続財産清算人の概念・業務内容・選任するメリット・選任要件をご紹介いたしました。
>>相続財産清算人の選任が必要になるケースとは何でしょうか?(上篇)
ここでは、相続財産清算人の選任の手続きと選任後の業務を詳しく説明いたします。
相続財産清算人を選任するための手続
必要書類を揃える
相続財産清算人選任を申し立てるには、まず必要となる書類を揃える必要があります。案件により異なりますが,例えば以下の資料が必要になります。
① 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本 ② 被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本 ③ 被相続人の住民票除票又は戸籍附票 ④ 財産を証する資料(不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書),預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し,残高証明書等)等) ※裁判所のサイトに必要書類が記載されていますのでご確認ください。 |
申立を行う
必要書類を揃えて、家庭裁判所に提出します。
※前述のとおり,申立を行うには利害関係を有することが必要です。
審理を受ける
書類が提出されると、家庭裁判所によって,申立人に対して相続財産清算人が必要か判断するために事実確認がされます。そこで必要に応じて、追加書類の提出等が求められることがあります。そのうえで,家庭裁判所は,申立書等の記載内容が正しいかどうかを調査します。
審判がされる
審理の結果によって、相続財産清算人の選任をする必要があると認められれば、家庭裁判所は相続財産清算人を選任するという審判を下します。もし、審理を経て相続財産清算人を選任する必要がないと判断されれば、不必要であるという審判が下されます。
相続財産清算人を選任するための費用
相続財産清算人を選任するためにかかる費用は、主に以下のとおりです。
① 収入印紙:800円 |
①~③の費用の他に、裁判所に「予納金」を納めなければならない可能性があります。予納金は,経費や報酬を支払うための資金となります。
残された相続財産からそれらを支払えることが確実であれば予納金は必要ありませんが、支払えるかどうかはっきりしないケースでは予納金が必要です。予納金の金額は約20万円〜100万円ほどとされています。
具体的な金額は家庭裁判所が、相続財産清算人の担当する事案の複雑さ等によって決定します。予納金はまとまった金額が必要であり、仮に余った場合は返還されますが,必ず返ってくるわけではありません。
相続財産清算人の業務
相続財産清算人が選任された旨を官報公告する
相続財産清算人が選任されたら、家庭裁判所によりその事実が官報に公告されます(民法952条2項)。また、令和5年4月1月以降に選任された案件では、相続人捜索の公告もあわせて行われます。
官報とは、政府が発行している新聞のようなものです。官報に相続財産清算人が選任された旨,記載することを官報公告と言いますが、これによって相続財産清算人が選任されたことを世間に知らせることができます。
公告期間は6ヶ月以上とされていますが、公告期間内に相続人が現れなければ、相続人がいないことが確定することになります。
また、以前は相続人捜索の公告は、相続債権者、受遺者に対する請求申し出の公告のあとにされていましたが、前記のとおり令和5年4月1日以降、選任公告と同時に行われることになりましたので、手続の期間が短縮されています。
相続財産の調査と管理
相続財産清算人が選任されると、まずは相続財産を調査し、すでに存在が明らかになっている財産については相続放棄をした元相続人等から引継ぎを受けて、管理を開始します。そして、具体的にどのような財産があるのか明らかにして、財産目録を作成します。
相続財産調査の方法
相続財産を調査する際には、本人の相続財産を把握している家族や近親者がいる場合には、それらの人から事情を聞いたりします。そのような人がいない場合、相続財産清算人が、様々な方法で相続財産の調査をします。
例えば,本人の自宅がある場合には、自宅内に立ち入って調べることもあります。自宅もない場合には、本人の最終の住所地の近くに支店がある金融機関に照会して、財産が無いか調べること等もあります。
相続財産の管理と換価の方法
不動産があれば、相続財産法人に登記名義の変更をしたり,公共料金の支払いをすることもあります。
また,管理のため,火災保険に加入するケースもあります。預貯金や生命保険等は解約して相続財産清算人名義の口座に入金します不動産や有価証券、その他の動産等価値があるものは売却して換価し、相続財産清算人名義の口座に入金します。衣類や家財道具等については、家庭裁判所の許可によって廃棄処分するのが一般的です。
相続債権者と受遺者に対する請求の申出の公告
相続財産清算人が選任された後,相続財産清算人は、相続債権者と受遺者を探す必要があります。そこで、これらの人に対し、債権の申出をするよう官報により公告をします(民法957条1項)。この公告期間は2ヶ月以上必要であり、なおかつ前記相続財産清算人選任・相続人の捜索の公告の期間内に満了しないといけません。
また,すでに明らかになっている相続債権者と受遺者がいる場合には、それらの人に対し、個別に催告をします。
相続債権者と受遺者への支払い
相続債権者と受遺者への請求申出の公告(と個別の連絡)によって,届出があった場合、その内容に従って支払いをします。この場合、まずは債権者に支払い、その次に受遺者に支払をします。資産よりも債務(借金)の方が多くなっていて債務超過のケースでは、相続債権者の公平のため、債権額で按分して配当をします。その結果、相続財産がなくなった場合、相続財産の管理業務は終了します。
期間内に支払いをして残った財産があれば、期間内に届出をしなかった場合でも、そこから支払いを受けることができます。残った財産がなければ,届出をしなかった者は,支払いを受けられません(特別担保を有する者は、この限りでない)。
特別縁故者への相続財産の分与
前記の手続で相続人のいないことが確認されたら、公告の期間満了から3ヶ月以内に特別縁故者による相続財産分与の申立ができる状態になります。
内縁の配偶者等の特別縁故者がいる場合には、この3ヶ月の間に相続財産分与の申立をして、家庭裁判所に相続財産の分与を認めてもらう必要があります。家庭裁判所が特別縁故者であることと相続財産の分与を認めたら、相続財産清算人はその決定内容に従って、特別縁故者に対する相続財産の分与を行います。
質問者様は,この制度により,相続財産の分与を受けられる可能性があります。もっとも,特別縁故者にあたるか,あたるとしても受けられる相続財産の額がいくらかについては,家庭裁判所の裁量事項ですので,具体的にいくら分与されるかは事案により異なります。そのため,質問者様と被相続人との関係を証明する資料を集めておくことが重要です。
相続財産清算人への報酬支払い
相続財産清算人の業務が終了したら、相続財産清算人自身が家庭裁判所に対し、報酬付与の申立をします。これを受けて、家庭裁判所は相続財産清算人の報酬を決定します。このとき、家庭裁判所は,事案の複雑さや内容等によって金額を決めます。ケースによって報酬額はかなり異なりますが、一般的には以下のようになることが多いです。
① 受任者が親族の場合⇒報酬なし |
残余財産を国庫に帰属させる
相続財産清算人が報酬を受け取った後、さらに財産が残っている場合には、その余った相続財産は国のものになります。その場合,相続財産清算人は、財産を国庫に帰属させる手続きを行います。
清算業務終了の報告をする
最終的に国庫への帰属手続きを終えて、相続財産清算人の業務がすべて終了すると、相続財産清算人は清算終了報告書を作成して家庭裁判所に提出します。これで、すべての相続財産清算人の業務が終了します。
まとめ
それではこれまでの内容を復習してみましょう
① 相続財産清算人とは,被相続人の債権者等に対して被相続人の債務を支払う等して清算を行い,清算後残った財産を国庫に帰属させることを行う者をいいます。
② 相続財産に関して利害関係を有しているが,相続人がいることがわからない場合には,相続財産清算人を選任することで,債権を回収できたり,特定遺贈を受けられたり,相続財産管理義務から解放されたり,特別受益を受けられる可能性があります。
③ 相続財産清算人は,相続人や債権者,受遺者を調査します。
④ 特別縁故者として財産分与を受けようと考えている方は,相続人捜索公告期間の満了後3ヶ月以内に,「特別縁故者に対する相続財産分与」手続をしなければなりません。
⑤ 相続人が存在しない場合に,家庭裁判所が「特別縁故者」にあたると認めれば、相続財産の清算後、相続財産の一部ないし全部を受け取ることができます。
結びに
相続財産清算人選任の申立及び特別縁故者による分与の申立手続は、ご自分で進めることも可能ですが、必要な資料を収集したり,各種機関とのやり取りが煩雑です。また,相続財産について利害関係を有することや特別縁故者であることを裁判所に説明することは,経験がない方には難しいかもしれません。また,手続の中には期間制限が存在するものもあります。そこで,相続財産清算手続・特別縁故者による分与の申立手続に熟知した弁護士にご依頼いただくことが、最終的には最適な解決に至る近道となります。
当事務所の弁護士は、弁護士歴26年以上の経験から、相続財産清算手続・特別縁故者による分与の申立手続に熟知しており、最適なサポートを提供いたしますので,お悩みの方は,是非一度,当事務所にご相談ください。
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