亡くなった父の財産の全容が分かりません。遺産分割は可能ですか?
目次
Q 先日父が他界しました。現在、遺産分割に向けて、父の遺品を整理しています。
父の遺品からは、預金通帳や自宅不動産の権利書が出てきたのですが、生前に父が持っていると言っていた株式やその他の土地の権利書が見つかりません。
また、借金がいくらかあるという話をしていましたが、どこにいくら借りているのかもわかりません。このような状態でも、判明している財産だけで遺産分割をすることはできますか。
A 相続財産の全容が分からない状況で遺産分割をすると、法的な面・税務上の面で様々な問題が生じます。
そのため、相続財産の全容が明らかになった段階で遺産分割をするようにしましょう。
以下で、それぞれの問題点と相続財産調査の方法について解説していきます。
法的な問題とは?
相続放棄における問題
相続財産を調査した結果、資産(プラスの財産)よりも負債(マイナスの財産)の方が多かった場合は、『相続放棄』をすることが考えられます(民法第915条以下)。『相続放棄』をすれば、被相続人の負債(マイナスの財産)を相続することはありませんが、一度相続放棄をしてしまうと、撤回することができません(民法第919条1項)。
例えば、相続族財産を十分に調査せずに相続放棄をしてしまった場合、その後、被相続人名義の預貯金・株式・不動産などが見つかり、負債を大きく上回る資産を有していることが分かっても、相続放棄の撤回はできません。逆に、十分な調査をしないまま財産を相続してしまうと、後日、多額の借金が判明した場合も、『相続放棄』をすることができず、多額の負債を相続しなければならなくなります。
前記のような事態にならないよう、十分な相続財産調査を行い、被相続人の財産の全容を明らかにする必要があります。
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遺産分割協議における問題
被相続人が、生前に遺言書を作成していない場合は、『遺産分割協議(=亡くなった方の財産の分け方を、相続人全員で決めること)』を行う必要があります。『遺産分割協議』を成立させるには、相続人全員の合意が必要となります。なお、『遺産分割協議』は、成立した後であっても、相続人全員の合意があれば、成立内容を一旦解除し、再度分割協議をすることができます(最高裁判所平成2年9月27日)。
しかし、最初の遺産分割協議で全員が合意したからといって、再度遺産分割協議をした際にも同じように成立するとは限りません。
例えば、相続人同士の関係が良好であったたため、お互いに譲歩し合って、円滑に遺産分割協議を成立させたとします。しかし、後日、多額の資産があったことが発覚したため、再度遺産分割協議を持ち掛けた場合、他の相続人からは「最初から財産隠しをしていたのではないか!」「本当は財産を隠していたけど、相続税の申告でバレそうになったから慌てて言い出したのではないか!」「実は他にもまだ財産を隠しているのではないか!」といった疑念を抱かれるおそれがあります。
「財産を隠しているかもしれない」という疑念が生じてしまうと、相続人の感情的対立に発展してしまい、せっかく一度目の遺産分割協議は合意できたのに、再度遺産分割協議を行うと成立しなくなってしまったという可能性も生じます。
また、遺産分割協議中であっても、「これも財産だった」「これも見つかった」というように、次から次へと財産を追加してしまうと、その都度協議する必要があるので、遺産分割協議が長期化します。
前期のような事態にならないよう、遺産分割を適切かつ円滑に行うためにも、初めから十分な相続財産調査を行い、被相続人の相続財産の全容を明らかにする必要があります。
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税務上の問題とは?
相続財産を十分に調査していないと、本来納付する必要のない税金まで納付する必要が生じますので、注意が必要です。
相続税法上の問題
相続税法上、基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の人数)が設定されています。この基礎控除額を超える相続財産がある場合、相続税の申告が必要となります。相続税は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内に申告する必要があります。
もし、相続財産の調査が十分にできておらず、相続財産の金額を少なく申告してしまった場合には、『過少申告加算課税』が課されます。また、本来納付するべき相続税が、納付期限内に納付されていないこととみなされ、『延滞税』も課されます。
さらに、初めの段階では、「相続税の基礎控除額を超えないから、相続税は発生しないだろう」と勘違いをしていたけど、実際には基礎控除額を超えてしまっており、相続税申告を行う必要があった場合には、申告期限までに申告をしなかったとして『無申告加算税』が課され、同時に『延滞税』が課されます。
このように、相続財産を正確に把握していなかったことが原因で、支払う必要のなかった『延滞税』・『過少申告加算税』・『無申告加算税』を支払うことになってしまいますので、注意が必要です。
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遺産分割協議をやり直した際の各種税金の問題
本来、相続した場合に支払う税金は、主に『相続税』と『登録免許税』があります。『登録免許税』は、売買した際や贈与した際と比較して、税率が低く設定されています(※相続の場合:不動産評価額の1000分の4、その他の場合:不動産評価額の1000分の20)。
遺産分割協議をやり直した際は、税務上、相続税等の更生・修正申告という手続きにはなりません。分かりやすく言うと、遺産分割協議のやり直しは、税務上、相続人同士で売買・贈与があったとされます。すると、本来支払う必要のない『不動産取得税』と、相続の場合よりも高い税率で計算される『登録免許税』まで支払う必要が出てきてしまいます。
前記のような事態になると、最初の遺産分割の際に『相続税』や『登録免許税』を支払っているのに、追加で『不動産取得税』や『登録免許税』を支払うことになります。
つまり、相続財産を正確に把握していなかったことが原因で、遺産分割協議をやり直すことになると、二度課税されてしまうことになりますので、注意が必要です。
相続財産調査の方法をお伝えします!
前記のとおり、相続財産の調査は最初にしっかり行っておくことが、いかに重要かお分かりいただけたものと思います。
では、どのように相続財産を調査すればよいのでしょうか。
まずは、被相続人(亡くなった方)宛の郵便物や持ち物から調査しましょう。郵便物の中には、金融機関からの案内や税務署等からの督促状など、相続財産を調査する上で重要な情報源が含まれています。また、被相続人の通帳やキャッシュカード、土地の権利書等の持ち物からも相続財産を把握することができます。
不動産
不動産の調査は、土地の権利書(登記済権利証または登記識別情報通知書)がある場合は、被相続人(亡くなった方)が所有していた不動産の登記簿謄本を法務局で取得し、名義を確認するといった方法で行うことができます。
その他、固定資産税通知書や、固定資産課税明細書から、被相続人(亡くなった方)が所有していた不動産を把握するとともに、名寄帳を取得して確認する方法があります。もっとも、名寄帳は、同一の市区町村内の不動産のみ把握できることに注意が必要です。(=申請した市区町村以外の場所に不動産を持っていた場合は記載されません。)
預貯金
預貯金の調査は、通帳やキャッシュカードから、被相続人が利用していた金融機関を特定し、残高証明書や入出金履歴を発行してもらうといった方法で行うことができます。近年、ネットバンキングを利用する人も増えているため、そもそも通帳がない場合もあります。その場合には、郵便物、パソコン、スマートフォンから金融機関を特定しましょう。
有価証券
有価証券の調査は、郵便物はもちろん、メールや、配当を受けている場合には確定申告書から調査する方法が可能です。郵便物や確定申告書から判断できない場合には、『証券保管振替機構』に対して開示請求をすることができます。
もっとも、仮想通貨などのデジタル資産については、有価証券の場合と異なり、『証券保管振替機構』のような機関はありませんので、郵便物やメールから調査して、各取引所に連絡することになります。
借金(負債)
借金(負債)の調査は、被相続人(亡くなった方)の所持品に借用書がないか、郵便物の中に督促状がないかを確認します。借金の存在が分かっていても、貸主が分からない場合は、信用情報機関に照会することで明らかになります。
信用情報機関は、①全国銀行個人信用情報センター ②株式会社日本信用情報機構(JICC)③株式会社シー・アイ・シー(CIC)の3つがあります。
もっとも、信用情報機関に加盟していない公的な機関からの借入や、個人からの借入などは、照会しても分かりません。そのため、郵便物や遺品だけでなく、関係者への聞き取りも重要となります。
税金については、税金の未納通知書が届いていないかを必ず確認するようにしましょう。
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まとめ
相続財産の全容が分からない状態で遺産分割を行うと、相続放棄の判断を誤るだけでなく、円滑な遺産分割協議を妨げるおそれがあります。また、相続税だけでなく、様々な税務上の問題が生じますので、注意が必要です。
相続調査の際には、被相続人の遺品や、届いた郵便物が重要な手がかりとなります。
ご自身で相続調査をすることはもちろん可能ですが、相続財産の調査は複雑ですし、調査漏れが生じるおそれがあります。また、相続税の申告期限は、被相続人(亡くなった方)の死亡を知った日の翌日から10か月以内となっていますので、迅速かつ正確な相続財産の調査が必要となります。
そのため、相続財産の調査に関して、少しでも不安がある場合には、遺産分割や税務上のトラブルを回避するためにも、専門家に相談することをおすすめします。
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