子どものいない夫婦に向けた相続対策
目次
Q 私の妻は長年に渡って,私を支えてくれました。私達夫婦には子供がおりません。私は,妻が今までどおり安心して生活ができるように,妻に私の全ての財産をあげたいです。子供がいないので,遺言を作成しなくても,全部の財産が妻に相続されますか?その他,気をつけることなどあれば,教えて下さい。
A 遺言を作成していない場合,妻のみが相続人となるわけではありません。質問者様が,妻に全ての財産を引き継がせるのに最も重要かつ効果的な方法は,妻に全財産を相続させる内容の遺言を作成することです。その際には気をつける点があります。
子供のいない場合の相続人は誰?
子供のいない夫婦について,夫または妻のどちらかが先に亡くなった場合、「配偶者」及び「血族相続人」が法定相続人となります。
血族相続人には,順位があり,次のとおりとなります。
・第1順位 子
・第2順位 直系尊属(例:父母,祖父母)
・第3順位 兄弟姉妹
相続開始前に子が先(または同時)に死亡している場合は、その直系卑属(被相続人の孫、ひ孫)が代襲して相続人となります(代襲相続といいます。)。
兄弟姉妹についても,被相続人よりも先(または同時)に亡くなっている方がいる場合には、甥・姪が相続人になります。ただし、兄弟姉妹の代襲相続は一代限りであり、甥・姪も亡くなっている場合は甥・姪の子がいても相続人となりません。
このように,子供のいない夫婦の片方が亡くなった場合,配偶者に加えて,父母ないし祖父母等の直系尊属がいればその方も相続人になります。また,直系尊属が全員亡くなっている場合には,亡くなった方の兄弟姉妹も相続人となります。
兄弟姉妹が亡くなっている場合で,兄弟姉妹に子がいる場合には,その子(甥,姪)が相続人となります。
なお,夫婦の間に子がいなくても,前婚での子・認知をした子がいる場合には,その子は第1順位の相続人になります。
子どものいない夫婦において起こりがちなトラブル
(1) 遺言がない場合
他の法定相続人との関係が悪い場合に遺産分割協議が難航する
上記1のとおり,子供がいない夫婦の場合,配偶者と法定相続人である直系尊属または兄弟姉妹が相続人となります。
そして,遺言がない場合には,被相続人の財産については,これらの相続人全員で、財産を分けるための話し合いである「遺産分割協議」をする必要があります。
配偶者が亡くなった場合に,義理の父母や義理の兄弟などと関係が悪い場合には,話し合いが進まない,連絡すらとることができないという場合もあり,遺産分割協議がまとまらないという不都合が生じる恐れがあります。
亡くなった方名義の居住用不動産についてもトラブルが生じる
遺言がない場合,夫婦で住んでいる居住用の不動産についても,遺産分割協議をしなければなりません。
不動産の他に十分な預貯金がある場合には比較的話がしやすいのですが,遺産の大部分が居住用の不動産である場合には,家を取得するために他の相続人に対し、法定相続分相当額の代償金を支払う必要や,家を売却して代金を分割しなければならないということにもなりかねず,住んでいる家を出なければならない可能性があります。
(2) 遺留分を侵害する場合
例えば,遺言により,「全財産を配偶者に相続させる。」といった遺言を作成した場合に,前婚の子や,認知をした子,直系尊属が相続人である場合には,その方の遺留分を侵害することとなりえます。
遺留分とは,相続に際して、被相続人の財産のうち、一定の相続人に承継されるべき最低限の割合のことです。
遺留分は法律で定められている権利ですので、遺留分の侵害額について請求されてしまうと,一定の支払いは必要になります。
例えば、配偶者と父母が相続人の場合、遺留分は全体の2分の1、父母の法定相続分が全財産の3分の1となりますので、父母は遺留分として全体の6分の1までを請求する権利があります。
なお、兄弟姉妹には、遺留分侵害額請求権がありません。相続人が、配偶者と兄弟姉妹だけであれば、遺留分相当額の支払いについて心配する必要はありません。
相談者様のように,妻に全財産を相続させる内容の遺言ですと,父母が相続人である場合には,父母の遺留分を侵害することになり,遺留分侵害額請求をされた場合には,基本的には侵害額に相当する金銭を払わなければなりません。
また,冒頭の事案とは異なりますが,例えば,妻でない者に全財産を相続させる内容の遺言を作成した場合,基本的には妻の遺留分を侵害することとなりますので,財産を譲り受けた方と妻の間でトラブルが生じる可能性があります。
相続トラブルを防ぐためには、遺留分を侵害しないように気をつけて遺言書を作成するとよいでしょう。
子供のいない夫婦がしておくべき相続対策の方法!
(1) 遺言を作成する
遺言書を作成していない場合,遺産をどのように分割するかについて,相続人全員で遺産分割協議をしなければなりません。
これに対して,遺言書により,誰がどの財産を取得するのかを記載していれば,遺産分割協議を経る必要がなく,不動産の名義変更や預貯金の解約等を行うことができます。その結果,配偶者と法定相続人が疎遠・険悪な関係であるような場合にも,話し合いをする必要がなくなるという大きなメリットを享受できます。
また,遺言を作成することで,遺留分を侵害しない限り,財産を取得して欲しい人に法定相続分より多くの財産を取得させることができます。
例えば,配偶者と父母が相続人の場合、父母の遺留分は全体の6分の1ですので,配偶者に財産の6分の5を相続させる遺言を作成したとしても,父母の遺留分を侵害せず,法定相続分より多くの財産を妻に遺すことができます。
※遺言には,「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」があります。
当事務所では,①方式違反,②判断能力の点で遺言が無効になる確率が極めて低い公正証書遺言の作成をすることを推奨しております。
(2) 居住用不動産を配偶者に生前贈与する
婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、他の一方に対して自宅の不動産を生前に贈与または遺贈をした場合,このような贈与等を特別受益として取り扱わなくてよい(持ち戻しの免除の意思表示)という法改正が平成30年になされました。
この制度の利用により,配偶者は,居住用不動産を生前贈与により取得しつつ,遺産分割協議において,他の相続財産を取得するということが可能になりました。
しかも,婚姻期間が20年以上の夫婦であれば,夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除という特例を用いることで、基礎控除の110万円のほかに最高2000万円まで配偶者控除を受けられる場合があります。
しかしながら,遺留分額を算定する際は,持ち戻しの免除はされません。相続開始前10年以内になされた生前贈与については,遺留分を算定する際には考慮される点に注意が必要です。
(3) 遺留分対策を行う
相続財産の総額を減らす
遺留分は基本的には相続財産の額を基礎に計算されます。
したがいまして,母体となる相続財産の額を減らすことで遺留分の額も減らすことができます。できるだけ生前に贈与するなどして,相続財産を減らしておくという方法があります。
ただし,上記のとおり,遺留分額算定の基礎となる財産には,相続開始の前10年以内になされた特別受益としての生前贈与については加算されることになりますので,遺留分対策をする場合は,相続開始の10年間より前にする必要があります。
生命保険を利用する
生命保険金の死亡保険金は相続財産ではなく,保険金の受取人の固有の財産になりますので,原則遺留分の算定の基礎財産になりません。このような理由から,生命保険に加入し,受取人を配偶者にすることで,遺留分対策になります。
もっとも,財産総額に対する保険金の金額が大きい等他の相続人との間に著しい不公平が生じるケースでは,例外的に生命保険金も特別受益とみなされ,遺留分算定の基礎財産に含まれる可能性はあります。
したがいまして,生命保険により遺留分侵害額請求を全て封じることができると過信することは危険です。
解決事例のご紹介
子がいない夫婦の方が遺言を作成した事案をご紹介致します。
夫婦で当事務所にご来所されましたが,生前対策としての遺言作成については,当初遺言作成の必要性を認識しておられませんでした。しかし,子がおらず,父母も亡くなっておられることから,遺言を作成しないと,それぞれ配偶者の兄弟と話し合いをしなければならないこと,遺言を作成することで全ての財産を配偶者に遺すことができることを説明いたしました。
その結果,遺言を作成するという決断をしていただきました。弁護士がご本人様と打合せを行い,財産を整理した上で,お気持ちやご意向を聴取し,ご意思を実現できる遺言の内容を決定していきました。また、例えば、夫が先に亡くなった場合、遺言によって、妻は夫の全財産を相続することができますが、その後、妻が亡くなったときには、既に夫は亡くなっていますので、「夫に全財産を相続させる」というだけの遺言では、対応できないことになりますので、夫が先に亡くなっていた場合には、誰に財産をあげるのかという点なども打合せで確認していき、遺言に盛り込みました。
そして,遺言を公正証書により作成するため,遺言内容を公証人と打合せをして,日程を調整いたしました。また,公正証書遺言の作成には,証人が2人必要ですが,当事務所にて証人を確保することで対応いたしました。
こうして遺言を作成することで,自宅である居住用不動産を含む財産を配偶者の方に遺すことができました。
まとめ
以上のとおり,子がいない夫婦の方の相続については,注意をするべきことが多岐にわたります。したがいまして,法律の専門家である弁護士に遺言作成を依頼することだけでなく,遺言を作成するための準備段階から,相続に熟知した弁護士が関与し対策をしていくことが重要です。また,税務の観点からも,専門家と連携することで,最適な遺言の内容をご提案させていただきます。
当事務所の弁護士は、弁護士歴25年以上の経験があり,税理士・司法書士などの専門家とも連携して、相続手続全般について、適切なサポートを提供いたしますので,お悩みの方は,是非一度,当事務所にご相談ください。
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