未成年の子どもと共有名義になった不動産を売却するには、どうしたらいいの?

 先日、夫が亡くなりました。夫の相続人は、妻である私(Aさん)と、未成年の長男である子(Bく

 ん)です。

  夫の財産には、不動産があり、遺言書は作成していませんでした。

  夫の財産を分けるためには、私(Aさん)と長男(Bくん)で、遺産分割協議をする必要があると知

 り、長男は未成年のため、特別代理人を選任しました。

  そして私は、夫の不動産について、私と長男で、法定相続分で共有するとして、相続登記を行いまし

 た。

 

  夫が亡くなったこともあり、夫から相続した不動産を売却するか、担保に入れてお金を借りようと思

 っています。

  何か特殊な手続きなどが必要でしょうか?


A 未成年であるお子様との共有状態にある不動産全体を、第三者に売却する際には、特別代理人の選任

 は不要です。そのため、特殊な手続きは必要ありません。

 

  これに対して、共有している不動産全体に、Aさんを債務者とする抵当権を設定する場合などは、

 Aさんと子(Bさん)との間に利益が相反することになりますので、特別代理人を選任しなければなり

 ません。

 

  以下で、詳しく説明します。

   

未成年者は制限を受けるのか?

  

 未成年者が行った法律行為(※売買も法律行為の一つです。)は、有効です。しかしながら、未成年者を保護する見地から、未成年者が法定代理人の同意を得ないで行った法律行為は、取り消すことができるとされています(民法5条)。取り消しを行うと、その契約は、契約時に遡って、無効となります。

 

 未成年者は、明治時代から長年にわたって、日本での成人年齢20歳と法律で定められていました。

しかし、この法律の定めが改正され、令和4年(2022年)4月1日から、成人年齢が20歳→18歳へ変更されました。

これによって、令和4年(2022年)4月1日時点で18歳、19歳の方は令和4年(2022年)に成人となりました。また、令和4年(2022年)4月1日以降に18歳になる方(平成16年(2004年)以降に生まれた方)は、18歳の誕生日から成人となります。

 

 法定代理人とは、法律に基づいて、本人の意思によらずに決まる代理人のことです。

 

 難しい表現ですが、未成年者の法定代理人は通常、親権者であり、本件のQ&Aでは、母であるAさんのことです。

 

 民法の規定により、母であるAさんが関係せずに、未成年であるBくんが行った売買は、取り消すことができるのです(※一部例外はあります。)。

 

 しかし、不動産のような高価な買い物を取り消されると、売主も困ってしまいます。

 

 そのため、未成年者の不動産の売買に基づいて、所有権移転登記をするには、

 ★法定代理人(親権者など)の同意書

    または

 ★法定代理人(親権者など)が署名・押印した売買契約書

    と

 ★未成年者と親権者の関係がわかる戸籍謄本等

が必要になり、法定代理人の関与なしには、所有権移転登記ができません。

 

 したがって、通常、親権者の同意なく、未成年者が単独で不動産を売却することに応じる売主はいないでしょう。

 

共有している不動産を、未成年者が売却するには?

 

 前述のとおり、未成年者が、法定代理人(親権者など)の関与なしに行った行為は、取り消すことができる可能性があることから、例外的な事情がない限り、未成年者が単独で不動産の共有持分を売却することはできません。

 

 そうすると、未成年者の共有持分を売却するためには、「法定代理人」が関与する必要があります。

 

 通常、親権者が、未成年者の法定代理人になることが多いです。もしも未成年者の両親が存命であり、婚姻関係が継続していれば、両親が親権者として、「法定代理人」となります(民法818条)。

 

 これに対して、両親が離婚をしている場合は、親権者となっているどちらかが「法定代理人」となります。

 

親がいない場合はどうする?

 

 未成年者は、原則として、父母の親権によって、生活環境の整備や教育・財産管理をされることとなります。

 

 しかしながら、親権者の死亡や行方不明、重度の認知症などにより、親権を行使することができない場合は、「未成年後見人」が、親権者に代わって、未成年者の監護・教育を行ったり、財産を管理することとなります。

 

 「未成年後見人」は、未成年者の監護や教育について、親権者と同一の権利・義務を有します。

 

 未成年者に財産がある場合は、その財産を管理します。そして、売買や抵当権の設定などの際に、未成年者を代理することになります。

 

売却の際、法定代理人は具体的に何ができる?

  

 前述のとおり、未成年者が不動産を売却する場合は、「法定代理人」が関与することが必要です。

 

 以下では、具体的にどのように法定代理人が関与するのか説明します。

 

法定代理人が未成年者を代理して売買契約を締結する

 

 まず1つ目に、法定代理人が売買契約を締結することができます。

 

 具体的には、法定代理人である親権者が、第三者である不動産の売主(買主)と交渉し、不動産の売買契約書に署名・押印をします。

 

 その際は、契約書においても、自身が法定代理人であることを示す必要があります。例えば、「B法定代理人親権者A」などと書くのが良いでしょう。

 

 親権者が代理して、未成年者の財産を売買する際は、未成年者と利益が相反しない場合、未成年者の許可や、裁判所の許可などを得る必要はありません。

 

 このように聞くと、まるで、親が子の財産を好きに扱うことができてしまい、不合理ではないかと感じられるかもしれません。

 

 しかしながら、親権者は、自己のためにするのと同一の注意をもって、その管理権を行使しなければならないと法律に定められているため(民法第827条)、責任をもって子の財産を管理しなければなりません。

 

 さて、ここで、本件のQ&Aを検討してみましょう。

 

 未成年者Bくんの母であるAさんは、親権者であり、Bくんの父が死亡しているため、単独で親権を行使することができます。

 

 そのためAさんは、Aさん自身の不動産の共有持分と、Bくんの共有持分を併せて第三者に売却することができ、その際は、Bくんのために特別代理人を選任する必要はありません。

 ※ 親権者は、未成年者の法律行為(売買等)を代理することができますが、親権者と未成年者の 利

  益が相反する行為については、親権者は代理をすることができません。その際は、他の代理人が、

  代わりに未成年者の法律行為を行うことになり、その代理人のことを「特別代理人」といいます。

 

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 ★ 相続人の中に未成年者がいる場合に,遺産分割協議で気を付けるべきことはありますか。

 

「特別代理人」の選任が必要な場合

 

 ① 親権者が、共有持分を直接買い取る場合

   親権者が、未成年者から共有持分を直接買い取る場合は、「特別代理人」の選任が必要です。

 

   これは、親権者と未成年者の利益が相反する行為に該当するからです。そのため、「特別代理人」

  を選任し、親とその特別代理人において売買契約を締結する必要があります。

 

   本件のQ&Aで例えると、買主としてのAさんの立場では、安く買える方がメリットがあるのに

  し、売主としてのBさんの立場では、高く売れる方がメリットがあるという利益状況です。このよう

  に、利益相反になることは、分かり易いかと思います。

  ② 親権者の借入を担保するために、未成年者の共有持分に、親権者自身が抵当権を設定する場合

     親権者の借入を担保するために、未成年者の共有持分に、親権者自身が抵当権を設定すること

   は、たとえその借入が、未成年者の学費に使用するためであったとしても、利益相反に該当するた

   め、「特別代理人」を選任する必要があります。(※下記イラスト②をご覧ください。)

 

    これに対して、親権者が、借入れたお金を、親権者の投資資金(例:ブランドバックの購入費用

   など)として使用するための目的をもっていたとしても、未成年者自身を債務者として未成年者の

   不動産に抵当権を設定することは利益相反にならないとされています(※下記イラスト①をご覧

   ださい。

   このように、我が国の判例・実務では、未成年者と親権者の関係が、利益相反に該当するか否か

  は、行為の外形からのみで判断すべきであり、親権者の動機や意図をもって判断するべきではないと

  されています。

 

未成年者が売買し、法定代理人が同意する

   

 2つ目に、未成年者自身が売買契約の当事者となり、法定代理人がその売買契約について同意することができます。

 

 【法定代理人が未成年者を代理して売買契約を締結する】場合と比較すると、不動産の売買契約書に署名・押印をするのは未成年者自身になります。

 

 こういった場合は、不動産の名義を変更するために、法定代理人である親権者の同意書が必要となります。

 

 本件のQ&Aで例えると、未成年者のBくん自身が、第三者と売買契約を締結し、署名・押印もBくんが行います。

 そして、親権者であるAさんが、Bくんが行った売買契約に同意をする内容の「同意書」を作成することになります。

 

まとめ

 

 今回の内容は、以下のとおりです。

 

  (1) 未成年者が、法定代理人(親権者など)の同意を得ないで行った法律行為は、取り消すことが

   できます。

 

  (2) 未成年者が、法定代理人の関与なしに行った行為は、取り消すことができるため、事実上、

    例外的な事情がない限り、未成年者が単独で不動産の共有持分を売却することはできません。

 

  (3) 親権者の死亡・行方不明、重度の認知症などにより、親権を行使することができない場合に

    は、「未成年後見人」が、未成年者の監護・教育を行ったり、財産を管理することとなります。

  

  (4) 未成年者の不動産を売却する方法

    ① 法定代理人が、未成年者の代理人として、第三者と売買契約を締結する方法があります。

     その際は、未成年者の同意や特別代理人の選任は不要です。

    ② 未成年者自身が売買契約の当事者となり、法定代理人がその売買契約について同意をする方

     法があります。

 

  (5) 親権者が、未成年者から共有持分を直接買取る場合は、親権者と未成年者の利益が相反する行

    為に該当します。そのため、特別代理人を選任し、親権者とその特別代理人において、売買契約

    を締結する必要があります。

 

 未成年者が、不動産の共有者である場合は、未成年者の共有持分を売却するために、親権者が代理したり、同意をする必要があるなど、通常の売買に比較して、複雑な判断や手続きが必要となります。

 

 また、具体的な場面において、親権者と未成年者との間の利益が相反するのか(=特別代理人の選任が必要か否か)についての判断は、専門的な知見が必要です。

 

 個々の具体的事案に沿った最適な方法を検討し、アドバイスさせていただきますので、共有関係についてのお悩みがある場合は、まずは弁護士にご相談ください。

 

 当事務所は、弁護士歴26年以上の弁護士が在籍しており、多くの専門性を要する不動産の共有に関するご相談を受けてきました。机上の法律知識だけでは得られない、多数の相談や解決実績に裏付けられた実践的なノウハウを蓄積しております。

 

 こういった経験から、不動産の共有関係の問題はもちろん、相続全般について、皆様に最適なサポートを提供いたしますので、お悩みの方は是非一度、当事務所にご相談ください。

 

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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