【相手方が不合理な主張に固執していたが、分かり易い資料を提供し、粘り強く交渉をすることで遺産分割を成立させた事案】&【不動産について鑑定を実施した事案】

相談内容

 

 依頼者の父が死亡したため、遺産分割協議が必要となりました。法定相続人は、依頼者とその兄(以下、「相手方」といいます。)、そして、兄の実子であり、被相続人(亡くなった父)と養子縁組をした養子の合計3人でした。

 

 依頼者と相手方(兄)は、良好な関係とはいえない状態であり、かつ、養子(兄の子)とは疎遠でした。被相続人(父)の死後、相手方(兄)は、被相続人の遺産である実家に住み始めました。

 

 被相続人には、実家である不動産の他に、預貯金がありました。

 

 相手方は、遺産である不動産を自分が取得し、更に預貯金も取得したいなどと主張しており、当事者間では遺産分割協議が進みませんでした。養子(兄の子)は、自身の親である相手方に付いています。

 

 このような経緯から依頼者は、遺産分割協議を進めるために、弊事務所にご相談にお越しになりました。

弁護士の活動内容

 

本件の争点

 

 本件では、相手方が独自の主張に固執していたため、裁判所を介さない話し合いによる解決は困難でした。そのため、家庭裁判所における「遺産分割調停」を進めることになりました。

 

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 また、遺産の一部である、不動産(実家)に住む相手方が、不動産の取得を希望したことから、不動産の評価額が問題となりました。

 

 さらに相手方は、自身が被相続人(父)のために、葬儀費用等を支出したこと・実家の不動産の改装費用を出したこと などを主張したため、その支出が、法的にどのような意味を持つのか という点も問題になりました。

 

 

 

遺産分割調停の流れ

 

不動産の評価額について

 

 遺産の一部に不動産があり、その不動産を、相続人のどなたかが取得する場合は、その評価額が争いになります。

 

 基本的には、不動産を取得したい方は、代償金の支払いを少なくするために、不動産が低く評価されるべきであると主張します。

 

 一方で、不動産を取得しない方は、代償金を多く獲得するために、不動産が高く評価されるべきであると主張します。

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 なお、遺産分割協議の場合は、「遺産分割時点での時価」が、不動産の評価になります。

 

 しかし、遺産分割調停の場合は、不動産の時価を確定することは難しく、公示地価・固定資産税評価額・路線価などを参考にしたり、不動産会社が作成する査定を元に算出する場合があります。

 

 また、当事者双方が、それぞれ不動産業者から作成してもらった査定書を提出し、双方の査定額の中間の値をとる場合もあります。

 

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 前記のような方法でも、不動産の価額についての合意ができない場合には、裁判所が選任した「不動産鑑定士」による、鑑定評価額をもとに、不動産の価額を決めることになります。

 

【今回の事例】

 相手方は、不動産の評価について、「固定資産税評価額を基準として計算するべきである」と主張し、一切譲歩しなかったこと から、不動産の評価額について合意できず、不動産鑑定士による鑑定へ進みました。


 不動産を鑑定する場合、不動産鑑定士に対する費用がかかります。本件でも、70万円程度の鑑定費用が発生したため、相続人全員で分担することになりました。


 鑑定には、2ヶ月程度の期間を要しましたが、不動産の評価額の争いについては決着しました。

 

ちなみに・・・

 裁判所が選任した不動産鑑定士が出した鑑定評価について、納得がいかないと主張をした場合は、審判に移行します。ただし、そもそも鑑定評価額に従うことを合意した上で、鑑定を実施することが多いです。

 

 相手方が、不動産を取得することを希望したため、依頼者は、代償金の支払いを受けることになりました。代償金が確実に支払われるよう、裁判所に対して、「相手方が代償金を支払う資力があるのか」を確認するように要請しました。

 

 

 

相手方が、預貯金も取得したいと主張した点について

 

 相手方は、不動産に加え、預貯金についても、法定相続分の割合で取得したいと主張していました。

 

 しかし、不動産の評価額は、相続財産全体の半分程度の評価であり、相手方の法定相続分である3分の1をすでに超えていました。不動産を相手方が取得することは、「貰いすぎ」の状態であったため、加えて預貯金を取得するどころか、むしろ他の相続人に対して、代償金を支払うべき立場にありました。

 

  このように、相手方の主張は、法的には不合理なものですが、弁護士を就けずに自身で進めている場合、法的には認められない主張に固執する当事者もいます。

 そこで当方は、

 

 ① 遺産を一覧表にまとめる

 ② 各相続人の相続分で計算する

 ③ 法定相続分との関係で、過不足がひと目でわかる資料を作成する

  (※財産を貰いすぎているため、他の相続人に代償金を支払わなければならない

   のか、あるいは、代償金を支払ってもらう側なのか)

 

という対応をしました。

 

 資料を提出し、相手方を説得することで、遺産分割調停を成立させることができました。

 

 葬儀費用等や不動産の改修費用について

 

 相手方は、「自分が葬儀費用等を支出したので、その負担も考慮して、遺産分割をすべきである」と主張しました。

 

 しかし、葬儀費用等については、領収書等も十分揃っていなかったことに加えて、被相続人の死後に通帳から出金があったため、その出金から支出した可能性があることを指摘したところ、相手方は主張を取り下げました。

 

 また、相手方は「数十年前に不動産の改修費用を支出した」と主張しました。しかしこの主張は、証拠が存在しないことから認められませんでした。

 

結果

 

 当初は感情的対立もあり、話し合い自体が前に進んでいませんでした。しかし、弁護士が、粘り強く説明や説得をすることで、代償金の額・支払い方法・葬儀費用等の問題などについて、当事者全員が納得し、無事に遺産分割調停が成立しました。

 

弁護士の所感(コメント)

 

 本件のように、相続人に弁護士が就いていない場合、どんなに法的に妥当な主張をしても、相手方が理解できない・感情的に納得ができないなどの理由により、話が進まないケースがあります。

 

 このような場合でも、視覚的にわかりやすい資料を相手方に提示・説明する努力をしたり、電話や対面で話をし、粘り強く協議をしていくことで、話し合いを前に進めることができます。

 

 相手方が、法的には不合理なことを主張していても、こちらが強い言葉で非難したり、ケンカをしてしまっては、相手方を感情的にしてしまい、紛争解決に至りません。また、裁判所の信頼も勝ち取れず、調停を有利に進めることもできません。

 

 今回の調停では、相手方の法的知識の不足から、説明・説得に時間を要しましたが、審判に移行してしまった場合に比較すると、きちんとわかりやすく説明をすることで、早期かつ妥当な解決ができました。

 

 また、納得の上で調停を成立させたことで、代償金の支払いを受けることができ、することができました。

 

 依頼者の正当な利益を実現し、相手方との関係も壊すことなく、事件を解決することができた事案でした。

 

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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