成年後見制度とは?選任の手続きと活用例
成年後見に関して、このようなご質問(お悩み)はありますか?
Q 私の父は認知症が進んできています。父には充分な預貯金がないので,入所する施設の料金を捻出するため,父名義の不動産を売却しようと考えております。また,兄は,父が認知症であることを好機として,父の預貯金を使い込んでいる可能性があります。父が入所する施設の料金を確保し,兄の使い込みを防止するために,何かいい方法はないでしょうか?
A 一つの方法として,お父様に成年後見人を選任する方法があります。成年後見人を選任すれば,必要な限りで不動産を売却できる場合があります。また,お父様の財産の管理権が成年後見人に移りますので,親族による財産の使い込みを防止することができます。
成年後見制度とは
成年後見制度は,本人が認知症,知的障害,精神障害,発達障害等の精神上の障害により判断能力が不十分である場合に,成年後見人が本人に代わって適切な財産管理,契約等を行うことで,生活を保護・支援する制度です。
簡単にいうと,自分では財産を適切に管理できなくなった人の財産を第三者が管理し,不当な契約や財産の横領等から保護するための制度です。
保護する人を「後見人」,保護される人を「被後見人」といいます。
成年後見制度には,大きく分けると,法定後見制度と任意後見制度の2つの制度があります。
法定後見制度とは
本人の判断能力が不十分になった後に,家庭裁判所によって選任された成年後見人等が本人を法律的に支援する制度です。
法定後見制度が必要になったタイミングで、本人(認知症,知的障害,精神障害などによって物事を判断する能力が不十分な方),配偶者、4親等以内の親族などが、本人の住民票上の住所地を管轄する家庭裁判所に対して,後見開始の申立てをすることで手続きが開始されます。
任意後見制度とは
本人が十分な判断能力を有する時に,あらかじめ,任意後見人となる方や将来その方に委任する事務(本人の生活,療養看護及び財産管理に関する事務)の内容を定めておき,本人の判断能力が不十分になった後に,任意後見人がこれらの事務を本人に代わって行う制度です。
本人が判断能力を有している時点で,本人と任意後見人との間において任意後見契約を締結することで,誰を後見人にするか,どのような内容の支援をしてもらうのかを予め決められる点が法定後見制度との大きな違いです。
成年後見人の業務内容
被後見人の財産管理
成年後見人は被後見人の財産(預貯金、不動産、保険、証券,自動車など)を把握して財産目録を作成し、家庭裁判所へ提出します。
そして,財産の使用状況などを報告書にまとめ、定期的に家庭裁判所へ報告します。
このように、被後見人の財産は成年後見人が管理し,家庭裁判所も関与するため、家族であっても被後見人の財産を自由に使うことは出来なくなります。
被後見人の身上監護
成年後見人は,被後見人のために,療養看護などに必要な各種契約を代行する権限があります。
具体的には、被後見人の住まいの確保,入院や施設入所などの契約、リハビリに関する契約などが挙げられます。
また、療養看護の収支予定表を作成し,家庭裁判所に提出します。
なお,被後見人が手術などの医療行為を受けるに当たっての同意・不同意の決定権は後見人にはなく,被後見人または家族に決定権があります。
成年後見制度を利用する流れ
法定後見制度の手続きは、次のような流れで行われます。
任意後見制度の手続きは、次のような流れで行われます。
① 任意後見人の決定・公証役場で後見契約の締結
↓
② 本人の判断力の低下・喪失した時点で家庭裁判所に任意後見監督人選任の申し立て
↓
③ 任意後見手続きの開始
成年後見制度を有効に活用できる事例
上記のように,成年後見人は,成年被後見人の意思,心身の状態,生活状況を考慮しながら,成年被後見人の契約等を代理したり,財産管理を行います。
以下では,成年後見制度の有効な活用方法を紹介いたします。
不動産を処分したい
認知症の程度が進んだ場合,意思能力が無いと判断され,所有している不動産を売却したり,担保に入れてお金を借りたりといったことができなくなってしまいます。
そうすると,冒頭の事例のように,施設利用料に充てるために不動産を売却しようにも,売却できないという事態が生じてしまいます。
そういうときに,成年後見人を選任して,成年被後見人の不動産を処分するという方法が考えられます。
ただし,成年被後見人の居住用不動産を処分(売却,賃貸借契約の締結・解除,抵当権の設定,その他これらに準ずる処分)することは,本人の精神に大きな影響を与えることから,家庭裁判所の許可が必要となります(民法859条の3)。
後見人が選任されている事案においては,成年被後見人が施設に入っていたり、病院に入院したりしていて、処分の時点では対象不動産に居住していないケースも少なくありません。
このような場合でも,現在住んでいないという点だけで判断するのではなく,
1.本人の生活の本拠として現に居住している建物とその敷地、
2.現在居住していないが過去に生活の本拠となっていた建物とその敷地、
3.現在居住していないが将来生活の本拠として利用する予定の建物とその敷地
は居住用不動産に該当するとされております。
そして,家庭裁判所が居住用不動産の売却を許可するか否かを判断する際は,
1.当該処分の必要性、
2.当該処分を許可した場合に考えられる被後見人の心身の状態への影響、
3.当該処分の内容(売却の条件等)、
4.被後見人の生活状況、
5.被後見人の意向等
を考慮して決定されます。
なお,不動産を売却することができて資金を確保できた場合に,「もう後見人はいらないから外したい!」と親族の方が思っても,成年後見制度は成年被後見人のための制度ですので,本人の判断能力が回復したなどの事情がない限り,成年後見制度の利用を途中でやめることはできませんのでご注意下さい。
銀行手続きをしたい
預貯金からお金を引き出したり,定期預金の解約をしたりする場合は,基本的には,契約者本人以外,手続はできません。
毎月医療費がかかったり,施設の入所などでお金が必要なのに,預貯金の引き出し・解約ができないと困ることもあると思います。
このような場合にも,基本的には,成年後見制度を利用し,成年後見人等の法的な裏付けのある代理人において解約等をすることとなります。
2021年(令和3年)2月18日に全国銀行協会は「金融取引の代理等に関する考え方」を発表し,金融機関によっては柔軟な対応がされる可能性もあります。
しかしながら,同発表においても,
「認知判断能力の低下した本人との取引においては、顧客本人の財産保護の観点から、親族等に成年後見制度等の利用を促すのが一般的である」、
「認知判断能力を喪失する以前であれば本人が支払っていたであろう本人の医療費等の支払い手続きを親族等が代わりにする行為など、本人の利益に適合することが明らかである場合に限り、依頼に応じることが考えられる」
とあるように,基本的には後見人制度の利用が求められております。
遺産分割協議をしたい
認知症等の事情により意思能力を有しない方は,自身の相続に関して,遺産分割協議を行うことができません。そうすると,遺産分割協議をいつまで経っても進めることができず、他の相続人も困る事態になります。
そこで,遺産分割協議を行うために,成年後見人を選任する必要があります。
しかしながら,成年後見人は,中立的な立場で成年被後見人の権利を保護する立場ですので,各家庭に応じた柔軟な対応をとることには限界があります。
具体的には,法定相続分を大きく下回るような,成年被後見人にとって不利な遺産分割協議をすることができません。
このような場合に備えて,遺言を作成しておくことをお勧めいたします。
判断能力の低下につけ込んだセールス等から本人を守りたい
世間では悪質な業者等が、判断能力の低下した高齢者に対して,高額な商品等を売り込む事件が後を立ちません。
意思能力のない状態で行った売買等の法律行為は無効です。しかし,成年後見等の制度を利用していない場合,売買契約当時、「意思能力がなかったこと」を裁判において立証することは必ずしも容易ではありません。
これに対して,成年後見人を選任している場合,成年被後見人の法律行為は、日用品の購入その他日常生活に関する行為でない場合は,基本的には取り消すことができます。
したがいまして,例えば高額な商品を成年被後見人が購入した場合には,成年後見人が,「意思能力がなかったこと」を証明する必要もなく、当該売買を取り消すことができます。
このように,認知症の方が高額な取引をし,財産を散逸させることを防止するために,成年後見制度を活用することができます。
認知症の方の財産を使い込んでいる親族がいる場合
認知症等の理由により,判断能力が落ちてきている場合,親族等が通帳を管理するケースは多いです。
このようなケースのなかには,通帳を管理している親族等が,使い込みをしていることが疑われることもあります。
このような場合に,成年後見人を選任すると,財産の管理権が成年後見人に移るので,以降,通帳を保管していた親族は,成年被後見人の財産を自由に使うことができなくなります。
したがいまして,成年後見人を選任することで,親族等の使い込みを防止することができます。
また,成年後見人という裁判所に選任された中立的な第三者が財産を管理し,家庭裁判所に財産状況を報告することになりますので,親族間の感情的な対立も起こりにくくなるというメリットもあります。
後見制度の利用を検討するにあたって留意すべき事項
成年後見制度を利用するかどうかを検討するにあたって、知っておくべき留意事項についてご説明いたします。
留意点1/申立人らが希望する者が後見人に就任できる保証はない
御家族が、成年後見の申し立てをして、お子さんが成年後見人になろうと思っても,お子さんが成年後見人に選ばれる保証はないということにご注意ください。
現状,成年後見人のうち70%以上が,弁護士,司法書士といった第三者(専門家)後見人です。
親族間において対立がある御家族では,本人をトラブルに巻き込まないためにも,第三者である専門家が後見人に選任されるのが通例です。
更に,親族間に対立がないご家庭で,自分が成年後見人になろうとして申し立てた結果、弁護士や司法書士が選ばれてしまうケースも実は多く存在します。
基本的に一定の財産額(概ね1,000万円以上)がある場合は、弁護士や司法書士が成年後見人に選任される可能性が高いということにご注意ください。
更に,後記のとおり成年後見人は一旦選任されますと、途中で変更したり、辞めることが難しいので,申し立てをするか否かを含め慎重に検討する必要があります。
留意点2/専門家が成年後見人になると報酬が発生する
前記のとおり、弁護士や司法書士といった専門家が後見人に選任された場合,専門家がボランティアで後見業務を行ってくれる訳ではありませんので、成年後見人に対する報酬を支払う必要があります。
報酬は本人の財産から支払うことになります。
後見人報酬の基準は月額2万円ですが,管理する財産が増えると報酬も増えます。
(詳細は,裁判所の資料をご確認下さい。成年後見人等の報酬額のめやす>>)
仮に,報酬金額が月3万円だとすると、年36万円、10年間で360万円もの報酬を専門家に支払うことになります。
そのため,不動産処分のためだけに成年後見制度を利用し、成年後見人に専門家が就任した結果,長期的にみると多額の後見人報酬が発生し,結果として割に合わないことになるという可能性もありますので,注意が必要です。
勿論,専門家後見人のもとで,しっかりと本人の財産管理がされるというのは大きなメリットですが,何が目的なのかという点との兼ね合いで検討する必要があります。
目的如何では,成年後見制度ではなく、家族信託など他の方法の方がより効果的なこともありますので、成年後見制度以外でも対応できないかという点もご検討されることをお勧めします。
留意点3/途中で後見制度の利用を中断することはできない
前記の通り、成年後見制度は手続が開始されると途中で中断することはできないという点についても留意が必要です。
成年後見制度は,本人を保護するための制度ですので,親族の都合によって途中で止めるということはできません。
本人が若年であり,途中で回復したなどの例外的な場合に後見制度を終了できる場合はありますが,高齢者の場合には、基本的に状況が悪化することはあっても回復するということは考えにくいため、基本的には本人の死亡まで後見人による財産管理等が続くことになります。
留意点4/毎年,家庭裁判所への報告等の手続きが必要であること
後見人は,毎年,家庭裁判所に後見等事務報告書,財産目録,収支表等を提出する必要があります。例えば,収支表は,1年間の収入と支出を集計して作成することになり,親族後見人が自分で準備して作成するのは意外と大変です。
専門家が後見人に就任した場合は,前記のとおり後見人報酬が発生しますが,これらの煩雑な事務も全て専門家に任せておけますので,御家族は面倒な事務から解放されることになります。
逆に,後見人報酬を節約するために,親族が後見人に就任される場合には,このような面倒な事務作業などを毎年行わないといけないということになります。
こんな大変だと分かっていたら成年後見制度を利用しなかったと後悔しないように、この点を十分理解した上で、成年後見制度を利用する必要があります。
留意点5/できることに制約がある
成年後見人は,高齢者の財産管理といっても,何でも自由にできる訳ではありません。
例えば、本人の財産を使って,株式投資で財産を増やそうと考えても,財産が減ってしまうリスクもある投資を裁判所が認めることは基本的にありません。
また,相続税対策をしたいと考えても,相続税対策は相続税を納めることになる将来の相続人のための対策であって,本人のためとはいえませんので,相続税対策などもできません。
このように,成年後見制度は,本人を保護するという目的のために厳格に運用され,融通がきかない場面もありますので,特に資産をお持ちの方は、後見制度を利用するか否かを慎重にご判断ください。
成年後見制度の利用を弁護士に任せるメリット
専門家に面倒な作業を一任できる
成年後見制度の利用に際し、煩雑な申立て手続きを、すべて弁護士に任せることで、慣れない手続によるストレスから解放されます。
勿論、申立てにあたって必要な資料や情報を弁護士が保有している訳ではありませんので、弁護士に依頼しても、弁護士との打合せを通じて弁護士に情報を把握してもらうことや、御自宅にある資料などを集めて弁護士に交付するなど一定の作業は免れませんが、手続きがスムーズに進むことは間違いありません。
弁護士に成年後見人に就任してもらうこともあります。
成年後見人は,成年被後見人を保護するため,裁判所に選任され,重大な職責を負っております。判断するべきことも多岐にわたりますし,家庭裁判所への報告も煩雑な作業を伴いますので,ご自身で行う場合には負担に感じることもあるでしょう。
また,親族とのやり取りについても,感情的なもつれ等からご負担に感じるかもしれません。
この点,専門家である弁護士に任せることで,このような負担から解放されます。
なお、前記のとおり後見人を選任するのは裁判所ですので、あなたが信頼する弁護士を後見人候補者として推薦することはできますが、最終的に裁判所が別の弁護士を後見人に選任することもあります。
法律の専門家による公正・中立な後見ができる
後見人を選任する事情としては,親族による財産の使い込みのような,親族間の対立状況がある事案も存在します。
弁護士は,紛争案件を日常的に扱っておりますので,このような事案においても毅然と対応することで,成年後見人として公正な業務を行うことができます。
例えば,親族が,不当に財産を領得している場合には,その親族に対し返還を請求したりする場合もあります。
また,意思能力が欠けていることに乗じてなされた売買や,贈与の無効を主張したりすることもあります。
まとめ
成年後見は,誰にとっても問題となりうるものです。
成年後見人を選任すると,基本的には本人が亡くなるまで手続きが続くこと,専門家を選任すると費用が発生する等のデメリットはありますが,親族による使い込みを防止でき,公正に財産管理が行われる等のメリットも多数存在します。
当事務所の弁護士は、弁護士歴25年以上の経験の中、多くの専門性を要する相続に関する相談を受け,事件を解決してきました。
また、相続の生前対策とそれと一体となる成年後見に関する業務についても豊富な経験を有しております。
机上の法律知識だけでは得られない,多数の相談や解決実績に裏付けられた実践的なノウハウを蓄積しております。
こういった経験から,成年後見に関する業務を含む,相続全般について,皆様に最適なサポートを提供いたしますので,お悩みの方は,是非一度,当事務所にご相談ください。
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