従前の贈与に配慮した遺言書を作成した事例

相談内容

依頼者は70歳後半の男性で,数年前に妻を亡くし,長男と長女がいます。それまでは長男が跡取りという考えから,長男には何かと贈与(援助)をしてきたものの,嫁に行った長女には特に援助などしてきませんでした。

 

数年前に妻を亡くして精神的に弱っていたところに体も自由が利かなくなってきたため,定期的に長女が身の回りの世話や介護に来てくれることになり,心身ともに支えになってくれているとのことでした。

 

そこで,これまで何もしてあげていなかった長女に財産を残したいという希望で相談にお越しになりました。

※ 色がついている方が関係者の方々です。

争点

今後の生活費を考慮すると,それほど多くの財産が残るわけではないことが予想され,そのため依頼者も死亡時に存在する全ての財産を長女に相続させることを希望されましたが,長男の遺留分を侵害するのではないかという問題がありました。

弁護士の提案内容

まず,これまで長男に贈与した財産を集計し,その内容を盛り込んだ遺言書を作成することを提案し,現在存在する財産の目録の作成とあわせて,通帳の送金記録などから,過去に長男に贈与した金額をまとめていきました。

結果

依頼者の希望にそって,死亡時に存在する全財産を長女に相続させる旨の遺言を作成するとともに,資料から確認できる贈与の日時,金額の一覧を遺言書に記載し,長男の遺留分を侵害する内容ではないことを明記する公正証書遺言を作成しました。

弁護士の所感(コメント)

遺留分を計算するための「遺留分の基礎となる財産」は、被相続人が相続開始時に保有していた財産(遺産)に、生前贈与した財産を加えた額(ただし,相続人への贈与は原則として相続開始前10年以内のものに限り算入されます。)から債務を差し引いて算定します。

 

そのため,生前に十分な贈与を受けていた相続人については,相続時に受け取れる遺産がなかったとしても遺留分が侵害されていないということもあり得ます。しかしながら,贈与は,贈与するもの(被相続人)と贈与を受けるもの(相続人)との間の契約ですので,他の相続人が贈与の事実を知らなかったり,贈与の事実を証明できないということがあります。

 

そこで,贈与の当事者である被相続人(親)において贈与の内容を遺言書に明記しておくことで,贈与を受けた相続人にも生前に十分財産を受け取っていることを再認識してもらい,遺言の内容に納得してもらう効果があり,また万一のときに贈与を受けていない相続人が贈与の事実を証明する一助にできるような内容の遺言書を作成しておくことは効果的であると考えられます。

 

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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