自筆証書遺言が有効と認められるためには
自筆証書遺言とは,読んで字のごとく,全文を自筆で(自分自身で)書いた遺言のことです(民法968条1項)。
自筆で長文を書くのは面倒であるという方や,病気・事故などによって視力を失いまたは手が震えるなどのために,自分で字を書くのが難しいという方もおられますが,自筆証書遺言の場合,代筆は許されませんので,必ず自分自身の字で書く必要があります。もし,自分の子供など自分以外の人が代理で記入した場合,その遺言自体が無効となります。
遺言の効果が発生するのは,遺言作成者本人の死後ですので,そもそもこの遺言書は遺言作成者とされている人本人が作成したものなのか,また遺言に書かれた内容が遺言作成者本人の真意なのか等について確認することができません。
また,遺言書には遺産のことも書かれていますので,遺言者が偽造・変造される可能性もあります。そこで,民法では自筆証書遺言の作成に次のような厳格な要件を定めています。
【自筆証書遺言の5つの形式的要件】
1.全文自書すること
自書とは,遺言者がその全文等を自分で書くことをいいます。自書が要求される理由は筆跡によって本人が作成したものかどうかを判定でき,自筆ということが分かれば遺言の内容が遺言作成者本人の真意であると推測できるからです。
したがって,日本語ではなく,外国語で書かれていても問題はありませんが,パソコン,ワープロ,タイプライター,点字機等で作成された遺言は無効ということになります。
また,遺言に財産目録を添付する場合,膨大な財産を手書きするのは大変なので財産目録をパソコンなどで作成しようと考えることもあるかもしれませんが,2019年(平成31年)1月12日までの改正前の民法では,財産目録についても,自筆で作成しないと無効となってしまいます。
なお,同月13日以降に作成された自筆証書遺言については,一定の要件のもと,パソコン等で作成した目録や他の人に作成してもらった目録を添付したり,銀行通帳のコピーや 不動産の登記事項証明書等を目録として添付したりして遺言を作成しても有効となるなど,自筆証書遺言の要件が緩和されます。
鉛筆で書いたものは無効ではありませんが,消えてしまったり,勝手に書きかえられてしまう可能性もありますので,消せないボールペンや万年筆を使って作成するのが望ましいです。
2.日付を自書すること
遺言が複数ある場合には,内容が重複する部分については,新しいものが効力のある遺言とされますので,複数の遺言がある場合,その作成の先後を確認する必要があります。また,遺言作成時に遺言作成者が遺言を作成する能力があったのか(遺言能力の有無)を判定する必要があることもあります。そのため,日付の自書が要求されており,日付を記載していない遺言は無効となります。
年は元号を使っても西暦を使ってもかまいません。年月だけで日の記載がない遺言は日付を特定できませんので,無効です(大判大7.4.27民録24輯722頁)。また,「◯年◯月吉日」という日付を書いた遺言も「吉日」では日付を特定できないため無効となります(最判昭54.5.31民集30巻4号445頁)ので,注意が必要です。
遺言書自体ではなく,遺言書を入れる封筒に日付を自書した場合でも有効と判断した裁判例(福岡高判昭27.2.27高民集5巻2号70頁)もありますが,争いの原因になりますので,できる限り遺言書と同一の書面に書くようにしてください。
3.氏名を自書すること
氏名の自書は,遺言作成者が誰であるのか,また遺言作成者本人が作成したものであることを明らかにするために要求されます。ですから,できる限り本名(戸籍上の氏名)を記載すべきということになります。ただし,ペンネーム,芸名,屋号などでも,遺言者本人と同一であると認識できる程度の表示であれば有効と判断されることがあります(大判大4.7.3.民録21輯1176頁)。
4.押印すること
押印が要求される意味も,前記3.の氏名の自書と同じです。
実印でも認印でも構いませんが,実印を押せば,本人が書いたものであることをより明確に証明することもでき,トラブルの予防により効果的です。
また,印鑑ではなく,指印(拇印)でもよいとした判例(最判平元.2.16民集43巻2号45頁)もあります。ただし,指印では,遺言者の死後に本人のものかどうかで争いになる可能性がありますので,手元に印鑑がないなどの緊急時でもない限りは,指印ではなく,しっかりと印鑑を押すようにしましょう。
遺言書が数枚にわたる場合に,これを綴って契印(割印)するのが一般的ですが,契印がなくても,その数枚が1通の遺言書として作成されたものであることが確認できれば有効であるとされています(最判昭36.6.22民集15巻6号1622頁)。
5.加除その他の変更について
加除その他の変更は,遺言者がその場所を指示し,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押さなければならない(民法968条2項)とされており,この方式に則っていない訂正等は無効になります(訂正等が無効になるだけで,遺言全体が無効になるわけではありません。)。
つまり,次のような非常に複雑な作業が必要になりますので,間違えた場合には最初から書き直した方が安心です。
① 遺言書中の訂正箇所を指示する。
② ①で指示した部分について変更した旨を付記する。
③ ②の付記に署名する。
④ 訂正箇所に実際に変更を加える。
⑤ ④で変更を加えた訂正箇所に印を押す。
【その他の要件】
自筆証書遺言だけではなく,全ての方式の遺言に共通する内容ですが,自筆証書遺言では,公証人等の専門家が関与しないことが多いために,顕在化する問題として,次のような問題があります。
1.遺言能力
遺言をするときに遺言能力を有することが必要(民法963条)とされていますので,遺言能力がない状態で作成された遺言は無効となります。遺言能力とは,自分のする遺言の内容及びその結果を理解し判断できる能力のことです。
裁判では,相続開始後に,遺言能力不存在を理由として遺言の効力が争われることになります。
遺言能力があったか否かは,裁判実務では,①遺言者の精神上の障害の有無,内容,程度等のみで判断するのではなく,②遺言の内容,作成の動機や経緯を総合的に判断すべきとされています。
例えば,認知症があっても,それは総合判断の諸事情の1つであり,これだけが決め手になるわけではありません。遺言者の病気に関する事項(発病時から遺言時までの病状を含めた心身の状況),遺言者の認識,理解,判断,表現力,遺言の内容,遺言者と相続人または受遺者との人的関係(長年同居している親族がいるのに,ほとんど交流のなかった他人に財産を譲るのは不自然であるなど),作成の動機や経緯を総合的に判断することが必要になります。
そのため,遺言の内容が複雑かどうかという点も重要になってきます。自宅の土地建物しか遺産がなく,これを1人息子に相続させるという遺言であれば,内容も簡単ですので,高度な能力は必要ないといえますが,複数の人に遺贈するなど遺言の内容が複雑なもの,遺贈の金額が高額になるものなどは,ある程度高度の判断能力が必要ということになります。
2.共同遺言の禁止
夫婦で仲良く,遺言を作成したいと思われる方もおられますが,民法975条は「遺言は2人以上の者が同一の証書で作成することはできない」と規定していますので,共同遺言をすることはできませんので注意が必要です。
3.内容についての解釈
遺言自体が無効になるわけではありませんが,記載内容について解釈が分かれるような明確ではない内容の遺言を作成してしまうと,折角,相続紛争を防ぐために作成したにもかかわらず,遺言の解釈を巡って訴訟に発展する可能性があります。
また,財産目録を作るときには,財産を正確に特定できるような記載をする必要があります。例えば,「自宅は長男に相続させる」と書いても,自宅というだけでは,不動産の特定として不十分です。所有権移転登記をしたくても法務局が登記の受付をしてくれないという問題があるだけではなく,この部分が無効とされてしまう可能性もあります。
公正証書遺言を作成する場合は,曖昧な表現などは公証人が指摘して修正してくれますが,自筆証書遺言の場合は,自分で作成しなければいけませんので,後日,トラブルにならないように,明確な表現で作成するよう気を付けてください。
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