遺産分割協議済みであると主張されたが,遺産分割協議の成立を否定して新たに遺産分割協議を行った結果4800万円の増額に成功した事案

相談内容

依頼者は,被相続人の後妻でしたが,夫の生前は先妻の子らとも交流し関係は良好だと思っておられました。

 

ところが,夫が死亡した後,依頼者は,先妻の子らから法定相続分は2分の1であるところ,3分の1の財産の取得だけで応じるよう詰め寄られ,法的知識もないため,曖昧な回答をされ,これに応じたとも受け取られかねない状態でした。

 

その後も,依頼者が取得する財産が3分の1相当であることを前提とする分割案を示されるなどし,依頼者もこれに明確に反対の意見を述べることなく時間が経過していきました。

 

その後,依頼者は,このような条件が法的に正しいのか相談したいということでご相談にお越しになりました。

※ 色がついている方が関係者の方々です。

争点

遺産分割協議が成立したといえるのかが争点になりました。

 

相手方(先妻の子ら)は,分割案を提示して何度も話し合い,依頼者も異議を述べてこなかったこと,たまたまプリンターが壊れていたために遺産分割協議書を印刷できず,署名押印していなかっただけであり,事実上合意は成立していたと主張していました。

弁護士の提案内容

最初に御相談にお越しになられた際には,法定相続分は配偶者として2分の1であること,配偶者として被相続人と生活を共にしてこられた以上,2分の1の相続分を主張されることはおかしなことではないことを説明させていただきました。

 

他方で,以前は家族同士で交流していたことから,争いになるのを避けたいお考えもお持ちであり,またこれまで2分の1の相続分を主張していなかったのに,今になって主張することに躊躇する気持ちもおありのようでしたので,法定相続分というのは,分割協議の際の1つの目安に過ぎず,2分の1に拘る必要はなく,今後の関係性を考えて,譲歩されても構わないのではないかとお伝えしました。なお,遺産は総額3億円を超えており,3分の1相当でも1億円以上を取得でき生活に困ることもないという事情もありました。

 

その後,依頼者は,円満に解決することを希望してお話しに望まれたようですが,その際の先妻の子らの高圧的な態度に立腹され,法定相続分での遺産分割を希望して御依頼いただきました。

結果

相手方は,既に事実上遺産分割協議は完了している旨主張していましたが,遺産分割協議書が作成されていないことから,改めて一から遺産分割協議をおこなうよう要請し,改めて協議の上で,最終的には2分の1に近い1億4800万円程度を取得する内容で合意に達しました。(相手方提示から4800万円程度の増額となりました。)。

 

なお,依頼者も当初の相手方の提案に応じたと受け取られない対応をされていたことと,協議が長期化することによる心理的な負担を回避し,早期に解決したいというご要望も踏まえて,2分の1には拘らない解決をしました。

弁護士の所感(コメント)

法定相続分というのは,遺産分割協議を行う際の1つの基準に過ぎず,必ずしもこれに拘る必要はありません円満な関係の維持や紛争に発展することによる長期化を避けたいというご希望をお持ちの方もおられます。

 

また,後継ぎであり,今後の祭祀を承継していく必要がある人,介護に尽力された人,家業を継いだ人などそれぞれの立場に応じて,実質的に公平は解決を模索するのが妥当なケースも多くあるかと思います。この点で,弊事務所では,徒に法定相続分を主張せよなどというアドバイスをするのではなく,御相談者のご希望も踏まえたご提案を心掛けています。

 

しかしながら,遺産分割協議も人と人とのやり取りです。ちょっとした対応のまずさが反発を招くこともあります。本件でも,相手方が被相続人の生前と同じように依頼者に接しておられれば,依頼者も法定相続分よりも大幅に少ない割合でも協議に応じておられたものと思われます。相手方は,自分が取得する財産の額にばかり目がいき,人の気持ちに配慮することのない対応をしたばかりに,結果として相続できる財産も減ってしまったのではないでしょうか。

 

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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