遺言書を作成する場合,公正証書遺言にする必要はありますか?
Q.「公正証書遺言」も「自筆証書遺言」も遺言としての効力が同じであれば,わざわざ費用をかけて「公正証書遺言」を作成する必要もないように思うのですが,遺言書を作成する場合,公正証書遺言にする必要はありますか?自筆証書遺言よりも公正証書遺言にしておいた方が良いという場合があれば教えてください。
A.「公正証書遺言」は,証人が2人以上立ち会った上で,遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授し,公証人がこの口授を筆記し,これを遺言者及び証人に読み聞かせ,又は閲覧させ,遺言者及び証人が筆記の正確なことを承認後,各自これに署名押印し,公証人がその証書は民法に定める方式に従って作ったものである旨を付記して,これに署名押印するという方法により作成します(民法969条)。一方,「自筆証書遺言」は,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに押印するという方法により作成します(民法968条)。
ご指摘のとおり「公正証書遺言」も,「自筆証書遺言」も,どちらとも遺言であることには変わりはありませんので,法律上の効果は同じです。また,「自筆証書遺言」の場合,遺言書の作成自体に費用が掛からず,内容も秘密にできるため,手軽に作成することができるというメリットはあります。
しかし,その裏返しとして,遺言者の死後に遺言書が発見されないおそれがある上,偽造,変造,隠匿されるリスク(偽造,変造されたのではないかと相続人等の間で疑われて,遺言無効確認訴訟を提起されるリスクを含みます。)があるというデメリットもあります。
また,内容を秘密にできるため,他人に相談せずに作成した結果,方式に不備があり遺言書が無効とされてしまう,ということもあります。
一方,「公正証書遺言」は,上記のように公証人が関与して作成され,遺言書の原本も公証人役場で保管される変造のおそれがなく,無効とされることはほとんどないというメリットがあります。
この点で,相続発生後に,遺言の内容に不満がある相続人から「遺言無効確認訴訟」を提起される可能性は,自筆証書遺言に比べると低くなり,無用なトラブルを招かないというのは大きなメリットであるといえるでしょう。
また,自筆証書遺言は,相続発生後に,家庭裁判所での検認の手続を経る必要がありますが,公正証書遺言の場合には,検認の手続きは必要ありません。
相続人(残された家族)は,必ずしも相続手続に詳しい訳ではなく,検認が必要ということを知らずに放置される方もおられるかも知れません。
また,検認申立のためには,法定相続人を明らかにできる戸籍謄本,除籍謄本等を取得して申し立てる必要があり,相続手続になれていない一般の方には非常に負担が大きいといえます。この点で,公正証書遺言を作成することで,残された家族が相続手続のために過大な負担を感じることを避けられるというのは大きなメリットであるといえるでしょう。
更に,自筆証書遺言の場合には,折角遺言を作成しても,相続人らに発見されないままに遺産分割協議が行われてしまうという可能性も否定しきれません。
そのため,自筆証書遺言を作成した後は,信頼できる方に保管を委ねるとか,必ず遺言を発見してもらえるような分かり易い場所で保管するなどの工夫が必要になります。もっとも,簡単に見つかるところに保管しておくと,生前に家族に中身を見られてしまう危険がありますし,保管を依頼した人が先に亡くなってしまうということも考えられますので,保管場所には工夫が必要ということになります。
これに対し,公正証書遺言では,作成した遺言の原本を公証役場で保管してくれますし,昭和64年1月1日以後に作成された公正証書遺言については,データベース化されており,全国のどこの公証人役場でも,「遺言検索システム」による検索を依頼して、被相続人の遺言の有無を照会することができます。
したがって,この検索システムを利用すれば,遺言を作成したのに,死後に発見されないという事態も防止することができるのです。
以上の通り,公正証書遺言のメリットをまとめると,次のとおりですので,相続開始後(死後),より確実に遺言の内容を実現したいと考えられるのであれば,「公正証書遺言」により遺言書を作成しておいた方が良いといえるかと思います。
(1) 形式不備により無効になることがなく確実。
(2) 公証人が遺言能力の確認をしてくれるので,遺言無効確認訴訟を提起される可能性が極めて低い。
(3) 遺言公正証書の原本は公証役場で保管されているので,偽造・変造や廃棄・紛失の心配がなく安心。
(4) 「遺言検索システム」の利用で,私募に発見されない危険も回避できる。
(5) 相続開始後に家庭裁判所での検認が不要なので,死亡後即座に遺言書の内容の実現が図れる。
(6) 文字が書けなくても、公証人役場で口述することで遺言が可能。
(手話や筆談により聴覚・言語機能に障害がある方でも可能)
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