他の相続人と直接会わずに、遺産分割協議を進めたい!どうすればよいですか?

Q 先日、祖母が亡くなりました。遺産相続の話になった際に、祖母の甥にあたる方が「自分にも相続分

 がある。」と主張しています。祖母の甥世代について関わりを持っている人は、私の知る限りではいま

 せん。


  その方は、親族としての交流のない方で、金銭面での事件を起こしたことがあるという情報のみ、生

 前に祖母から聞いていました。そのため、できれば直接会わずに、遺産分割協議を進めたいと思ってい

 ます。何かいい案はありませんか?


A 家庭裁判所へ「遺産分割調停」を申し立てることで、関わりがない相続人と、できるだけ会うことな

 く、遺産分割協議を進めることができます。

  

 以下で、遺産分割調停について解説します。

 

遺産分割調停

 

遺産分割調停とは

 

  遺産分割調停とは、被相続人(亡くなった方)の遺産の分け方について、家庭裁判所関与のもとで、相続人全員による合意を目指す手続きです。

 

 調停では、1名の裁判官と2名の調停委員(民間の有識者)から構成される調停委員会が、申立人(調停を申し立てた方)と相手方(調停を申し立てられた方)の双方から意見を聞きます。

 

 遺産分割調停は、相続人同士で遺産分割協議を行うことができない場合に、活用されるものになります。


 

「調停調書」の効力

 

 申立人と相手方(相続人全員)が、遺産分割の内容について合意すると、裁判官が合意内容を確認して、調停条項の案としてまとめます。そして、申立人と相手方の双方が調停条項の案に合意すると、正式に「調停調書」が作成されます。「調停調書」には、裁判による「判決」と同様の効力があります。そのため、「調停調書」に記載されている約束を守らなかった場合、法的手続をとることができます。

 

調停委員とは

 

 調停では、裁判官のほかに、公正中立な第三者である調停委員が選任されます。調停委員は、男女1名ずつの2名で構成されます。

 

 調停委員には、弁護士、司法書士、元裁判官、元裁判所職員など法的な知識を有する人のほか、保護司、カウンセラー、消費生活アドバイザー、医師、大学教授、各種会社・団体の役員・職員・OBなど、社会人として豊富な経験知識の持ち主も選ばれます。

 

 公益財団法人日本調停協会連合会によると、令和5年4月時点で、家事調停の調停委員の約6割が60歳代、約2割が50歳代です。

 

遺産分割調停のメリット

 

 遺産分割調停のメリットは、

  ① 相手方と会わなくて済む

  ② 調停委員という第三者が入ることで、冷静な話し合いができる

  ③ 非公開なのでプライバシーが守られる

  ④ 調停調書に、確定判決と同一の効力が認められる

 があります。

 

相手方と会わなくて済む

 

 調停の場では、調停委員が間に入って話し合いをしますので、相手方と直接会って交渉する必要がありません。裁判所内では、申立人と相手方がそれぞれ別室で待機し、自分の番になると、調停委員のいる部屋に入室し、自分の番が終わると退出するという仕組みが取られています。そのため、相手方と直接顔を合わせることを避けることができます。

 

 また、弁護士に依頼している場合には、コロナウイルス感染症の感染拡大以降、弁護士の事務所から電話会議またはWEB会議で調停に参加できることが多くなりましたので、そもそも裁判所に行く必要がないことも多く、相手方と同じ裁判所にいるということ自体が少なくなりました。

 

 

調停委員という第三者が入ることで、冷静な話し合いができる

 

 当事者のみで、遺産分割の話し合いをしようとすると、感情論が先行してしまい、話し合いが進まない場合が多々あります。しかし、調停では、調停委員が間に入ることで、感情論を押さえながら、冷静に話し合いを行うことが求められます。

 

 調停委員は、申立人と相手方の双方から、意見をよく聞いた上で、「当事者全員から納得が得られるような落としどころ」を見つけようと努める役割です。

 

 調停委員は、その言い分が法的に認められるのか否か、また、法的に認めてもらうためには、何を補充しないといけないのかといった法的な助言や説得をしてくれます。さらに、法的理論だけではなく、早期解決によるメリットや、法的観点とは別の、考慮してもいい事情などを酌み取った助言や説得を双方に行いながら、冷静な話し合いを取り持ちます。

 

 

非公開なのでプライバシーが守られる

 

 調停は、裁判とは異なり非公開であり、調停委員には守秘義務があります。そのため、調停を行なったことを他人に知られることはありません。必ずプライバシーが守られますので、安心して調停手続きを行うことができます。

 

 

調停調書には、確定判決と同一の効力が認められる

 

 「調停調書」には、確定判決と同一の効力を持ちます。確定判決と同一の効力を持つということは、「調停調書」に記載された約束を守らない当事者に対して、強制執行を行うことが可能になります。 

 

 

遺産分割調停のデメリット

 

 遺産分割調停のデメリットは、

  ① 必ずしも合意ができるとは限らない

  ② 調停成立までに時間を要する

 があります。

 

必ずしも合意ができるとは限らない

  

 調停は、公的機関である裁判所が介在する手続きとはいえ、あくまで話し合いの場であるため、どうしても当事者間で主張が折り合わない場合には、調停不成立となることもあります。仮に、あなたの言い分が正当なものであり、相手方の言い分が、法的には到底認められない不当な言い分であったとしても、あくまで話し合いという観点から、不成立となることもあります。

 

 ただし、遺産分割調停が、不成立となっても、自動的に審判手続に移行し、何らかの解決はされることになります。

 

 

調停成立までに時間を要する

  

 一般的に調停期日は、1~2ヶ月に1回のペースで行なわれます。そのため、調停成立までに、時間を要します。

 

 令和2年の遺産分割調停の平均審理時間(審判を含む)は、12.6か月で、平均1年以上かかっています。ただし、令和元年は平均11.5ヶ月なので、令和2年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大及び緊急事態宣言の発出の影響もあるかと思われます。

 

 

遺産分割調停の流れ

 

 遺産分割調停は、次のような流れで進められます。

 

相続人の範囲の確定

 

 遺産分割協議は、相続人全員で合意しないといけませんので、まずは誰が相続人であるかを特定することが必要になります。相続人を特定するためには、申し立ての際に提出した戸籍謄本が、全て揃っているかどうかを確認します。

 

 代襲相続や、二次相続が起きている場合などは、相続人の範囲が複雑になるので、認識が間違っていたり、提出した戸籍謄本が足りていないということもあります。

 しかし、弁護士が代理人として申し立てる場合は、この点の不備があることはまずありませんし、現実にこの点で争いになることは、ほぼありません。

 

 

遺言書・遺産分割協議書の有無の確認

 

 遺言書や遺産分割協議書があれば、被相続人(亡くなった方)の遺産は、その内容に基づいて分割されます。そのため、「既に分割済み」と、みなされることから、遺産分割調停は進行しません。

 

 

遺産の範囲の確定

 

 遺言書・遺産分割協議書の有無を確認したら、次は分割の対象となる遺産として、どのようなものが存在するのかを確定する段階に進みます。

 

 申立人が、遺産目録を提出しても、他の相続人から「他にも遺産があるはずだ。」という意見が出ることもあります。そのため、事前の遺産調査をしっかりと行い、裏付資料を提示することが重要です。

 

  ~財産調査の仕方~  

 

   預貯金  

  自分が相続人であることを、戸籍謄本等によって銀行に示して、被相続人(亡くなった方)名義の預

 貯金の有無を問い合わせます。

 

  被相続人(亡くなった方)名義の預貯金があった場合には、残高証明書のほか、申請時点から10年

 以内の、預金の入出金履歴等を取得することができます。

 

  ある銀行に口座があったことは分かっても、どこの支店かまでは分からないという場合には、窓口で

 「全店照会」する必要があります。

 

   不動産  

  不動産については、「名寄帳(なよせちょう)」を調べることになります。名寄帳とは、課税の対象

 となっている固定資産(土地・家屋)を、所有者ごとに一覧表にまとめたもので、資産の所在地・課税

 標準額・評価額、課税額等の記載があります。

  

  ただし、名寄帳は、不動産の所在地を管轄する役所ごとに作成されているため、不動産が複数の市町

 村に所在するときは、各市町村に申請しなければなりません。

 

   株式  

  取引している証券会社が分かっていれば、証券会社に直接照会を行います。もし、取引している証券

 会社が分からない場合には、「証券保管振替機構(通称ほふり)」に対して、照会請求することになり

 ます。

  照会請求をすることで、被相続人(亡くなった方)が取引していた証券会社が明らかになります。そ

 の後、判明した証券会社に対し、取引内容の開示を求めるという手順で、調査することになります。

 

 

遺産の評価の確定

 

 遺産の範囲が確定できると、次はそれぞれの遺産の評価を決めることになります。現金・預貯金は特に争いになりませんが、不動産・株式・宝飾品や骨董品等を巡っては、争いになるケースがあります。

 

   不動産  

  不動産は、鑑定すると費用がかかることから、不動産業者に作ってもらった「査定書」を証拠として

 提出し、それをもとに協議します。そして、評価額について合意するという方法が、一般的に行われて

 います。合意に至らない場合は、裁判所が鑑定人を選び、鑑定人が価格を調査します。鑑定人を選任す

 る場合、鑑定費用として数十万から数百万円かかる場合もありますので、注意が必要です。

 

 ★ 相続不動産の査定とは?評価額の算出方法を知りたい

 ★ 不動産の評価方法にはどのようなものがありますか?どの方法を使わなければならないという決まりがありますか?

 

 

   株式  

  上場株式の評価は、常に変動していますが、実際に遺産分割する時点での取引価格が基準になります。

  なお、株式には、分割協議の成立から売却までの期間についても価格変動リスクがあり、売却時に課

 税負担が生じることもあります。この点について十分理解した上で、遺産分割協議を行う必要がありま

 す。

 

  また、株式を売却して、売却利益を分配する場合には、相続人全員の合意のもとで行なう必要があり

 ます。非上場株式の場合、金銭評価は難しくなります。なお、当事者間で評価額についての合意が成立

 しないときは、裁判所が鑑定人を選任して、価格を調べてもらうことになります。鑑定人を選任する場

 合、費用が百万円を超える可能性もありますので、注意が必要です。

 

 ★ 相続財産に株式が含まれている場合,どのように相続手続きを進めていけばいいでしょうか?(上篇)

 

 

   宝飾品や骨董品等  

  宝飾品や骨董品等については、取得した当時の価額は高額であっても、評価としては極めて低額にな

 ることも多いです。高級な着物などは、需要が少ないことから、値段がつかないこともあります。いず

 れにしても、専門家による評価が必要ですが、専門家の間でも評価が異なることもあり、トラブルにな

 ることも多いので、注意が必要です。

  

 ★ 遺産分割協議における動産や債務の取扱いについて教えてください

 

 

具体的な相続分の算定

 

 遺産の財産評価についての合意ができたら、次は、各相続人に対する、具体的な取得分の調整に進みます。通常、遺産は法定相続分に基づいて分割されますが、『特別受益』や『寄与分』が認められると、具体的な取得分が異なる場合があります。

 

 ~関連記事~

  ★ 特別受益とは何ですか?その具体例についても教えてください。

  ★ 寄与分の具体例について教えてください。

 

 

具体的な分割方法の確定

 

 具体的な相続分の調整が済んだら、遺産の分割方法を決める段階に進みます。

 このとき問題となりやすいのが、主な遺産が不動産のみの場合です。

 

 不動産の分割方法としては、

  ・不動産を売却して現金に換え、各相続人が法定相続分に応じて取得する方法(換価分割)

  ・相続人の一人が、不動産を単独で取得する代わりに、他の相続人に対して、法定相続分に相当する

  金額を支払う方法(代償分割)

が考えられます。

 

 その他に、被相続人が会社を経営していた場合には、株式をどのように分割するのが妥当か、など、難しい問題が生じることが多いので注意が必要になります。

 

 

まとめ

 

 遺産分割調停の方法をとることで、関わりがない相続人と、できるだけ会うことなく、遺産分割協議を進めることができます。さらに、弁護士に依頼した場合には、裁判所に出頭する必要もほぼなくなります。

 

 そのほか、遺産分割調停には、調停委員が入ることで冷静な話し合いができること・非公開なのでプライバシーが守られること・「調停調書」には判決と同一の効力が認められること などのメリットがあります。

 

 しかし、これまでに記載したとおり、デメリットもありますので、注意が必要です。

 遺産分割を進めるにあたっては、遺産の評価・具体的相続分の算定に、法的な知識と裏付けが必要になりますので、専門家である弁護士に相談するのがおすすめです。

 

 当事務所は、弁護士歴26年以上の弁護士が在籍しており、多くの専門性を要する遺留分に関する相談・ご依頼(請求する側、請求される側双方)を受けてきました。机上の法律知識だけでは得られない、多数の相談や解決実績に裏付けられた実践的なノウハウを蓄積しております。

 

 こういった経験から、遺産分割調停の問題はもちろん、相続全般について、皆様に最適なサポートを提供いたしますので、お悩みの方は是非一度、当事務所にご相談ください。

 

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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