生前贈与が発覚した場合、遺留分の請求はできますか?

Q 先日、父が他界しました。相続人は、長女・長男・二女(私(Aさん))の3人です。父の遺産は6

 000万円で、負債は4500万円ほどありました。


  父の遺品を整理していると、父が亡くなる8か月前、長女の子どもに対して、合計3000万円を送

 金した通帳が見つかりました。長女の子どもに聞いたところ、マンションの購入費として3000万円

 を受け取ったと言いました。
 

  長女の子どもに生前にお金を渡したことで、私たちが貰える遺産も少なくなったのではないかと思っ

 ています。生前贈与を受け取った長女の子どもは、相続人ではありませんが、遺留分侵害額請求をする

 ことはできますか。

A 生前贈与を受け取った長女の子どもは、相続人ではありませんが、相続開始の1年以内に贈与を受け

 ています。


  そのため、相続人は、長女の子どもに対して遺留分侵害額請求をすることができます。

 

  生前贈与についても、遺留分の対象になります。法定相続人以外に対して行われた贈与は、原則、

 続開始前1年以内の贈与が遺留分の対象となります。

 

  以下で詳しく説明します。

 

遺留分侵害額は誰が請求できるの?

 

 遺留分侵害額を請求することができる相続人は、「兄弟姉妹以外の法定相続人」です。つまり、配偶者・子ども・孫などの直系卑属、または、父母・祖父母などの直系尊属に限られます。

 

 相続人が直系尊属のみである場合には1/3、その他の場合には1/2が「個別的遺留分」となります。

 個別的遺留分に、遺留分権利者の法定相続分をかけて計算することで、1人当たりの遺留分割合が算定されます。

 

【遺留分割合の計算】
=(個別的遺留分)×(法定相続分)=遺留分割合

 

 本件のQ&Aでは、相続人は子ども3人のみなので

 ・遺留分割合は1/2

 ・法定相続分は1/3

となります。よって、Aさんには1/6の遺留分割合が認められることになります。

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 ★父が作成した遺言書で、姉8割・私2割の遺産分配となっていました。遺留分は請求できますか?

 

遺留分侵害額請求の対象となる贈与とは?

 

 生前に行われた贈与については、遺留分侵害額の請求を行うことができます。しかし、全ての贈与が請求の対象となるわけではありません。具体的には以下の3つの場合に限られています。

 

 ① 相続開始前の1年以内に行われた贈与

 

 ② 相続開始から1年以上前であっても、遺留分権利者を害することを知って行われた贈与

 

 ③ 相続開始10年以内の特別受益にあたる贈与(※法定相続人に対して行われた贈与のみ)

 

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 ★被相続人が生前贈与を行っていた場合、遺留分にどう影響するの?

 

 本件のQ&Aでは、被相続人(亡くなった方)である父から、長女の子どもに対して、亡くなる8か月前にマンション購入費として渡した3000万円は、「①相続開始前の1年以内に行われた贈与」にあたるため、遺留分侵害額請求の対象となります。

 

 また、仮に、被相続人(亡くなった方)である父から、相続人の誰か1人に対して3000万円を贈与していた場合は、「③相続開始10年以内の特別受益にあたる贈与(※法定相続人に対して行われた贈与のみ)」として遺留分侵害額請求の対象となる可能性があります。特別受益については、以下の記事をご覧ください。

 

特別受益について詳しくはこちら

 ★遺留分を計算する際、特別受益はどう考慮されるの?特別受益とは?

 ★特別受益とは何ですか?その具体例についても教えてください。

 

遺留分侵害額を請求する方法

 

 遺留分侵害額の請求相手は、遺留分を侵害した人=生前贈与を受け取った人 になります。

 

 請求方法は、法律で具体的に決められてはいませんので、口頭で請求することも可能です。しかし、後でトラブルになる恐れがあるため、内容証明郵便などの証拠として残る方法で請求することをおすすめします。

 

 遺留分侵害額請求は、①「相続が開始したこと」& ②「遺留分を侵害する生前贈与や遺贈があった事実」を知った時から1年以内に行わなければ、時効によって権利を行使することができなくなります。1年以内に遺留分侵害額請求権を行使したことを証拠として残すために、口頭ではなく、内容証明郵便などの方法で権利を行使する必要があります。

 

 

 ~詳しくはこちら~ 

 ★遺留分っていつまで請求できるの?期間制限があるって本当?

 

 なお、相手が遺留分侵害額請求に応じない場合は、【家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停の申立てを行い、調停委員を介して話し合いをする方法】または【地方裁判所に遺留分侵害額請求訴訟を提起して、裁判所による判決を求める方法】のいずれかで請求することとなります。

 

 ★遺留分侵害額請求をすることを考えている方へ 

 ★遺留分侵害額請求されてしまった方へ

 

本件のQ&Aを計算してみましょう!

 

 遺留分を算定するための基礎となる財産額

 

【遺留分を算定するための基礎となる財産額】
=「相続開始時における被相続人の積極財産の額」+「生前贈与の額」-「被相続人の債務の額」

 

6000万円(積極財産)+3000万円(生前贈与)-4500万円(負債)=4500万円

 

子ども1人当たりの遺留分割合

 

【遺留分割合の計算】
=(個別的遺留分)×(法定相続分)=遺留分割合

 

  1/2(個別的遺留分)×1/3(法定相続分)=1/6(遺留分割合)

 

 遺留分額

  4500万円(基礎財産)×1/6(遺留分割合)=750万円

 

 子ども1人当たりの相続財産

 

 6000万円(積極財産)×1/3(法定相続分)=2000万円(一人当たりが相続する積極財産)・・・①

 4500万円(負債)×1/3(法定相続分)=1500万円(一人当たりが相続する負債)・・・②

 2000万円(①)-1500万円(②)=500万円

 

 遺留分侵害額

  750万円(遺留分額)-500万円(一人当たりの相続分)=250万円(遺留分侵害額)

 

 したがって、相続人全員は、生前贈与によって各250万円の遺留分が侵害されていることになり、長女の子どもに対して3人それぞれが250万円ずつ請求できることになります。

 

まとめ

 

 本件のQ&Aで、生前贈与を受け取った長女の子どもは相続人ではありませんが、相続開始の1年以内に贈与を受けています。そのため、相続人全員から、長女の子どもに対して、遺留分侵害額請求をすることができます。

 

 このように、遺留分侵害額請求は、誰に対していくら請求できるのか判断するには専門的な知識が必要となります。また、特に遺留分侵害額の計算については、これまでの背景事情等も考慮したうえで、複雑な計算が必要となります。

 

 被相続人(亡くなった方)が作成した遺言書がある場合や、生前贈与が発覚した場合には、遺留分が侵害されている可能性がありますので、まずは専門家に相談することをおすすめします。

 

 当事務所は、弁護士歴27年以上の弁護士が在籍しており、多くの専門性を要する遺留分に関する相談・ご依頼(請求する側、請求される側双方)を受けてきました。机上の法律知識だけでは得られない、多数の相談や解決実績に裏付けられた実践的なノウハウを蓄積しております。

 

 こういった経験から、遺留分の問題はもちろん、相続全般について、皆様に最適なサポートを提供いたしますので、お悩みの方は是非一度、当事務所にご相談ください。

 

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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