遺留分っていつまで請求できるの?期間制限があるって本当?

 5年以上前に父が亡くなりました。母は、10年前に亡くなっているため、父の相続人は私(Aさ

 ん)と兄の2人です。
  父の財産は、預貯金が1000万円に加えて、実家の不動産が3000万円の価値がありました。

 

  兄が長年にわたって、父の身の回りの世話をした一方、私(Aさん)は東京で就職をし、実家に帰る

 こともほとんどありませんでした。そのようなこともあって、父の遺言どおり、私(Aさん)が100

 0万円の預貯金を相続し、兄が3000万円の実家の不動産を相続する内容で納得しました。
  しかしながら、父が死亡する半年前に、兄の子(父の孫)に、2000万円の生前贈与をしていたこ

 とが、父の死後5年が経過した後に判明しました。孫への生前贈与については私には一切告げられず、

 裏切られた気分です。何か請求できないでしょうか。


A Aさんには、遺留分(「相続人として、遺言や生前贈与によっても奪われない最低限の権利」)とい

 う権利があります。

 父から兄へ相続させる内容の遺言、及び、兄の子(父の孫)への生前贈与の結果、Aさんの遺留分が侵害されている場合には、Aさんは兄に対して、遺留分侵害額請求ができる場合があります。

 

 ただし、遺留分の請求には時効がありますので、速やかに請求をする必要があります。

 

 以下で詳しく説明します。

   

遺留分とは?

 

 まずはじめに、「遺留分制度」とは、被相続人(亡くなった方)が有していた相続財産について、最低限、法定相続人に保障する制度です(民法1042条以下)。

 

 そして「遺留分」とは、一定の相続人について、法律上最低限保障されている権利のことをいいます。

  

 例えば、被相続人(亡くなった方)が、遺言書を作成していたり、生前贈与をしたことで、「全財産を特定の子供だけに譲る」「再婚し、年の離れた配偶者に全財産を譲る」ということになる場合があります。

 

 このとき、兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分侵害額請求という金銭請求を行うことで、最低限の支払いを受ける権利を有しています。

 

遺留分の侵害とは?

 

 被相続人(亡くなった方)が、特定の相続人だけを優遇する遺言を作成していたり、財産の大部分を特定の人に生前贈与したとします。その結果により、遺留分権利者(遺留分権を有する相続人のことをいいます。)が、自己の遺留分を下回る額の財産しか相続できなかった場合に、遺留分が侵害されたこととなります。

  

 遺留分が侵害されていることが判明したら、金銭の支払いを請求することができます。

 

 ~関連記事~ 

 ?「遺留分・遺留分侵害額請求「遺留分の知らないと怖い落とし穴」

 

 侵害された遺留分の額を計算するためには、まず、「基礎となる財産額」を算定する必要があります。

 算定方法は以下のとおりです。

 

【遺留分を算定するための基礎となる財産額】
=「相続開始時における被相続人の積極財産の額」+「生前贈与の額」-「被相続人の債務の額」

 

遺留分を算定する際に考慮する生前贈与はどんなものがある?

 

 相続開始前1年間になされた贈与は、「遺留分を算定するための基礎財産」に算入されます。ここでの贈与は、相続人以外の第三者に対する贈与についても含まれます。

 

 

 相続開始の1年前の日よりも前にされた贈与は、遺留分算定の基礎財産に算入されませんので、注意が必要です。

 無条件に過去に遡って算定すると、生前贈与を受けた者の立場を害すると考えられているからです。

 

 

 

 

 本件のQ&Aでは、お父様の孫は、養子縁組をしているなどの事情がない限り、Aさんのお父様の相続人ではありません。

 

 したがって、お父様→兄の子(孫)への贈与については、相続開始前の1年間になされたものである場合、遺留分算定の基礎財産になります。

 

 その他、相続人に対する10年以内の生前贈与(※特別受益にあたる場合のみ)や、遺留分を侵害していると知りながら行われた生前贈与についても、遺留分算定に入れることとなります。

 詳しくはこちら「被相続人が生前贈与を行っていた場合、遺留分にどう影響するの?」>>

 

遺留分の計算方法

 

個別的遺留分の割合

 

 遺留分を算定するための「基礎となる財産額」が確定すると、次に個別的遺留分の割合を計算します。

 

 遺留分権利者の中に、直系尊属以外の方がいる場合は、2分の1に自己の法定相続分を掛けたものが、個別的遺留分となります。

 

 例外的に、遺留分権利者が直系尊属だけである場合は、3分の1に自己の法定相続分を掛けたものが、個別的遺留分となります。

 

 本件のQ&Aでは、Aさんは、法定相続分が2分の1なので、それに2分の1を乗じた4分の1が個別的遺留分となります。

 

 ~関連記事~ 

 ? 遺留分の割合について

 

遺留分の額

 

 遺留分を算定するための「基礎となる財産額」と「個別的遺留分の割合」(リンク)が明らかになれば、これらをかけ合わせることで、遺留分権利者の遺留分額を算出することができます。

 

 それでは、本件のQ&A(リンク)に当てはめて、Aさんの遺留分額を計算してみましょう。

 

   遺留分を算定するための基礎となる財産額

    =被相続人が相続開始時に有していた財産の価額(4000万円)+兄の子への1年以内の生前

    贈与(2000万円)―相続債務(0円)=6000万円…①

 

 この場合、兄の子への贈与は、半年前になされていますので、遺留分算定の基礎財産に算入されます。

 あなたの個別的遺留分の割合=2分の1(個別的遺留分)×2分の1(法定相続分)=4分の1…②

 

 

 Aさんの遺留分額=①6000万×②4分の1=1500万円

遺留分侵害額

 

 遺留分額が明らかになったところで、次に、遺留分侵害額を計算します。計算は次のように行います。

 

【遺留分侵害額】

「遺留分額」-「遺留分権利者が受けた特別受益の額」-「遺留分権利者が相続によって得た財産額」+「遺留分権利者が負担する債務」

 

 それではここで、本件のQ&Aに当てはめて、Aさんの遺留分侵害額を計算してみましょう。

 

 遺留分侵害額

 =遺留分額(1500万円)-遺留分権利者(Aさん)が受けた特別受益の額(0円)-遺留分権利者

 (Aさん)が相続によって得た財産額(1000万円)+遺留分権利者が負担する債務(0円)=50

 0万円

 →500万円の遺留分侵害額を請求できる

 

 このように、Aさんは、

 ・お父様からお兄さんへ3000万円の実家の不動産を相続させる遺言

 ・孫(兄の子)への生前贈与

の結果、500万円の遺留分が侵害されたことになります。

 

 そのため、Aさんはお兄さんに対し、500万円の遺留分侵害額請求権を有しているということになります。

 お兄さんと孫の、どちらに遺留分侵害額請求をするかについては、ルールがありますのでご注意ください。

 

 遺言による相続(あるいは遺贈)と、生前贈与が、併存して遺留分を侵害するときは、まずは相続した者が遺留分侵害額の負担をし、それでも足りないときにはじめて生前贈与を受けた者が負担することとなっています。

 

  したがって、本件のQ&Aでは、遺留分侵害額請求はお兄さんに対して請求します。

 

 

 

相続人に対する「特別受益」

 

 遺留分侵害額を計算する際には、遺留分権利者が受けた『特別受益』を遺留分侵害額請求額から控除することとなります。

  

 遺留分侵害額を計算する際には、遺留分権利者が受けた特別受益については、期間制限がないということに注意が必要です。

 

 仮に、本件のQ&Aで、Aさんが住宅資金として15年前に高額の贈与を受けたような場合は、遺留分侵害額を計算する際に、特別受益の額を差引くことになります。

 

 特別受益の計算方法についてもっとくわしく知りたい方へ

 

 

 

遺留分侵害額請求権の行使

 

 遺留分は何もしなくても当然にもらえるというわけではありませんので、遺留分侵害額の請求をする必要があります。これを「遺留分侵害額請求」といいます。

 

 遺留分侵害額請求は、遺留分を侵害されていることを知った時(例えば、遺言書が見つかり、自分には全く相続財産を与えてもらえなかったことが分かった時、高額な生前贈与が判明した時など)から1年以内に行う必要がありますので、注意が必要です(民法1048条前段)。

 

 また、遺留分を侵害されていることを知らなかったとしても、相続開始から10年経つと、請求できなくなります(民法1048条後段)。

 

 そのため、遺留分侵害額請求をしたい場合はお早めに調査されることをおすすめしています。

 特に、葬儀や各種手続き、相続財産調査、相続税の申告などをしていると、あっという間に時間が経過していきますので、ご注意ください。

 

 詳しくはこちら「遺留分侵害額請求をすることを考えている方へ」>>

 

 

遺留分の消滅時効

 

 本件のQ&Aでは、父から孫(兄の子)への生前贈与の結果、ご自身の遺留分が侵害されたことを知ってから1年以内に遺留分侵害額請求の意思表示をしなければ、遺留分侵害額請求権は時効により消滅し、請求ができなくなってしまいます

 

 したがって、遺留分が侵害されたことを知った場合は、速やかに遺留分侵害額請求権の意思表示をする必要があります。

 

 遺留分侵害額請求の意思表示とは、遺留分侵害額請求権を行使する旨を相手方に伝えることをいいます。

 

 具体的には、送付した文書の内容について証拠を残すことができるよう、「内容証明郵便」に「配達証明書」を付する方法で行うことが最も効果的です。

 

 「内容証明郵便」とは、どのような内容の書面が、いつ、誰から誰に送られたのか、郵便局で記録される郵便のことをいいます。

 「内容証明郵便」を利用することで、遺留分侵害額請求の意思表示を、時効によって消滅する前に行ったことを立証することができます。

 

 また、「配達証明書」とは、文書の相手方が、いつ文書を受けとったか、を立証できる制度です。「内容証明郵便」と併用することで、間違いなく遺留分侵害額の意思表示を行い、その意思表示が相手方に届いたことを立証することができます。

 

 このように、遺留分が侵害されたことを知ってから1年以内という期間制限については、「配達証明付内容証明郵便」を利用することで、消滅することを防ぐ(証明する)ことができます。

 

 

 

 本件のQ&Aとは異なりますが、被相続人の作成した遺言が、遺留分を侵害するような内容であった場合に、仮に「遺言が無効であるから、自分の遺留分はそもそも侵害されていない!」と信じていたとします。

 

 その場合であっても、遺留分侵害額請求の意思表示をしていなければ、後々、せめて遺留分だけでも請求したいと考えたときに、既に時効によって消滅してしまっているということがあるので注意が必要です。

 

 このような場合は、まずは遺言が無効であることを主張し、万が一、遺言が有効と判断されたときに備えて、遺留分侵害額請求の意思表示を予備的に行うという方法を取ることが多いです。

 

 

除斥期間

 

 時効とは異なり、相続開始から10年経つと、遺留分侵害額請求ができなくなり、この10年という期間は延長することができません。

 

 したがって、例外的な場合を除いて、遺留分侵害額請求を行う場合は、例え遺留分が侵害されていることを知ったのが、ずいぶん後であったとしても、相続開始から10年以内に行わなければなりません。

 

 

金銭債権としての消滅時効

 

 遺留分侵害額請求の意思表示を行い、時効を中断すると、ひとまず安心ですが、いつまでも放置して良いというわけではありません。

   

 遺留分侵害額請求の意思表示をすると、相手方に対して「遺留分侵害額請求権」(=お金を払いなさいという権利(金銭債権といいます。))が具体化します。このような「金銭債権」について、民法は時効の定めを設けており、5年間行使しなければ、時効によって消滅してしまいます

 

 そのため、遺留分侵害額請求の意思表示をしても、5年以内に交渉が成立せず、時効によって権利が消滅してしまいそうな場合には、金銭の支払いを請求する訴訟を提起することで、金銭債権としての時効の完成を猶予することができます。

 

 

まとめ

 

 今回の内容は、以下のとおりです。

  (1) 「遺留分」とは、生前贈与によっても奪えない、一定の相続人について最低限保障されている権

   利のことをいいます。

  (2) 相続人以外の方(孫など)への贈与については、原則、相続開始前の1年間にしたものであれば

   遺留分算定の基礎財産となります。

  (3) 遺留分侵害額請求は、遺留分を侵害されていることを知った時から1年以内に行う必要がありま

   す。遺言や生前贈与の無効を主張する際には、特に注意が必要です。

  (4) 相続開始から10年経つと、もはや遺留分侵害額請求ができなくなり、この10年という期間は

   延長することができません。

  (5) 遺留分侵害額請求の意思表示の後であっても、5年の消滅時効に注意が必要です。

 

 

 遺留分が侵害されているような遺言を発見したり、生前贈与があったと知ることは、不平等に扱われたように感じ、ショックを伴うものです。

 せめて侵害されている遺留分だけでも請求したいと考えていても、放置してしまうと、遺留分侵害額請求権が時効により消滅してしまいます。

 

 遺留分の計算はとても複雑で、まずは相続財産の調査を漏れなく行う必要があます。適正な遺留分侵害額を請求していくためには、専門的判断が欠かせません。

 

 また、時効というタイムリミットがあるなかで、お仕事や家事をしながら進めていくというのは、困難があることに加えて、時効で権利が消滅してしまうリスクがあります。

 

 

 当事務所は、弁護士歴26年以上の弁護士が在籍しており、多くの専門性を要する遺留分に関する相談・ご依頼(請求する側、請求される側双方)を受けてきました。机上の法律知識だけでは得られない、多数の相談や解決実績に裏付けられた実践的なノウハウを蓄積しております。

 

 こういった経験から、遺留分の問題はもちろん、相続全般について、皆様に最適なサポートを提供いたしますので、お悩みの方は是非一度、当事務所にご相談ください。

 

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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