遺産相続権は長男・長女だけに認められた権利ですか?
目次
Q 先日、私の父が亡くなりました。相続人は、母・長男・私(二男)です。
亡くなった父は、遺言書を作成していませんでした。
四十九日の頃に、長男が、私(二男)に対して、「自分は長男なので、母の世話をする。父の財産は
すべて自分の物である。」と主張してきました。
長男の主張は正しいのでしょうか?私は長男に全て譲らなければなりませんか?
A 相続人全員が「長男が遺産の全てを相続する」内容で合意し、遺産分割協議(話し合い)が成立しな
ければ、遺産を独り占めすることはできません。
以下で詳しく説明します。
家督相続制度の廃止・経緯
1947年5月2日まで適用されていた旧民法のもとでは、「戸主(家という団体の長)」が、死亡や隠居したことにより交代する際に、旧戸主が持っていた財産は、全て新戸主が相続するという制度が採用されていました(この制度を『家督相続』といいます)。
しかし、現在は、『家督相続制度』は廃止されていますので、相続人が複数いる場合には、遺産分割協議(話し合い)が成立しない限り、相続人1人だけで、亡くなった方の遺産を独り占めすることはできません。
どのような場合に1人で相続できるの?
亡くなった人の財産を1人だけで相続できるのは、
①相続人が1人だけの場合
②亡くなった方が「遺産の全てを○○に相続させる」という内容の遺言書を作成している場合
③相続人全員で、「遺産の全てを○○が相続する」旨の遺産分割協議が成立した場合
が考えられます。
遺留分に注意しましょう!!
亡くなった方が遺言書を作成している場合、遺産のすべてを取得できない場合もあるため注意が必要です。
相続人(※亡くなった方の兄弟姉妹は除く)には、法律上『遺留分』が認められています(民法1042条)。『遺留分』という権利によって、相続人は、最低限の財産を取得することができます。
そのため、被相続人(亡くなった方)が、「遺産の全てを長男に相続させる」旨の遺言書を作成していたとしても、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けた場合は、侵害額に相当する金銭を支払う必要があります。
~遺留分侵害額請求について詳しくはこちら~
★父が作成した遺言書で、姉8割・私2割の遺産分配となっていました。遺留分は請求できますか?
「遺産の全てを○○が相続する」内容の遺産分割の注意点⚠
財産の細分化を避ける目的&家系の維持のため の場合
相続人全員が合意の上で、財産の細分化を避ける目的&家系の維持のために、1人だけが相続することになった場合、特に問題はありません。
親の面倒を見ることを条件に、全ての遺産を相続する場合
→ご注意ください!
遺産のみ取得して、その後、親の面倒を見ないという問題が生じる可能性があります。
親の面倒を見るという約束を破っても、「遺産の全てを相続させる」内容の遺産分割協議は一旦成立していますので、解除することは難しいです(最判平成元年2月9日民集43-2-1)。
また、親の世話を一人で行うことにより、世話をしている親の財産を使い込むなど、別のトラブルに繋がる可能性がある点についても要注意です。
遺産を独り占めされているときは、どうすればいい?
【方法①】遺産分割協議を行う
相続人の1人が遺産を独り占めしている場合、遺産分割協議(話し合い)を求める方法があります。
本件のQ&Aで、相続人それぞれの法定相続分は、
・母:2分の1
・長男:4分の1
・次男:6分の1
となりますので、独り占めしている相続人に対して、法定相続分に従った遺産分割協議(話し合い)を求めることができます。もちろん、法定相続分とは違う割合で、遺産分割を求めることも可能です。
~遺産分割協議について詳しくはこちら~
〈遺産分割前に遺産の使い込みをしていた場合〉
遺産分割協議は、「協議を行う時点で存在する遺産の分割」について話し合うものになります。
しかし、相続人全員が、遺産分割前に使い込んだ財産を含めて分割することに合意すれば、これを考慮して遺産分割協議を行うことができますので、問題は生じません。
また、仮に、遺産を使い込んだ相続人が、使い込んだ遺産を含めることに反対したとしても、法律上、遺産を使い込んだ人以外の相続人全員の同意があれば、使い込んだ遺産を含めて遺産分割を行うことができます(民法906条の2)。
(例)被相続人(亡くなった方)の遺産が6000万円あり、このうち1000万円を、長男が使い込ん
でいた場合(※遺産分割時には5000万円しか残っていない場合)
法定相続分に従った分割を行うと、
・母:3000万円
・長男:500万円
・二男が1500万円
となります。
【方法②】遺産分割調停を申し立てる
遺産分割調停を申し立てる家庭裁判所は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所 または 当事者が合意で定める家庭裁判所 となります。
遺産分割調停は、裁判所で行われる話し合いですので、遺産分割調停が成立するためには、当事者全員が合意することが必要です。
なお、遺産分割調停が成立しない場合には、裁判官が判断を下す『審判』の手続きへ移行することになります。
~遺産分割調停について詳しくはこちら~
時間と費用をかけて遺産分割調停・審判を行っても、遺産が無くなってしまったら、せっかくの調停・審判が無駄になってしまいます。
このような事態をさけるため、『審判前の保全処分』の活用を検討することがポイントです。
『審判前の保全処分』とは、遺産を占有している相続人が、勝手に処分したり、使ってしまったりするのを防ぐため、現状を保全するために行う手続きのことをいいます(家事事件手続法200条1項)。
なお、名目上は「審判前」となっていますが、「調停前」でも用いることができます(家事事件手続法105条1項)。
『審判前の保全処分』には、「財産管理人を選任する方法」と、「仮差押・仮処分その他の保全手続を行う方法」があります。
「財産管理人を選任する方法」は、遺産が勝手に処分されないように、裁判所から財産管理人を選任してもらい、その財産管理人が遺産の管理を行う方法です。
「仮差押・仮処分その他の保全手続を行う方法」は、預金の引き出しや不動産の処分などを防ぐために用いられる保全手続です。
まとめ
現在は、家督相続制度は廃止されていますので、相続人が複数いる場合には、「遺産の全てを○○が相続する」旨の遺産分割協議が成立しない限りは、遺産を独り占めすることはできません。
相続人の1人が遺産を独り占めしている場合は、遺産分割協議(話し合い)を求めることができます。なお、遺産分割協議に応じない場合は、家庭裁判所に、遺産分割調停・審判の申立てを行う必要があります。
家督相続制度はとっくに廃止されているのに、未だに「遺産は長男のものである!」という考えを有している人は、遺産分割協議を求めても応じてくれないことが十分に考えられます。そのため、協議を検討されている場合は、まずは専門家である弁護士にご相談されることをおすすめします。
当事務所は、弁護士歴27年以上の弁護士が在籍しており、多くの相続に関するご相談を受けてきました。机上の法律知識だけでは得られない、多数の相談や解決実績に裏付けられた実践的なノウハウを蓄積しております。
こういった経験から、遺産分割協議や、調停・審判の問題だけではなく、相続全般について、皆様に最適なサポートを提供いたします。お悩みの方は是非一度、当事務所にご相談ください。
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