長男が遺産を独り占めしています。何か対処法はありますか?
Q 先日、父が亡くなりました。母は既に他界しているので、相続人は、兄・私・妹の3人です。父の相
続財産は、自宅不動産と預貯金と株式です。
葬儀が終わった後、兄が、私と妹に対して「この書類に名前と印鑑を押してほしい。」と言って、複
数の書類を目の前に出してきました。突然のことで驚いていると兄は、「自宅不動産を立て替えて自分
が住む。」「お前たちは相続放棄しろ。」と言ってきました。
私と妹は、「相続についてはしっかり話し合おう。」と言いましたが、兄は「長男だから財産を引き
継ぐのは当たり前だ。」「お前たちは結婚して別の家の者になったんだから相続する権利はない。」と
言っています。
このままでは、兄に遺産を独り占めされてしまい、勝手に使われるのではないかと心配です。何か対
処法はありませんか?
A 以下の対応をしましょう。
① 相続財産を勝手に使われないように、金融機関に対して、父が死亡したことを連絡し、口座の凍結
をしてください。また、残高証明書や取引履歴の発行を依頼するようにしましょう。
② 兄から、書面への署名・押印を求められても、安易に対応してはいけません。
必ず書面の内容を確認し、内容が理解できなかったり、納得できない文言があった場合には、専門
家に相談されることをおすすめします。
③ 相続財産の散逸を防止した上で、遺産分割協議(話し合い)を行います。なお、兄が応じなかった
場合は、裁判所に対し、遺産分割調停・審判の申立を行います。
④ 相続財産を勝手に使い込んでいた場合には、裁判所に対し、不当利得返還請求訴訟を提起すること
も考えられます。
上記の①~③について、以下で詳しく説明します。
財産は長男が相続するべきなの?
戦前は、「家督相続」という制度があり、一家の長男が戸主(一般的には父)の財産を全て相続する制度がありました。
「家督相続」は、戦後廃止されており、原則相続人は均等に相続権を有することになっています。しかし、民法が改正され、家督相続が廃止された今でも、「長男が財産を引き継ぐべきである」という考えの方もいます。
そのため、相続の場面において「長男が財産を引き継ぐべきである」という発想のもと、他の兄弟姉妹の相続権を否定する発言をしたり、相続財産を独り占めしようとするケースも見られます。
相続財産を勝手に使われないようにする方法
金融資産
最も独り占めされやすい相続財産は、金融資産であり、特に預貯金です。
金融機関は、口座の名義人が亡くなったことを知ると、被相続人(亡くなった方)名義の預貯金口座を凍結します。しかし、金融機関は、相続人から亡くなったという連絡がない限り、その方が亡くなったことを知ることはできません。そのため、預貯金口座を凍結したい場合は、まずは相続人から金融機関へ、亡くなったことを連絡する必要があります。
もしも、預貯金口座の凍結の手続きがされていないまま、相続人の1人が、被相続人(亡くなった方)名義の預貯金口座の暗証番号を知っていた場合は、預貯金口座から現金を勝手に引き出される可能性があります。
もちろん、被相続人(亡くなった方)名義の預貯金から、勝手に現金を引き出した場合には、いわゆる「使途不明金」として、不法行為に基づく損害賠償請求や不当利得返還請求をしていくことになりますが、そもそも預貯金口座の凍結手続きをしておけば、現金を勝手に引き出されることはありません。
証券口座についても、預貯金と同様に凍結手続きをする必要があります。近年はネット証券の普及により、IDとパスワードを知っていれば、簡単に証券の売買をすることが可能になっています。そのため、他の相続人に勝手に株式等を売買されないよう、迅速に凍結手続きを進める必要があります。
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このように、口座凍結を行う場合は、凍結手続と同時に「残高証明書」「取引履歴」の取得を行うことをおすすめします。これらの書類を取得することで、相続開始時点の財産額を確認することができます。
不動産
被相続人(亡くなった方)名義の不動産は、遺言書が作成されていない限り、法定相続人同士の共有名義になります。相続人の共有名義ということは、相続人全員が同意しない限り、売却したり、不動産の名義を変更することができません。
しかし、遺産分割協議書に、言われるがまま署名・押印してしまったり、実印や印鑑証明書を渡してしまった場合には、相続人全員の同意がなくても、登記名義人の変更を、単独で勝手に行えるような状況となってしまいます。
そのため、相続人から差し出された書類については、内容をしっかり確認して、納得ができない場合や書いてある内容が理解できない場合には、安易に署名・押印しないことが大切です。
また、実印や印鑑証明書は、公的な文書等にも使うことができる大事なものですので、他の相続人に渡してしまうと、何に使われるか分かりません。安易に実印や印鑑証明書を渡さないようにしましょう。
もしも、被相続人(亡くなった方)名義の不動産に、他の相続人が住み着いていて出て行ってくれないといった場合、その相続人にも持分権がありますので、その不動産を利用する権利はあります。したがって、その相続人に退去を求めることはできません。
しかし、その相続人が住み着いていることで、他の相続人が不動産を利用できなくなっているため、不動産に住んでいる相続人に対しては、「賃料相当損害金」として、利用料を請求することが考えられます。
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遺産分割が完了するまでの流れ
被相続人(亡くなった方)が、遺言書を作成していない場合には、遺産分割協議(遺産分割方法についての話し合い)を行う必要があります。相続放棄の手続き等により、相続権を失っていない相続人は全員、自分の相続分を主張することができます。そのため、遺産を独り占めしている相続人がいる場合は、まずは遺産分割協議の申し入れを行い、話し合いによる解決を目指します。
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遺産分割協議にそもそも応じてくれない場合・遺産分割協議をしても全員が納得いかず合意が出来なかった場合 は、家庭裁判所に対して【遺産分割調停の申立て】を行います。「遺産分割調停」とは、調停委員という第三者が関与することで、相続人それぞれが合意を目指し、話し合いを進める手続きです。
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もしも、遺産分割調停を申し立てても話し合いがまとまらず、調停が「不成立」になってしまった場合、【審判手続き】が開始されます。「審判」では、調停委員ではなく裁判官が関与し、遺産の内容・種類及び性質、その他一切の事情を考慮して、遺産の分割方法について判断されます。
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これらの方法によって決められた事項は、「調停調書」「審判(決定)」として、裁判所からの正式な書面が作成されます。調停調書や審判(決定)には、判決と同様の効力がありますので、これらの書面を用いて、相続財産の換価・解約や、不動産の名義変更を行うことができるようになります。
このような手続き方法がありますので、最初から遺産分割協議に応じる意思がない相続人がいる場合は、「遺産分割調停・審判」を利用し、裁判所関与のもと進めた方が、当事者同士で話し合いをするよりも有効かもしれません。
まとめ
「長男だから」「自分ひとりで親の介護をしてきたから」など、様々な理由で相続財産を独り占めしてしまう相続人がいることがあります。そのときは、まずは金融機関に連絡し、口座の凍結手続きをするなど、相続財産が勝手に消費されてしまうことを防ぎましょう。そのうえで、遺産分割協議(話し合い)を申し入れたり、「遺産分割調停・審判」を申立てたりと、遺産分割に向けた手続きを進めていく必要があります。
もしもすでに、1人の相続人によって、相続財産の独り占めが行われている場合は、本人同士で解決することは困難です。相続財産を独り占めする相続人がいる場合には、対処方法や、その方に対してのアプローチ方法など、まずは専門家に相談することをおすすめします。
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