遺言書の内容が不明確な場合、この遺言の効力はどうなりますか?
目次
Q.遺言書の内容が不明確である場合,どのように扱われますか?
A.遺言書の内容が不明確である場合,その遺言が,どのようなことを書いているのか,その意味を解釈しなければいけませんが,残念ながらその遺言が無効になってしまう可能性があります。
遺言の解釈について,最高裁判所は,「意思表示の内容は当事者の真意を合理的に探究し,できるかぎり適法有効なものとして解釈すべきを本旨とし,遺言についてもこれと異なる解釈をとるべき理由は認められない」とし(最判昭和30年5月10日),極力有効となるように解釈することとされています。
すなわち,遺言書の解釈は,①「当事者の真意を合理的に探究」することであり,なおかつ②「できるかぎり適法有効なものとして解釈すべき」とされていますので,内容が不明確だからといって,即座に無効となるわけではありません。
遺言書の文言が不明瞭な具体例
例えば,相続人が長男,次男の二人である家族において,親が「私の財産のことは,生前,本当に親身にお世話をしてくれた二男に全て任せます。過去,私に多くの金銭トラブルで迷惑を掛けた長男には,絶対に関わってほしくありません。」という遺言を残したとしましょう。
皆さんは,この遺言を読まれて,亡くなった被相続人(親)が,自分の生前築いた財産をどのようにしたいと考えていたと思われますか。
ある人は,自分の生前築いた財産を二男に全て相続させたいと考えていた,と解釈するかも知れません(二男としては,こういう意味だと解釈するでしょう。)。また,別の人は,亡くなった被相続人は当面の財産管理や支払関係を二男に任せたいと思っていただけで,長男に自分の生前築いた財産を全く相続させないとまでは考えていなかった,と考えるかもしれません(長男としては,こういう意味だと解釈するでしょう。)。
遺言書の真意がわからないと…
このように文言の真意が分からない場合,通常の法律問題であれば,文言を作成した人に聞き,説明してもらえればよいのですが,相続が開始するのは被相続人が亡くなった後であり,遺言書の解釈が問題になるのも被相続人が亡くなった後です。とすると,既に「死人に口なし」ということになり,文言の真意を語ってくれる人はいないことになります。
遺言書の解釈について
遺言の解釈は,遺言者の真意を探し当てることですが,その解釈にあたっては,③まずは遺言書に記載されている内容から解釈すべきであり(最判平成13年3月13日は,「遺言書の記載自体から遺言者の意思が合理的に解釈し得る」場合には,「遺言書に表われていない事情をもって,遺言の意思解釈の根拠とすることは許されない」としています。),遺言の記載のみでは解釈が困難な場合には,④「遺言書の文言を前提にしながら」,遺言の「条項と遺言書の全記載との関連,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して」遺言書の解釈をするものとされています(最判昭和58年3月18日,最判平成5年1月19日)。
遺言書の内容は明確にしておきましょう
前記の例のように,読む人それぞれに,多義的に解釈できるような内容の遺言を作成してしまうと,せっかく作成した遺言書ですが,意味が特定できないとして無効になってしまう可能性があります。
また,最終的に,裁判所において,「有効」と判断されたとしても,それは裁判所において,何年も争った上での結論です。
相続紛争が起きないように遺言書を作成したのに,曖昧な表現であったために,かえって,この遺言書の解釈を巡って相続人間で争いが起こるというのは本末転倒といわざるを得ません。従いまして,遺言書の文言は,誰が読んでも一義的で,色々な意味に解釈できないようにする必要があります。
遺言書が元で争いにならないために
とはいうものの,遺言書作成の際には,遺言作成者はこれまでの人生の想いを込められるため,どうしても感情的な文言になったり,法律の専門家でないため,一義的に解釈しづらい表現になってしまうという事態が起こりやすくなります。
せっかく,きちんと遺言書を残して死後の「争族」を回避されようとされているのであれば,専門家に遺言書の作成をお願いし,このような事態を避けるために万全を期すべきではないでしょうか。
「遺言書の検認」では遺言書の有効・無効は判断しない?
なお,家庭裁判所の「検認」の手続(民法1004条1項)において,家庭裁判所が有効・無効を判断してくれる,と誤解されてある方がいらっしゃいますが,そもそも家庭裁判所の「検認」の手続は相続が開始した後の手続である上(同項),遺言書の状態を確定しその現状を明確にする手続であって,遺言書の有効・無効を判断する手続ではありません(大決大正4年1月16日民録21・8)。ご注意ください。
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