亡くなった両親のお世話をしていたのに遺産を取得することができなかった。少しでも取得するためにはどうすればいい?
目次
Q 先日、私の父が亡くなりました。母はすでに数年前に亡くなっているため、相続人は兄と私の2人で
す。
私は、両親の生前にお世話をしてきました。ところが、父の遺産をもらうことができませんでした。
どうにか父の遺産を取得する方法はないのでしょうか。
A 遺産をもらえない原因によって、対応方法が異なりますが、遺産をもらえる可能性はあります。
以下で、詳しく解説いたします。
遺産がもらえない原因について考えられるパターン
遺産がもらえない原因として、以下のようなものが考えられます。
不利な内容の遺言書が存在する場合
被相続人(亡くなった方)であるお父様が生前に、「長男に全ての財産を相続させる」という内容の遺言書を作成していた場合が考えられます。
他の相続人が遺産を隠している場合
被相続人(亡くなった方)であるお父様の遺産の管理を、お兄様が任されていた場合、実際には存在する遺産を隠したり、預貯金を使い込んだりしている場合が考えられます。
相続欠格・相続人の廃除により相続権を失った場合
『相続欠格』は、民法891条に規定されている事由(詐欺・強迫によって遺言等を作成させたり、遺言を偽造・変造・隠匿等した者など)に該当した場合に、被相続人(亡くなった方)を相続する資格がないとして、当然に相続権を失うことをいいます。
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『相続人の廃除』は、被相続人(亡くなった方)に対する虐待・重大な侮辱、その他の著しい非行があった相続人について、被相続人(※なお、遺言による廃除の場合は遺言執行者)の請求によって、家庭裁判所が『相続廃除』の審判を行い、相続権を失わせることいいます(民法892条)。
『相続欠格』や『相続廃除』については、遺留分(一定の範囲の相続人に認められている,遺言書に基づいても奪うことができない,法律上保障されている最低限度の遺産の取得分のこと)を含めて相続に関する権利一切を失うことになります。
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相続分の譲渡または放棄をした場合
相続人は、自らの有する相続分を第三者に譲渡することまたは放棄することが認められています。
相続分を第三者に「譲渡」した場合、第三者が相続権を有することになります。そのため、自らの相続分を第三者に譲渡した相続人は、遺産を相続することはできません。
なお、他の共同相続人(第三者に相続分を譲渡した人以外の相続人)は、相続分の譲渡から1ヶ月以内であれば、価額および費用を支払うことと引き換えに、譲受人(譲渡によって相続分を得た人)から当該相続分を取り戻すことができます(民法905条1項・2項)。
相続「分」を「放棄」した場合の効果については、明文の根拠(法律の条文における根拠)はありません。放棄された相続分が、当初の相続分に応じて、他の相続人に按分的に帰属するという考え方が有力です。
相続放棄した場合
家庭裁判所に対して『相続放棄の申述』を行った場合、初めから相続人にならなかったものとみなされます(民法939条)。そのため、相続放棄した場合は、被相続人(亡くなった方)の遺産を相続することはできません。
相続放棄と相続「分」の放棄は、以下のとおり異なりますので、注意が必要です。
相続放棄と相続分の放棄について
相続放棄 | 相続分の放棄 | |
根拠規定 | 民法938条以下 | なし |
期間制限 | 自己の為に、相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内 | 期間制限なし |
債権者との関係 | 債権者との関係でも効力が生じる | 債権者との関係では効力は生じない |
効果 | 相続そのものをしなかったことになる | 相続をした後に相続分を放棄したことになる |
効果が及ぶ人 | 全ての法律関係に影響する | その手続き限りでの効果しかない |
それぞれの対処法について
以下では、本件のQ&Aにもとづき、
①不利な内容の遺言書が存在する場合
②他の相続人が遺産を隠している場合
③他の相続人が遺産を使い込んでいる場合
の対処法について解説します。
不利な内容の遺言書が存在する場合
不利な内容の遺言書が存在する場合には、対処法として、【遺言書の無効を主張する方法】と【遺留分侵害額請求を行う方法】があります。
~遺言書の無効を主張する方法~
作成された遺言書が、民法上要求されている形式を満たしていないものであるなどの理由を挙げて、遺言書の無効を主張します。もし、遺言書が無効となった場合には、遺言が無い状態と同じになりますので、相続人同士で遺産分割協議(遺産分割についての話し合い)を行うことになります。その話し合いが成立した場合、被相続人(亡くなった方)の遺産を相続することが可能になります。
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→遺言無効
~遺留分侵害額請求を行う方法~
一定の範囲の相続人には、遺言書に基づいても奪うことができない、法律上保障されている最低限度の権利である『遺留分』が認められています。
『遺留分侵害額請求』とは、自分が相続した財産の価額が、遺留分の割合に満たない場合、遺産を多くもらった他の相続人等に対して,相続した財産の価額と遺留分との差額を請求するものです(民法1046条1項)。
遺留分侵害額請求は、請求しようとする者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年以内に行う必要があります。
もし、つい最近知った場合でも、被相続人(亡くなった方)の死亡日時点から10年を経過していた場合には、遺留分侵害額請求を行うことができませんので注意が必要です。
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他の相続人が遺産を隠している場合
他の相続人による、遺産隠しが疑われる場合には、遺産分割協議や調停・審判の中で,遺産内容の開示を求める方法があります。
もし、財産の開示を拒否される場合には、預貯金については、相続人であること(戸籍等)を金融機関に提示することで、10年分の取引履歴の開示を受けることができます。被相続人(亡くなった方)が所有していた不動産については、市区町村が保管している『名寄帳』を取り寄せて、確認することができます。
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→被相続人の財産がまったく分かりません。財産調査をお願いすることは可能でしょうか?
他の相続人が遺産を使い込んでいる場合
使い込みについては、被相続人(亡くなった方)の遺産を使い込んだ時期によって、以下のとおり対処法が異なります。
~被相続人(亡くなった方)の生前に使い込まれた場合~
使い込みが被相続人の生前に行われた場、使い込みを行った相続人に対して、「被相続人」が、『不当利得に基づく返還請求権』および『不法行為に基づく損害賠償請求権』を取得していたことになります。
そこで相続人が、被相続人(亡くなった方)の代わりに、不当利得・不法行為に基づく請求権を、訴訟などを通じて行使することになります。
~被相続人(亡くなった方)の死後に使い込まれた場合~
使い込みが被相続人の死後に行われた場合、使い込みを行った相続人に対して、『不当利得に基づく返還請求権』および『不法行為に基づく損害賠償請求権』を行使することになります。
また、使い込みを行った者以外の相続人全員が同意した場合、使い込まれた遺産が現存するものとみなして、改めて遺産分割を行うことも可能となります(民法906条の2第1項)。
遺産分割の話し合いの中で、使い込みの精算(※すでに相続分を取得したものとみなして精算すること)を行うことができることから、訴訟提起して回収するよりも、簡易的で便利な方法といえます。
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まとめ
相続する権利があるにもかかわらず、遺産がもらえない場合には、他の相続人に対して、何らかの請求をできる可能性があります。ご自身の権利を実現するためにも、まずは専門家である弁護士に相談することをお勧めします。
また、『遺留分侵害額請求』については、専門的な知識が必要になることや、請求できる期間に制限があることなどから、お早めに弁護士にご相談ください。
遺留分を請求されてしまった方についても、経験豊富な弁護士がアドバイスさせていただきますので、是非ご連絡をお待ちしております。
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