遺言書によって、妻に「全財産」を相続させることはできますか?

Q 私には、妻と二人の子どもがいます。妻は長年に渡って、私を支えてくれました。

  一方、子どもは二人とも東京に行ったきり、疎遠になっております。


  私は、妻が今までどおり安心して生活ができるように、私の全ての財産は妻に残してあげたいのです

 が、可能でしょうか?


  もし、生前や相続の際に気をつけることなどがあれば、教えてください。

A 妻に全財産を相続させるには、遺言書を作成することが最も有効な手段です。

 しかし、「遺留分」に気を付ける必要があります。


  以下で詳しく説明します。

 

遺言書を作成しておかないとどうなるの?

 

 相続人が、配偶者と子どもの場合、

 ・配偶者の法定相続分:2分の1

 ・子どもの法定相続分:子ども全員で遺産の2分の1

となります。

 

 そのため、子どもが複数人いる場合は、遺産の2分の1を子どもの数で均等に分割することになります。

 

【例えば・・・】

 遺産が1億円、相続人が配偶者(妻)と子ども2人の場合

 ・配偶者(妻)の法定相続分:2分の1➡5000万円

 ・子ども1人あたりの法定相続分:子ども全員で遺産の2分の1➡各2500万円

となります。

 このように、遺言書を作成していないと、子どもに財産の半分が相続される可能性があります。

 

「全財産を妻に相続させる。」という内容の遺言書は有効?注意点は?

  

 「全財産を妻に相続させる。」という内容の遺言書を作成した場合、法律で定められた遺言書の方式で作成されていて、作成時の判断能力などに問題がなければ有効です。

 

 しかし、一部の相続人のみに全財産を相続させる内容で作成した場合は、遺留分に注意する必要があります。

 

 「遺留分」とは、被相続人(亡くなった方)の財産のうち、一定の相続人(※兄弟姉妹を除く)に承継されるべき最低限の割合のことです。

 

 「遺留分」は、法律で定められている権利なので、遺留分侵害額請求をされてしまうと、一定の金額であれば、どうしても支払いは必要となります。

 

【例えば・・・】

  相続人が配偶者(妻)と子ども2人の場合

 ・配偶者(妻)➡ 遺言書によって全財産を相続

 ・子ども2人 ➡ 法定相続分2分の1(※2人合計)+ 遺留分2分の1(※2人合計)

         = 遺産全体の4分の1を請求することができます!!

 本件のQ&Aのように、全財産を妻に相続させると、子ども2人の遺留分を侵害することになります。そのため、子ども2人から「遺留分侵害額請求」をされた場合は、基本的に、侵害額相当分の金銭を支払わなければなりません。

 

 ~遺留分侵害額請求について詳しくはこちら~ 

 ★遺留分・遺留分侵害額請求

 ★父が作成した遺言書で、姉8割・私2割の遺産分配となっていました。遺留分は請求できますか?

 ★遺留分侵害額請求されてしまった方へ

 

遺留分対策の方法は?

 

【対策①】相続財産の総額を減らしておきましょう!

 

 遺留分は、基本的に相続財産の額を基礎として計算されます。生前に贈与などを行って、相続財産の額を減らしておくことで、遺留分の額も減らすことができます。

 

 遺留分対策として生前贈与する場合は、相続人に対しては亡くなる10年間よりも前に、また、相続人以外に対しては、亡くなる1年間よりも前に行う必要があります。

 

 なぜなら、

・相続が開始される前の1年間に行った相続人以外(孫など)への生前贈与

・相続が開始される前の10年間に行った相続人に対する特別受益としての贈与(※婚姻もしくは養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与)

は、遺留分額算定の基礎となる財産に加算されてしまうからです。

 

 なお、被相続人(亡くなった方)と受贈者(受け取った方)の双方が、遺留分権利者の遺留を侵害することを知って贈与したときは、何年前の贈与であっても、遺留分額算定の基礎となる財産に加えられますので、ご注意ください。

 

【対策②】生命保険を利用しましょう!

 

 遺留分の対策を行いたい場合は、生命保険に加入し、受取人を決めておきましょう。生命保険の「死亡保険金」は、相続財産ではなく、受取人の固有財産となります。そのため、原則、遺留分額算定の基礎財産にはなりません。

 

 さらに、現預金で生命保険の保険料を払うことで、将来、相続財産となるはずであった現預金が減少することにもなります。

 

 財産の総額に対して、保険金の金額が大きすぎるなど、他の相続人との間に著しい不公平が生じるケースでは、例外的に、生命保険金も特別受益とみなされ、遺留分算定の基礎財産に含まれる可能性があります。

 

 そのため、「生命保険を利用することにより、遺留分侵害額請求を一切封じることができる。」と過信することは危険ですので、ご注意ください。

 

 ~生命保険の活用について詳しくはこちら~ 

 ★生命保険の受取人になっていますが,どのくらいの遺留分を請求されてしまうのでしょうか?

 ★生命保険金や祭祀財産は,相続財産に含まれるのでしょうか。

 ★相続放棄しても生命保険金を受け取れるの?

 

【対策③】 付言事項を残しておきましょう!

 

 『付言事項』とは、遺言書において、「感謝の気持ち」や「遺言を書いた経緯」など、相続人に残したい言葉などを手紙のような形で伝えるものです。

 

 遺言書の本文では、具体的な財産の分割方法などを書きますが、『付言事項』には、「家族が助け合っていくように」「お母さんを大事にするように」「兄弟仲良くするように」などの遺言者の想いや、なぜ特定の相続人に生前贈与をしたのかなどの理由を書き残すことができます。

 

 『付言事項』は、遺言者の想いを記載するものなので、法的な効力があるわけではありませんが、とても重要な役割を負っています。

 

 『付言事項』を残しておくことで、相続人が、遺言者の想いを理解し、相続争いを防ぐことができる場合もあります。また、相続人が、これまでの感謝の気持ちなどを自覚して、遺留分請求を思いとどまることにも繋がります。

 

 ~遺言書作成についてのまとめ記事~ 

 ★遺言書作成について

 

遺留分の争いになった場合はどうなるの?

 

 遺留分の争いになったときは、まずは交渉での解決を目指します。交渉で解決できなかった場合は、遺留分侵害額請求の調停・訴訟へと移行します。

 

 遺留分侵害額請求を行使するためには、遺留分を侵害されていることを知った日から1年以内に、【資料収集・不動産等の財産についての評価・遺留分侵害額の計算・遺留分を侵害している相手方との交渉】を行う必要があります。

 

 時効というタイムリミットもある中で、これらすべてを専門家の助力なしに行うことは、困難を伴います。

 

 遺留分侵害額請求を受ける立場においても、相手方の請求額が妥当なものなのかを判断することは難しいものです。

 

 さらに、調停や訴訟に移行した場合は、解決までに1年以上かかるケースも多く、時間や費用も掛かります。

 

 このように、遺留分額で争いになった場合、残された相続人の精神的、経済的負担は計り知れないものです。

 

 ~遺産分割調停・訴訟についてのまとめ記事~ 

 ★遺産分割調停・訴訟についての記事

 

遺留分の対策をおすすめします!

 

 残された相続人が争わないようにするには、事前の対策が不可欠です。遺留分の対策については、具体的・専門的な判断が必要となりますので、まずは弁護士にご相談されることをおすすめします。

 

まとめ

 

  ➀ 特定の相続人に全財産を残したい場合は、必ず遺言書を作成すること。

 

  ② 特定の相続人に全財産を相続させることで、遺留分の問題が生じる可能性が 高いので、十分に

   注意すること。

 

  ③ 遺留分の対策には、

   ・生前に、相続財産自体を減少させておく

   ・生命保険を利用する

   ・遺言書に「付言事項」を残しておく 

 などの方法があるので、対策方法を考えておくこと。

 

 以上のとおり、トラブルへの対応策も含めて、特定の相続人に全財産を相続させるために気をつけるべきことは多岐にわたります。そのため、単に遺言書を作成するだけでなく、準備段階である早い時期から、相続に熟知した弁護士が関与し、相続争いの対策をしていくことが重要です。

 

 当事務所は、弁護士歴27年以上の弁護士が在籍しており、多くの相続に関するご相談を受けてきました。机上の法律知識だけでは得られない、多数の相談や解決実績に裏付けられた実践的なノウハウを蓄積しております。

 

 こういった経験から、遺言書の作成方法や、遺留分の問題だけではなく、相続全般について、皆様に最適なサポートを提供いたします。お悩みの方は是非一度、当事務所にご相談ください。

 

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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