親の老後の面倒を見た子が財産を多く相続できる方法とは?
目次
Q 私の父は随分前に亡くなっていて、現在は、高齢の母と私(Aさん)が実家で一緒に暮らしています。
私は長女で、東京在住の兄がいますが、私(Aさん)だけが母の面倒を見てきました。母は数年前か
ら、介護が必要な状態となったため、私は仕事を辞めて、母の介護をするようになりました。
しかし先日、兄が実家に帰省した際に、「兄妹だから、母が亡くなったら、遺産は2分の1にするか
らな!」と言われました。それにもかかわらず、兄は今後も母の介護をする気はないそうです。
私(Aさん)は、何年も母の世話をしているのに、何もしていない兄と同じ金額を相続することにな
るのでしょうか?納得できません。
A 仕事を辞めて、一人で母の世話をしていたAさんには、寄与分が認められる可能性があります。
Aさんに寄与分が認められると、お兄様よりも多くの遺産を相続することができます。
なお、遺産を多くもらうには、以下の方法のいずれかで対応することができます。
1. 母の生前に遺言書を作成してもらう。
2. 遺産分割協議を行い、寄与分(介護の功績)について主張し、認めてもらう。
3. 母に生前贈与をしてもらう。
しかし、相続開始後に寄与分の話をすることは、トラブルの原因となる可能性がありますので、生前
に遺言書を作成してもらうことがより望ましいです。
また、生前贈与を行ったとしても、相続開始後になって、亡くなった方の預金を使い込んだのではな
いかと他の相続人が疑い、金銭の請求をしてくることがあります。そのため、預金の使い込みと言われ
ない対策も必要です。
以下で詳しく説明します。
寄与分
寄与分とは?
被相続人(亡くなった方)の介護等に尽力した相続人は、介護等で貢献したことを理由に、他の相続人よりも多くの財産を相続したいと考えることがあるかもしれません。このように、相続人の貢献を評価する制度として「寄与分」があります。
「寄与分」とは、相続人の中に、被相続人(亡くなった方)の財産の維持・形成に特別な寄与(貢献)をした方がいる場合、この寄与(貢献)を考慮し、特別に与えられる持分のことをいいます。
ただし、「寄与分」として考慮されるためには、被相続人(亡くなった方)の財産の維持または増加をした事実がなければなりません。そのため、被相続人の療養看護等に寄与(貢献)したことを理由に「寄与分」を主張したとしても、その寄与(貢献)が、被相続人の財産を維持・増加させたという事実が必要となります。
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寄与分が認められる要件って何?
● 被相続人(亡くなった方)が、介護・療養看護を必要とする病状であったこと
(※「要介護度2」以上が目安)。
● 被相続人(亡くなった方)の介護を無報酬で行なったこと。
● 介護士などに依頼するよりも大幅に低い報酬で行なったこと。
● 長期間にわたって介護を行なったこと。
● 介護を行うために自身の仕事を抑えるなど、生活に負担が生じたこと。
寄与分を受け取る方法
「寄与分」の要件を満たす場合、「寄与分」の財産を受取る方法は、被相続人(亡くなった方)が遺言書を作成しているか否かで変わります。
【遺言書を作成していない場合】
しかし、もしも、他の相続人が、寄与分権利者の主張を認めない場合には、家庭裁判所に対し、【遺産分割調停】と【寄与分を定める処分調停】の二件分の申立てを行うことになります。そして、調停が成立しない場合には、審判手続きにより、裁判官に決めてもらうこととなります。
このような手続きが必要ですので、相続人同士で話し合いがまとまらず、家庭裁判所での調停・審判となってしまうと、解決するまでに多くの費用と時間を費やすことになりますので、注意が必要です。
そのため、弊事務所では、遺言書の作成をおすすめしております。
【遺言書を作成している場合】
被相続人(亡くなった方)が遺言書を作成している場合、遺産分割協議(※誰がどの財産を取得するかの話し合い)が不要となり、遺言書の内容に基づいて、被相続人の財産を取得することになります。
そのため、被相続人の介護等の世話を行った相続人が、遺産分割協議の際に、他の相続人と争いになることなく多くの財産を取得するには、遺言書を作成しておくことをおすすめします。
また、遺言書には、付言事項(※遺言書の最後に記載する、亡くなった方からのメッセージのようなもの)を記載することができます。付言事項は、法的には効力がありません。
しかし、被相続人(亡くなった方)からの、相続人(介護をしてくれた相続人・その他の相続人)に対する気持ちや、遺言書を作成した理由などを記載することで、他の相続人も、その内容に納得することができる可能性があります。
生前贈与
生前贈与とは?
被相続人の生前に、財産の一部を贈与してもらうことで、他の相続人よりも多くの財産を受け取ることができる制度を「生前贈与」と言います。
本件のQ&Aの場合、母の介護等を行っているAさんが、生前に母から財産の一部を贈与してもらうことで、兄よりも多くの財産を受け取ることができます。
ただし、生前贈与で受け取った財産が、「特別受益」として評価できる場合には、受け取った財産を考慮して遺産分割協議が行われる可能性があります(これを、「特別受益の持戻し」といいます)。
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★寄与分の具体例について教えてください。特別受益とは何ですか?その具体例についても教えてください。
★遺留分を計算する際、特別受益はどう考慮されるの?特別受益とは?
(例 ※本件のQ&Aの場合)
相続時の財産が5000万円であった場合、法定相続分どおりに分割すると、長男(兄)・長女(Aさん)ともに、2500万円を相続することになります。
ところが、例えば長女(Aさん)が、生前に母から1000万円の贈与を受けており、これが「特別受益」と評価される場合には、次のような計算により長男3000万円、長女2000万円を相続することになります。
・長男:(5000万円+1000万円)×1/2=3000万円
・長女:(5000万円+1000万円)×1/2-1000万円=2000万円
贈与した人(亡くなった方)が、生前に、「自分が亡くなった後の遺産分割において、特別受益を考慮しなくてよい。」という意思表示を行っていた場合、特別受益の考慮を行う必要がなくなります。(これを、「特別受益の持戻しの免除」といいます。)(民法903条3項)
意思表示の方法については、法律上特に決まりがないことから、口頭でも行うことができます。
ただし、口頭でのみ持戻し免除の意思表示を行っていた場合、遺産分割で争いになったときに、証拠が無いことから、持戻し免除の意思表示が認められない可能性があります。そのため、「特別受益の持戻しの免除」を行う場合は、書面で残しておくことをおすすめします。
贈与税が発生してしまう?
生前贈与を行う場合、贈与税に注意する必要があります。贈与税は、受贈者(贈与を受けた方)が負担する必要があります。
贈与税は、
で計算します。
このように、基本的には贈与税が発生しますので、贈与をする際は注意が必要です。なお、1年間に贈与を受けた金額が、基礎控除110万円の範囲内であれば、税務署に申告する必要はありません。
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~暦年贈与について詳しくはこちら~
亡くなる直前に行った生前贈与については、相続財産に含めて相続税を計算するというルールがあります(これを「持戻し」といいます)。
持戻しの対象となる生前贈与は、亡くなる7年以内の贈与となります。
なお、亡くなる3年前までの生前贈与については、全額が持戻しの対象になりますが、その他の贈与については、その間になされた贈与の総額から、100万円を控除した金額が持戻しの対象になります。
このように、生前贈与を行う際は、「持戻し」に気を付ける必要がありますので、早い時期からコツコツと行うとよいでしょう。
「預金の使い込み」と言われないための対策をしましょう!
相続人の一人が、親の介護を行う場合に、最も注意すべき点は、「預金の使い込み」を疑われないようにすることです。
介護が必要な状況になると、普段面倒をみている方が、親の預金口座からお金を引き出し、生活費や介護費用の管理を行う状況が生じると思います。しかし、親の死亡後に、介護を行っていない相続人が金融機関の取引履歴を確認し、預金口座から頻繁な出金があることで、介護を行っていた相続人に対して、「親の預金を使い込んだのではないか!」と疑いをかけてくることがあります。
このような争いを防ぐためには、介護にかかる費用のための預金口座を作って、管理をするなどの対策が必要になります。
また、介護のために使った費用については、領収書や記録をきちんと残しておくことで、「預金の使い込み」と言われ、争いになるのを避けることに繋がります。
まとめ
被相続人(亡くなった方)の介護等、特別な貢献をしたことで、介護を行っていた相続人に、「寄与分」が認められ、他の相続人よりも多くの遺産を相続することができます。
しかし、「寄与分」が認められる要件は厳しく、相続人同士での話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所に対し、【遺産分割調停】と【寄与分を定める処分調停】の二件の申立てを行うことになり、多くの費用と時間を要します。
「寄与分」が認められるかについては、専門的な判断が必要になりますので、まずは弁護士にご相談ください。
このように、介護等の世話を行う相続人に、多くの負担をかけないようにするためには、「他の相続人よりも多くの財産を相続させる」という内容の遺言書を作成しておくことや、生前贈与を行っておくなどの対策も必要になります。
また、介護を行う相続人は、相続発生後に、他の相続人から預金の使い込みを疑われないように対策をしておくことも必要になります。
遺言書の作成や生前贈与についても、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
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