親の老後の面倒を見た子が財産を多く相続できる方法とは

Q.私(A)の母は随分前に亡くなっており,高齢の父と一緒に暮らしています。
 私は,長女ですが,ほかに東京に行ったきりの兄(B)がいます。
 私は,仕事を辞めて,高齢になった父の面倒を何年も見ているところ,先日兄に,「父が亡くなった    ら,相続分は2分の1づつだからな。」と言われました。
私は,何年も必死に父の面倒を見てきているのに,何もしていない兄と同じ額しか相続できないのでしょうか?納得がいきません。なんとかなりませんか?


A.あなたが,Bより多くの財産をお父様から相続するためには,大きく分けて2つの方法があります。1つは,お父様に,あなたに対し多くの財産を渡すことを内容とする遺言を書いてもらうことです。もう1つは,お父様の死亡後に,Bに対して,寄与分の主張をすることで,あなたが取得する財産を増加させる方法です。

遺言を書いてもらう

遺言が無ければ,Aさんの場合は,子が二人ですので,それぞれ平等に2分の1づつの法定相続分になってしまいます(民法900条4号本文)。

 

もっとも,遺言により,法定相続分とは異なった内容で,相続人の方が取得する財産を決定することができます。

 

例えば次の記事の内容のように,被相続人の介護をした相続人に多くの財産を取得させる内容の遺言を作成することができます。

このように,遺言で,親の面倒を見たAさんに多くの財産を相続させる旨の遺言があれば,AさんはBさんより多くの財産を取得できます。
もっとも,遺言の内容によりAさんに余りにも有利な内容になった結果,Bさんの遺留分を侵害するケースでは,Bさんから遺留分侵害額請求をされる可能性があります。

 

こうして選ばれた者が,遺言執行者となることを承諾した場合に,遺言執行者となります。以上のように,Aさんのお父様が,Aさんに多くの財産を相続させる内容の遺言を書いてくれれば,Aさんの希望を叶えることもできますが,これには大きく分けて2つ問題があります。

 

1つは,Aさんはお父様に遺言を書くことを強制することはできず,あくまでお願いをすることができるにとどまることです。

 

遺言は,遺言者の最終の意思を表示するものであり,相続人になるAさんの意思に基づくものではありません。したがって,相続人であるAさんがお父様に「私が介護したのだから多くの財産を相続させる内容の遺言を書いてほしい。」と御願いしても,それにお父様が応じるかはお父様の自由ということになります。

 

もう1つは,「有効な遺言ができるか」という問題です。

 

Aさんのお父様の精神の状態によっては,遺言を有効に行う能力(遺言能力といいます。)が認められず,遺言ができないという可能性があります。

 

また,遺言を作成していた場合でも,Aさんのお父様の死亡後に,自分に不利な内容である遺言に納得できないBさんによって,遺言の無効を主張される可能性もあります。

このように,遺言には無効となるリスクがありますので,次の2点に注意する必要があります。

 

1つは,遺言者の意思がはっきりしているうちに,早期に遺言書を作成することです。

 

もう1つは,後のトラブル防止のために公正証書による遺言を作成することです。

※なお,自筆証書遺言については,法務局での保管制度が新設されました。

このように公正証書により遺言を作成すると,よほどのことが無い限り,遺言は無効となりませんので,Aさんのご希望を実現するのに,有効な手段といえます。

 

寄与分の主張をする

 そもそも寄与分とは?

寄与分とは、相続人や親族の中に、亡くなった方の財産の維持又は増加について特別の貢献をした人がいる場合、他の相続人との公平を図るために、当該相続人等に対して、法定相続分以上の財産を取得させる制度です。

 

具体的には、親の家業に従事して親の財産を増やした人、寝たりきり状態の親を自宅で介護をして親の財産の減少を防いだ人など、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をしたと評価できる場合に「寄与分」として、貢献した方の相続する財産を増やすことができます。

 

寄与分を受ける資格がある者とは

寄与分を受ける資格がある者(「寄与分権者」といいます。)について、民法は、原則として「相続人」と規定しています(民法904条の2第1項)。

 

民法第904条の2
共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。

 

したがって、例えば、内縁の妻は「相続人」ではないので、寄与分を主張することはできません。

 

また、長男の嫁が被相続人の療養看護に貢献したとしても、相続人ではないため、民法904条の2に基づく寄与分としては評価されません(なお,相続人以外の被相続人の親族の貢献に関しては,「特別寄与料」の制度があります。)。

 

寄与分の要件とは

次に、寄与分を主張するための要件について解説します。

 

① 特別の寄与があること

寄与分が認められるのは、前掲の民法904条の2第1項によれば、「特別の寄与」があることが必要です。

 

「特別の寄与」といえるためには、被相続人と相続人の身分関係に基づいて、「通常期待されるような程度を超える貢献」である必要があると考えられています。

 

したがって、妻が被相続人である夫のために一般的な家事労働を行っていたとしても、妻である以上、夫婦間の協力扶助義務(民法752条)があるため、特別の寄与には該当しないと考えられます。

 

また、子供が高齢の親と同居して、家事の援助を行っているに過ぎない場合も、親族間の扶養義務・互助義務(民法877条1項)の範囲内の行為として、特別の寄与には該当しないと考えられます。

 

② 相続財産が維持又は増加したこと

また、「特別の寄与」により、相続財産の減少や負債の増加が阻止され、又は、相続財産の増加や負債の減少がもたらされたといえることが必要です。

 

この点、単なる精神的な援助ではなく,経済的な観点からの相続財産の維持又は増加が必要です。

 

寄与行為の態様

民法は、寄与の内容について、「相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法」と規定しています(民法904条の2第1項)。

 

そこで,具体的にどのような寄与分が考慮されるかについて解説します。

寄与分の具体例>>

Aさんの場合は,療養看護型にあたりうるのですが,前述のとおり,寄与分が認められるためには,特別の寄与にあたらないといけません。

 

寄与分が認められるためには,被相続人の方が「要介護度2」以上の状態にあることが一つの目安になると考えられています。

 

完全介護の病院に入院していた場合には、寄与分が認められるの?

 

この点ですが,寄与分が認められるためには,被相続人が「療養看護を必要とする病状であったこと」に加えて,「近親者による療養看護を必要としていたこと」が必要です。

 

したがって,病状が重篤であっても,完全看護の病院に入院しているような場合には,基本的には寄与分は認められません。

 

もっとも,入院中の介護に一切寄与分が認められないわけではありません。(参考判例 東京高决平成22年9月13日)

 

寄与分の算定方法について

療養看護の寄与分は,実際に第三者に療養看護に当たらせた場合,被相続人が負担するべき費用の支出を免れていることから,このような観点から算定するのが合理的です。

 

そこで,療養看護による場合の寄与分の算定方法は,実務上は,

職業介護人の場合の日当額(報酬相当額)×療養看護日数×裁量割合

療養看護型の寄与分 = 報酬相当額 × 看護日数 × 裁量割合

という計算式で算定することが一般的です。

※裁量割合とは?

相続人は介護のプロでは有りません,また,本来的に扶養義務を負った相続人が介護をしている場合ですので,第三者たる職業介護人が介護をした場合と同額とするのは妥当ではありません。
したがいまして,職業介護人の場合の日当額(報酬相当額)×療養看護日数に裁量割合を乗じることで調整をします。
裁量割合は,通常は,0.5から0.8程度の間で適宜修正されており,0.7あたりが平均的な数値といえます。

療養看護型の寄与分 = 報酬相当額 × 看護日数 × 裁量割合

 

寄与分はどうやって主張したらいいの?

寄与分を他の相続人に主張する方法は以下の方法があります。

・相続人同士による話し合い
・寄与分の調停
・寄与分の審判

それぞれ具体的に説明して参ります。

① 相続人同士による話し合いによる方法

裁判所に間に入ってもらわなくても,相続人全員で寄与分について合意ができればそれ自体は問題ありません。

 

寄与分は,遺産分割手続の中で,話し合うことになります。

 

なお,寄与分の話し合いをする段階においても,弁護士にその交渉を依頼することはよくあります。寄与分はその制度自体複雑でありますし,自己の寄与分に関する証拠を集めることも,煩雑かつ困難であります。

 

したがいまして,相続人同士による話し合いの場合においても,弁護士をつけたほうが良いでしょう。

 

相続人同士による話し合いは,裁判所に行かなくてもよいというメリットがありますが,相続人同士で合意ができない場合には,遺産分割手続を解決することができないというデメリットがあります。

 

② 寄与分を定める調停

寄与分を定める調停とは,家庭裁判所(調停委員会)に間に入ってもらい,話し合いによって解決する手続です。

 

調停手続では,調停委員会が当事者双方から事情を聴いたり,提出された資料をもとに,解決案を提示したり,解決のために必要な助言をし,合意を目指した話合いが進められます。

 

寄与分については、相続開始から遺産分割の終了までの間、単独で調停を申し立てることが制度上は可能ですが、遺産分割調停を申立て、両調停を併合して話し合いを行うことが一般的です。

 

裁判所の管轄(どこの裁判所に申立をしたらよいのかということです)は、相手の住所地を管轄する家庭裁判所となりますが、遺産分割の調停が係属している場合はその事件が継続している家庭裁判所の管轄となります。

 

家庭裁判所の調停は,調停委員会という第三者が入ってくれますので,話し合いが先にすすむ可能性が上がります。

 

しかし,あくまで話し合いですので,調停が不成立になる可能性があります。

 

また,調停のために裁判所に行く必要があります。調停は平日に開催され,1回の時間も数時間程度かかる場合があります。

 

③ 寄与分の審判

寄与分を定める調停において話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には,審判手続が開始されます。

 

審判手続は、調停のように話し合いによる解決を目指すものではなく、最終的には決定という形で裁判所の判断が示されます。

 

職業裁判官が証拠に基づいて認定してくれるので当事者に納得感が得られやすい点が,この制度のメリットといえるでしょう。その裏返しとして,裁判官が認定できるだけの資料を収集しなければならないので,時間と労力を要する点がこの制度のデメリットとなります。

 

なお,寄与分の請求は,遺産分割手続の中でしなければなりません。遺産分割後の寄与分の主張は認められないことになっています。

 

特別寄与者について

従前、寄与分権者となり得るのは相続人に限定されていました。

 

しかし、相続権がない場合でも、被相続人の療養看護に貢献するケースは多く(息子の嫁など)、そのような場合に、一切金銭を請求できないとすると、かえって不公平な結果となることがありました。

 

このような問題に対応するため、相続人以外の被相続人の親族について、一定の要件のもとで、相続人に対して金銭請求をすることができる制度(特別の寄与)が創設されました(2019年7月1日施行)。

 

これによって、被相続人の親族についても、特別寄与料の支払いを請求できることとなっています。

 

弁護士が対応できること

遺言の作成について

①生前対策としての遺言作成については,なかなか遺言の必要性を認識して頂けないことも多いです。そこで,まずは遺言作成の必要性を認識して,遺言を書いておこうという決断をして頂けるように,弁護士がご本人様に対し,遺言を作成することによって遺言者の意思が実現できること,相続紛争を回避することができることなど,遺言作成のメリットや遺言を作成しないことによる問題点を説明いたします。


②そのうえで,遺言を作成するという判断をされましたら,弁護士がご本人様と打合せを行い,財産を整理した上で,お気持ちやご意向を聴取し,ご意思を実現できる遺言の内容をご提案いたします。

 

③遺言の内容が決まりましたら,弁護士が遺言の文案自体を作成し,手続きを進めていくことになります。
公正証書で遺言を作成される場合は,公証役場に連絡をし,遺言の内容について公証人と打合せをして,日程を調整いたします。また,公正証書遺言の作成には,証人が2人必要ですが,証人になっていただく方がおられない場合には,法律事務所にて証人を確保することもできます。

また,近年利用が増加している法務局での自筆証書遺言の保管制度についても,制度自体の説明や,遺言保管申請書の作成支援等,遺言保管制度を円滑に利用できるように援助いたします。

 

寄与分の主張について

 寄与分の主張を最大限認められるように,裁判例や審判例,家庭裁判所の運用等を分析します。 

 

また,寄与分の主張が認められるためには,その判断要素となる事実を明らかにしていく必要がありますので,被相続人の診断書やカルテ,要介護認定書(認定調査票,主治医意見書等)等の証拠収集をします。そのうえで,御依頼者様の寄与行為を分析し,表などにしてわかりやすくまとめることで,相手方や裁判所にも伝わりやすい資料を作成して主張をしていきます。

 

弁護士に依頼するメリット

遺言の作成について

ご家族であっても,なかなか遺言を作成して欲しいとは言いづらいものです。しかし,ご両親も,専門家に遺言作成のメリット,遺言を作成していない場合生じる不都合等を聞けば, 遺言作成の必要性を感じ,「遺言を作成しよう。」という判断をしやすくなります。 このように弁護士が関与することで,まず,遺言作成の意思決定をサポートできます。

 

また,実際に遺言を作成するとしても,遺言には法律上満たさなければならない要件があり,要件を満たしていない遺言は無効になってしまいます。この点,遺言作成を弁護士に依頼することで 有効な遺言を作成することができます。 

 

そして,遺言は書き方次第では様々な工夫をして, 遺言者の意思を実現することができます。 例えば,弁護士に依頼をすることで,遺言者の子が,遺言者より先に亡くなってしまった場合には,孫に相続させる,といった予備的な内容を記載した遺言を作成することができますし,付言事項をしっかり書くことで後の相続紛争を事前に抑制することもできます。このように,遺言作成を弁護士に依頼することで,遺言者の意思を実現した柔軟かつ適切な遺言を作成することができるでしょう。

 

寄与分の主張について

寄与分が認められるためには,「特別の寄与」がなければならず,寄与分の主張が相手方・裁判所において認められることは簡単ではありません。一般の方では,必要な証拠を収集して,寄与分を計算し,寄与分が存在すること及びその額を説得的に主張することは困難でしょう。この点,相続に精通した弁護士に依頼することで, 御依頼者様は資料の収集・分析,寄与分の計算等の煩わしさから解放されますし,適切な主張をすることで,相続人の財産維持に寄与した方の,正当な利益を実現しやすくなります。 

 

まとめ

それでは今回の内容を復習してみましょう。

⑴ ご両親の面倒を見た場合には,ご両親に,「他の相続人に比べてご自身に多くの財産を相続させる内容の遺言」を書いてもらう方法があります。

 

⑵ 遺言を作成する場合には,公正証書遺言を作っておくことが,後のトラブル防止に役立ちます。

 

⑶ 遺言がない場合においても,寄与分の主張が認められれば,親の面倒をみたことで多くの財産を所得できますが,そのためには,「特別の寄与」にあたることが必要です。

 

⑷ 寄与分を決定する方法としては,相続人同士での話し合い,寄与分を定める調停,審判という方法がありますが,それぞれメリットデメリットが存在します。

 

 以上のように,ご両親の面倒を見た場合に,他の相続人より多くの財産を取得する方法は存在しますが,遺言に関しては,その要件が厳格に定められておりますし,寄与分については,要件に該当するのか,寄与分をどのように計算するのかなど,専門知識が必要となってきます。

 

したがって,これらの方法を考えられる場合には,弁護士が関与することが重要です。

 

当事務所では,弁護士歴25年以上の経験がある弁護士のノウハウ等をもとに、相続手続全般について熟知しており、適切なサポートを提供いたしますので,お悩みの方は,是非一度,当事務所にご相談ください。

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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