相続人の廃除とは?
目次
Q 私(Aさん)には、亡くなった妻との間に2人の息子がいます。長男は、私の預金を無断で解約し、
払戻しを受け、使い込んだことがあります。また、多額の物品購入代金の支払いを私に負担させたう
え、そのことを私が注意したところ、暴力を振るわれました。その後、長男は家出をし、現在は行方不
明です。なお、長男には子供はいません。
私は、長男からひどい仕打ちを受けたので、私の全ての財産は、次男に相続させることを考えていま
す。長男に私の財産が一切渡らないようにするために、生前に対策しておくことはありますか。
A 推定相続人(=仮に、今現在の状況で相続が発生した場合に、遺産を相続するはずの相続人のこと)
である長男が有する、『相続する資格』を剥奪することで、Aさんの財産が長男に渡らないようにする
ことができます。
長男は、Aさんの「子」であることから、相続人となり(民法887条1項)相談者の遺産を相続することができる立場になります。
仮に、Aさんが、「全ての財産を次男に相続させる」という内容の遺言書を作成した場合でも、長男には、遺留分(=一定の相続人について、法律上最低限保障されている遺産取得分のこと)が認められます。そのため、遺言書を作成するだけでは、Aさんの財産が、長男に一切渡らないようにすることはできません。
そこで、推定相続人(=仮に、今現在の状況で相続が発生した場合に、遺産を相続するはずの相続人のこと)である長男が有する、『相続する資格』を剥奪することで、Aさんの財産が長男に渡らないようにすることができます。
今回は、推定相続人が有する、相続する資格を剥奪する『相続人の廃除』について解説します。
「相続人の廃除」とは
「相続人の廃除」とは、推定相続人のうち、遺留分を有する者の相続する資格を剥奪する制度のことをいいます。
「相続人の廃除」が認められるためには、「被相続人」(=いずれ相続されることになる人。※本件ではAさん)となる方が、家庭裁判所に申立てをする必要があります。
「相続人の廃除」の要件
「相続人の廃除」についての申立てを行う場合、以下の要件のうち、どちらかを満たしている必要があります。
【要件】
- 遺留分を有する推定相続人が、被相続人となる方に対して、虐待をしたとき、もしくは重大な侮辱をしたとき
- 推定相続人に、その他の著しい非行があったとき
しかし、これらが認められるためには、単に不仲であるだけでは足りません。
なぜなら、相続する資格を剥奪する制度であるため、「家族間の信頼関係の破壊の程度がひどく、相続人に対して保障される、最低限の遺産取得分が剥奪されても仕方ない場合」に限定する必要があるからです。
そのため、「相続人の廃除」が認められるためには、具体的に次の場合が考えられます。
【具体的な例】
- 相続人が、被相続人に対して肉体的、精神的に虐待をしていた場合
- 相続人が、被相続人に対して日常的に暴言を吐くなどの侮辱をしていた場合
- 相続人が、被相続人の財産を勝手に自分のものにしたり、処分したりした場合
- 相続人が、多額の借金をして、その返済を被相続人にさせた場合
- 相続人が、重大な犯罪を犯したことがある場合
- 相続人が配偶者である際には、不貞行為を繰り返したり、長年続けたりして、被相続人を苦しめた場合
「相続人の廃除」が認められる確率
「相続人の廃除」は、令和4年度では、308件の申立てが行われており、そのうち認められたのは36件になります(令和4年度司法統計参照)。
相続人の廃除が認められる確率は、2割未満となっていますので、注意が必要です。
「相続人の廃除」の手続きの流れ
「相続人の廃除」の手続きは、
① 被相続人が生存中に手続きを行う場合(=生前廃除)
② 被相続人の死後に手続きをする場合(=遺言廃除)
があります。
【①生前排除】
被相続人(=いずれ相続されることになる人)となる方の、住所地を管轄する家庭裁判所に対し、相続人廃除の審判申立てを行います。
相続人の廃除が認められた場合は、10日以内に、被相続人の戸籍がある市区町村役場に必要書類を提出します。
【②遺言排除】
被相続人(亡くなった方)が、生前に、遺言書を作成しておく必要があります。
被相続人(亡くなった方)の死亡後に、遺言執行者が、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。
相続人の廃除が認められた場合は、10日以内に、被相続人の戸籍がある市区町村役場に必要書類を提出します。
「相続人の廃除」の効果
相続人の廃除が認められると、申立てを行った被相続人(いずれ相続されることになる人)の相続について、相続権を失うことになります。
もっとも、失う相続権は、相続人の廃除の申立てを行った方の相続だけですので、他の方が被相続人となった場合の相続については、相続権が認められます。
また、相続人の廃除の効果は、相続人の廃除の申立ての対象となった相続人のみに生じます。
そのため、廃除された相続人に子どもがいる場合には、廃除された相続人の子どもが相続人となります。これを代襲相続といいます(民法887条2項)。
もし、廃除したいと考える相続人の子どもにも、同じように、自身の財産を渡したくないと考えている場合には、相続人の廃除をしただけでは、その目的を達成することができません。
そういったこともあって、現状では、相続人の廃除はあまり利用されていません。
「相続人の廃除」の取消し
「相続人の廃除」が認められたとしても、被相続人(一度申立てを行った方)は、いつでも自由に、「相続人の廃除」の取消しを家庭裁判所に申立てることができます(民法894条)。
これは、「相続人の廃除」が被相続人の意思を尊重する制度であるためです。
例えば、多額の借金を親に立て替えさせたうえ、親の財産を持ち逃げした息子について「相続人の廃除」が認められたとします。しかし、何年か経って、改心した息子が戻ってきて、お金をすべて親に返済し、深く反省と謝罪をした結果、親も息子を許して和解するような場合が考えられます。
「相続人の廃除」の取消しの手続きの流れ
手続きの流れは、相続人の廃除の場合とほぼ同じです。
被相続人となる方の、住所地を管轄する家庭裁判所に「廃除の審判の取消し」の審判を申立てることになります。
「相続人の廃除」の取消しの手続きについても、被相続人の生前に行ってもよいですし、遺言書に遺しておいて、死後に手続きすることもできます。
相続欠格
相続廃除と似て非なるものとして、「相続欠格」があります。「相続欠格」とは、推定相続人の立ち場にある者が、被相続人の相続に関して不正や犯罪などを働いた場合、自動的に相続権を失うというものです。
「相続欠格」が認められるのは、以下の場合です。
- 被相続人や自分以外の相続人を殺害した、または殺害しようとしたことがあり、刑を受けた場合
- 被相続人が殺害されたことを知っていて黙っていた場合
- 被相続人を騙したり脅迫したりして、遺言を書いたり、変更したり、取り消したりするのを妨害した場合
- 被相続人を騙したり脅迫したりして、遺言を書かせたり変更させたり取り消させたりした場合
- 遺言書を偽造したり、勝手に書き換えたり破棄したり隠したりした場合
まとめ
「相続人の廃除」とは、推定相続人が有する、相続する資格を剥奪する制度で、生前廃除の場合には、被相続人となる方(※遺言廃除の場合は遺言執行者)が、家庭裁判所に申立てる必要があります。
「相続人の廃除」が認められる要件は、「虐待」「重大な侮辱」「著しい非行」ですが、これらが認められるためには、単に不仲であるだけは足りません。
どのような場合に、「虐待」「重大な侮辱」「著しい非行」が認められるのかの判断は難しいですし、「推定相続人廃除の審判申立書」の記載内容については、審判例を踏まえる必要がありますので、弁護士に相談することがおすすめです。
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