法定相続分と遺留分との違いとは?
Q:法定相続分と遺留分との違いとは?
私の両親は高齢で、最近病気がちなところあるので、兄と両親の相続について話す機会が増えてきました。以前、父から遺言書を作成していることを聞いたことがありますが、母からは遺言書のことは聞いたことはなく、母が遺言書を作成しているかは不明な状況です。
現在、私は、両親と同居して、両親の世話をしています。
父の財産は預貯金と有価証券と実家の不動産で、母の財産は預貯金のみです。私は父が亡くなった場合には、実家を相続したいと考えています。
私の兄は、20年前に、マンションの購入資金を母から贈与してもらったようです。
このような状況で、両親の相続が発生した場合には、どのように進めていけばいいのでしょうか。これまで相続について経験したことがありませんので、法定相続分と遺留分の違いなどの基礎的なところから教えてほしいです。
A:相談者の父親が作成している遺言書の内容によっては、相談者は自身の遺留分が侵害されているとして、遺留分侵害額請求を行うことを検討する必要が生じます。また、相談者の母親が遺言書を作成していない場合には、相続人全員で、遺産分割協議を行う必要があり、その際に、法定相続分が参考にされることになります。
今回は、法定相続分と遺留分の基礎的な知識の解説をいたします。
1.法定相続分・遺留分について
(1) 法定相続分とは
相続人が、被相続人(亡くなった方)の遺産をどのくらい相続することができるかということについて、民法が定める一定の割合のことを法定相続分といいます。
被相続人(亡くなった方)が遺言書で相続分の指定をしなかった場合、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。その際、遺産の分け方の目安として用いられるのが法定相続分になります。実際、法定相続分の割合に応じて遺産の分け方を決めるケースが一般的です。
なお、法定相続分には強制力はなく、あくまで目安に過ぎない点には注意が必要です。民法906条でも「各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して」遺産分割をすることを規定しています。相続人全員の同意があれば、遺産の分け方は自由に決めることができるのです。
(2) 遺留分とは
遺留分は、一定範囲の相続人に保障される「最低限の遺産取得割合」になります。そのため、被相続人(亡くなった方)であっても、遺産のうち遺留分に相当する部分については、最終的には自由に処分することができないことになります。
つまり、被相続人(亡くなった方)が相続人の遺留分を侵害する遺言や贈与を行った場合、遺留分権利者(遺留分を有する相続人)は遺言や贈与で被相続人(亡くなった方)から財産を受け取った人に対して、侵害された遺留分の範囲で、遺産侵害額相当の金銭の支払いを請求することができます。
(3) まとめ
以上の通り、「法定相続分」は遺産分割における分割の目安であり、「遺留分」は遺言や贈与があったとしても、必ず守られる最低ラインになります。
2.法定相続分と遺留分との違いは?
(1) 認められる範囲と順位の違い
ア 法定相続分について
配偶者は、常に相続人になります(民法890条)。そのうえで、子などの直系卑属が第1順位の法定相続人となり(民法887条1項)、次に親などの直系尊属が第2順位の法定相続人となり(民法889条1項1号)、兄弟姉妹が第3順位の法定相続人となります(民法889条1項2号)。
そして、上位の順位に当たる人がいる場合、下位の人たちに相続権はありません。例えば、第1順位の子がいる場合、第2順位の親に相続権はありません。
【法定相続分】
相続人が配偶者のみの場合 配偶者がすべて
相続人が配偶者と子の場合 配偶者が2分の1、子が2分の1
相続人が配偶者と直系尊属の場合 配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1
相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合 配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1
相続人が子の場合 子がすべて
相続人が直系尊属の場合 直系尊属がすべて
相続人が兄弟姉妹の場合 兄弟姉妹がすべて
※ 子、直系尊属、兄弟姉妹が複数いる場合、子、直系尊属、兄弟姉妹の法定相続分をその人数で割ったものが、1人分の法定相続分となります。
イ 遺留分について
遺留分は、配偶者、子どもなどの直系卑属、親などの直系尊属のみに認められ、兄弟姉妹には認められません(民法1042条1項)。
遺留分を計算する際には、まず、相続財産全体の中で遺留分権利者に留保される割合(これを「総体的遺留分」といいます。)を考える必要があります。
総体的遺留分については、直系尊属のみが相続人である場合には3分1とし、直系尊属のみが相続人である場合以外は2分の1となります。
総体的遺留分は、いわば「遺留分権利者全員分の遺留分の合計」ですので、「1人1人の遺留分権利者が有する相続財産上の持分的割合」(これを「個別的遺留分」といいます。)を計算する必要があります。
【総体的遺留分の割合】
相続人が配偶者のみの場合 配偶者が2分の1
相続人が配偶者と子の場合 配偶者が4分の1、子が4分の1
相続人が配偶者と直系尊属の場合 配偶者が3分の1、直系尊属が6分の1
相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合 配偶者が2分の1、兄弟姉妹はなし
相続人が子の場合 子が2分の1
相続人が直系尊属の場合 直系尊属3分の1
※ 子、直系尊属が複数いる場合、子、直系尊属の遺留分をその人数で割ったものが、1人分の遺留分となります。
(2) 法定相続分と遺留分のそれぞれに含まれる財産の違い
ア 法定相続分について
法定相続分は、各相続人が被相続人(亡くなった方)の遺産に対して有する相続分を決める際に用いられる目安です。
各相続人が被相続人(亡くなった方)の遺産に対して有する相続分を決める際には、「みなし相続財産」の額を算定する必要があります。「みなし相続財産」は、被相続人(亡くなった方)が死亡した時点でのプラスの財産(例えば、預貯金、不動産、有価証券など)に、相続人が受けた贈与の金額を加えて算定します。こうして、算定された「みなし相続財産」に法定相続分をかけて、各相続人の相続分を決めます。そのうえで、各相続人の相続分から、「贈与」「遺贈」を受けた相続人については、「贈与」「遺贈」分を差し引くことになります。
また、法定相続分は、マイナスの財産(例えば、借金など)の負担割合を決める際にも用いられます。
イ 遺留分について
遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求を行うことができます。相続人各自の遺留分については、個別的遺留分に、遺留分を算定するときの基礎となる財産(これを「基礎財産」といいます。)を掛けて算定します。基礎財産は、被相続人(亡くなった方)が相続開始時点で有した財産に、贈与された財産を加えたうえで、相続債務を控除して算定します。
こうして算定された相続人各自の遺留分が被相続人の作成した遺言や贈与によって侵害された場合には、遺留分を侵害された相続人は、遺言や贈与によって財産を取得した者に対して、遺留分侵害額請求を行うことができます。
[遺留分侵害額請求の対象となる財産]
・ 遺言によって受け取った財産
・ 被相続人の死亡前1年以内に贈与された財産
・ 当事者が遺留分を侵害すると知りながら生前贈与した財産
・ 相続人へ死亡前10年以内に贈与された財産
(3) 法定相続分と遺留分の時効や期間の違い
ア 法定相続分について
相続人が「法定相続分」にしたがって遺産分割を行う場合、時効はありません。ただし、遺産分割協議において、特別受益(相続人が被相続人から生計の資本として金銭の贈与を受けた場合など)や寄与分についての主張を行う場合には、相続開始時(被相続人が亡くなった時点)から10年以内に遺産分割協議を行う必要がある点は注意が必要です(民法904条の3)。
また、相続登記の義務化の制度が、令和6年4月から開始しており、3年以内に相続登記を行う必要があります。遺産に不動産があり、不動産の分割についての遺言がない場合、相続登記を行うために遺産分割協議が必要になります(ただし、相続人申告登記という簡易な制度もあります。)ので、相続開始後3年以内に遺産分割協議を行うきっかけになるかと思われます。
イ 遺留分について
遺留分侵害額請求は、相続開始(被相続人が亡くなったことと相続人になったこと)と遺留分侵害を知ってから1年以内に遺留分侵害者に対して行う必要があります。遺留分侵害額請求をした後も、5年以内に支払いを受けないと債権の消滅時効が成立して、支払いを受けることができなくなります。
また、被相続人が亡くなってから10年を経過した場合も、遺留分侵害額請求を行うことができなくなります。
(4) 法定相続分と遺留分の権利行使の方法の違い
ア 法定相続分について
法定相続分には強制力はなく、あくまで目安に過ぎないことから、法定相続分については相続人間での遺産分割協議において主張することになります。遺産分割協議は、相続人間での話し合いであり、裁判所の関与はありません。
相続人間での遺産分割協議が成立しない場合には、家庭裁判所に、遺産分割調停を申立てることになります。遺産分割調停は、裁判所の関与のある話し合いになります。
遺産分割調停が成立しない場合には、遺産分割の審判手続きに自動的に移行します。審判手続きでは、裁判官が当事者の主張を踏まえて、遺産分割についての判断を下します。この場合には、裁判官は法定相続分を基準にして判断をしますので、この点では法定相続分は分割の「目安」ではなく、「基準」として機能します。
イ 遺留分について
遺留分は、必ず守られる最低ラインですので、遺留分権利者(遺留分を有する者)は、遺留分侵害者(受贈者や受遺者)に対し、遺留分侵害額相当の金銭を請求することができます。請求については、遺留分侵害者に対し書面で通知するのがおすすめで、特に内容証明郵便を用いることで、後に遺留分侵害者との間で争いが生じた場合の証拠とすることができます。
遺留分侵害者が、遺留分侵害額請求に応じない場合には、調停を申し立てることができます。ただし、調停は、あくまで裁判所の関与した話し合いにすぎませんので、調停の申立て以前に行った当事者間の交渉の経緯から、遺留分侵害者が、支払いに応じないことが明らかであるときには、調停の申立てではなく、訴訟の提起を行うことが考えられます。
3.遺留分に関する問題を弁護士に依頼するメリット
(1) 遺留分に関する問題への対応に要する心理的負担を減らすことができる
遺留分に関する問題を弁護士に依頼することで、遺留分に関する問題への対応に要する労力や心理的負担を軽減できます。
ご自身で遺留分に関する問題に対応する場合、手間や労力がかかるほか、相手方との話し合いに精神的な負担を感じることもあります。特に、相手方が感情的になっている場合には、精神的な負担が大きくなります。弁護士に依頼することで、相手方への対応を任せられ、精神的な負担が緩和されます。また、弁護士が入り、客観的で冷静に話を進めることで、無用な感情の衝突が避けることにつながり、スムーズに解決することにつながります。
(2) 遺留分侵害額の算出を正確にできる
遺留分侵害額の計算は難しく、遺留分算定の基礎となる財産に加えられる贈与を見逃してしまう事態や、財産の価値を時価より低く見積もってしまう(特に、不動産)事態が生じる可能性があります。弁護士に依頼することで、遺留分算定の基礎となる財産の評価や計算を正確に行うことができ、正確な遺留分侵害額を把握することができます。
(3) 時効など法的に注意すべき点への対応が可能になる
遺留分侵害額請求には時効があります。いつの間にか時効が成立してしまうケースも少なくありません。弁護士に相談依頼することで、消滅時効を踏まえた早めの対応が可能になります。
また、遺留分侵害請求については、法的に注意すべき点が多くありますので、弁護士に相談することがおすすめです。
4.まとめ
冒頭の事例では、法定相続分や遺留分について、考えなければならない事がたくさん存在します。
法定相続分は、遺産分割協議など遺産を分割する場面で用いられる目安であり強制力のないものになります。遺留分は、必ず守られる最低ラインであり、遺言などにより、もらえる遺産の額があまりにも減ってしまった場合に、遺産を取り返すために用いられるものになります。
今回は、法定相続分と遺留分のそれぞれについて解説したうえで、両者の違いについて、認められる範囲と順位、財産、時効や期間、権利行使の方法の点から解説しました。
そのうえで、遺留分に関する問題を弁護士に依頼するメリットを紹介させていただきました。
遺産分割や遺留分に関する問題については、考慮すべき法的な問題が多数あることから、専門家である弁護士に相談することがおすすめです。当事務所には、弁護士歴28年以上の弁護士が在籍しており、多くの相続に関するご相談を受けてきました。机上の法律知識だけでは得られない、多数の相談や解決実績に裏付けられた実践的なノウハウを蓄積しております。こういった経験から、遺産分割や遺留分など相続全般について、皆様に最適なサポートを提供いたします。お悩みの方は是非一度、当事務所にご相談ください。
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