生前に相続放棄をしておきたいのですがどのようにすればよいでしょうか?

Q.私の父は,お金にだらしないところがあり,色々なところに借金があるようです。そして,父が亡くなったときは,相続により,私が父の借金を受け継ぐことになると聞いたことがあります。
私は父の借金を引き継ぎたくないので,今のうちから相続をしないように,父の借金について相続放棄という手続をしたいのですが,どうしたら良いのでしょうか?


A.結論として,あなたは,お父様が生きている間は,お父様の相続に関して,相続放棄をすることはできません。以下に詳しく述べていきます。

生前の相続放棄について

法律上,相続の放棄は,相続の開始地たる被相続人の住所を管轄する家庭裁判所において行わなければなりません(民法938条,家事事件手続法201条1項,5項)。
そして,この手続は,「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内」という期間制限が存在します(民法915条1項本文)。
このように,相続の放棄は,法律に定められた厳格な手続を守る必要があります(このような行為を「要式行為」といいます。)。
したがって,冒頭でお伝えしましたとおり,相続放棄はお父様の死亡後にしかできず,生前に行うことはできません。仮に,あなたが,「父の相続について放棄します。」といった書面を作成したとしても,あなたがその書面のみによってお父様の相続人でなくなることはありませんので,お父様の死亡後に家庭裁判所で相続放棄の手続きをしない限りは,お父様の債務(借金)を受け継いでしまいます。

 

また,本件とは逆の事例ですが,お父様に財産があるところ,あなたとお父様の関係が悪くなり,「もうお前には財産は一切やらん。相続を放棄するという書面を書け。」と言われたとします。それを受けて,あなたが,お父様が生きている間に,「父の相続に関して,相続放棄をします。」といった覚書のような書面を残していたとしても,あなたは相続放棄をしたことになりませんので,相続人になります。仮に,お父様が,「あなたに財産をあげない。」という内容の遺言を作成したとしても,あなたは,最低でも遺留分を取得することができます。

※遺留分については以下の記事をご参照ください。

>>遺留分・遺留分侵害額請求について

 

なお,相続は生前に放棄はできませんが,遺留分に関しては,家庭裁判所の許可を受けた場合に限り,被相続人(この場合ではお父様)の生前に行うことができます(民法1049条1項)。家庭裁判所の許可を必要とした理由は,被相続人や他の共同相続人が相続人に無理やり遺留分を放棄させたりする等,遺留分の放棄が濫用的になされることを防止するためです。 遺留分の放棄については,家庭裁判所は簡単には認めません。

その他の方法での解決

確かに,生前に相続放棄はできません。しかし,相続発生前になんらの対策もとることができないのでしょうか。
この点,残念ながら,相続人であるあなた自身で法律的にできることはありません。
しかし,あなたのお父様が債務整理をすることで,借金を減らすことは可能かもしれません。あなたとしては,お父様に債務整理を行うように働きかけることで,お父様の債務を減らすことができる可能性があります。
もっとも,債務整理には債権者との交渉や,裁判所での手続きに関する専門知識等が必要になってきますので、弁護士等の専門家へ依頼して,サポートを受けることがおすすめです。

 

相続が発生した後の流れ

財産調査

まずは,しっかりと相続財産の調査をすることから始めましょう。
あなたのお父様には借金があったのかもしれませんが,借金が既に時効にかかって消滅していたり,あるいはお父様等が生前に弁済しているかもしれません。
正確な相続財産調査をした結果,プラスの財産がマイナスの財産を上回っているような場合には,相続放棄をする必要がないこともあります。


また,直ちに,相続財産のプラスとマイナスどちらが多いのかわからない場合には,「限定承認」という制度を利用することも考えられます。
限定承認とは,相続人が相続によって得た財産の限度で、被相続人の債務の負担を受け継ぐことをいいます。簡単に言いますと,プラスの財産の限度で借金を返せば良いという制度です。
非常に便利な制度のように思えますが,相続人全員で手続きをする必要があることや,みなし譲渡所得税が発生するために準確定申告が必要であること,債務精算の煩雑な手続きが必要になること等のデメリットも大きいため,ほとんど利用されていないのが現実です。勿論,メリットの方が大きい事案もありますので,専門家のアドバイスを得た上で,メリットとデメリットを比較し,限定承認をされるか検討されると良いと思います。

相続放棄の手続

相続財産調査をした結果,マイナスの財産の方が多い場合は,借金等の支払を回避するため,相続放棄をすることも選択肢の一つとして考えられます。
もっとも,相続の放棄は,「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内」にしなければなりません(民法915条1項本文)(このような期間のことを「熟慮期間」と言うことがあります。)。
相続が開始すると,相続人の方は,各種手続きで忙しく,3ヶ月はあっという間に経ってしまいます。
もっとも,常に相続開始を知ったときから3ヶ月以内にしなければならないわけではなく,家庭裁判所に請求することで,期間の延長を認められる可能性があります(民法915条但書き)。
この期間の延長は,被相続人に相続財産が多数存在する・複数の債務(借金)が存在する場合等,相続放棄をするか否かの熟慮期間内に相続財産の調査が終わらないような場合に認められる可能性があります。単に「仕事が忙しい」といった理由だけでは,熟慮期間の伸張が認められない可能性がありますので,注意が必要です。

そして,上記の相続放棄をするか否かの熟慮期間内に,相続放棄の手続をしないでいると,相続を承認したことにされてしまいます(民法921条2項)。
その結果,被相続人の借金等をあなたが支払う義務が生じてしまいます。

まとめ

これまでの内容を復習してみましょう。

○被相続人の生前には,相続放棄をすることはできない。
○被相続人の生前においても,家庭裁判所の許可を得て,遺留分の放棄をすることはできる
○被相続人の死亡後は,直ちに相続財産の調査を始めることが重要
○相続財産の内容が確定し,相続放棄を希望するなら,速やかに相続放棄の手続を始める
○相続放棄の熟慮期間を過ぎてしまうと,相続を承認することになってしまう。

 

相続財産の調査・相続放棄の手続は、ご自身で進めることも可能ですが、相続財産の調査は各種機関とのやり取りが煩雑ですし,相続放棄の熟慮期間を過ぎてしまうと相続放棄ができなくなってしまうという不利益が生じる可能性があります。相続財産の調査や相続放棄の進め方等を熟知した弁護士にご依頼いただくことが、最終的には最適な解決に至る近道となります。

当事務所の弁護士は、弁護士歴25年の経験から、相続財産の調査や相続放棄の進め方等熟知しており、最適なサポートをご提供致しますので,相続放棄等に関してお悩みの方は,是非一度,当事務所にご相談ください。

 

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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