遺産分割調停の期間はどれくらい?早期解決のポイントを解説
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Q.私には,両親がおりましたが,父は5年前に他界しており,母は今年亡くなりました。両親の子供は,私と兄の2人です。
私は大学進学を機に東京に行き,そのまま東京に就職し,福岡には年に1度帰るかどうかです。一方,兄は,両親の実家がある福岡に住み続け,両親の面倒を見ておりました。母の財産としては,実家の不動産と預貯金があります。
この度,母の遺産分割協議をすることとなったのですが,兄は,母の面倒を見たことから自分が多くの財産をもらうべきだと主張しております。また,実家の不動産の評価についても私と兄の意見は一致しません。
もはや当事者同士で話合いをするのも限界を感じており,家庭裁判所の調停を利用することを考えています。もっとも,家庭裁判所の調停だと,解決までに,すごい時間がかかるのではないかと心配していますが,どのくらいの時間がかかるのでしょうか?また,遺産分割調停を早く終了させる秘訣などありましたら,教えて下さい。
A.遺産分割調停を行うためにかかる期間は、それぞれの事案により大きく異なります。相続人間に争いがあまりなく,半年以内に調停が成立することもあれば、3年たっても相続人の意見がまとまらず、調停期日を繰り返しているという事案もあります。
遺産分割調停にかかる期間
裁判所が公開している司法統計によると、調停期日の回数としては6~10回程度が一番多いです。
遺産分割調停は一般的に申立てから1~2か月後に最初の調停の期日が設けられます。その後,おおよそ1か月に1回程度のペースで期日が設定されて,話し合いが進められます。
調停が終了するまでに,平均して,1年程度の期間がかかっています。
【参考】遺産分割事件数 終局区分別審理期間及び実施期日回数別 全家庭裁判所
また,遺産分割調停を早期に終了させる方法は,以下に詳しく説明致します。
遺産分割とは?
遺産分割協議とは,被相続人(亡くなられた方で,預貯金などの権利・借金などの義務を譲り渡す方のことです。)が遺言を残さないまま亡くなった場合、その遺産を分けるために、相続人(権利義務を引き継ぐ方です。)の間で「誰がどの財産を引き継ぐのか」を決めるための話合いのことをいいます。
遺産分割協議がまとまらないときはどうしたらいいの?
・どうしても遺産分割協議がまとまらない ・話合いが堂々めぐりで一向に話が進まない ・相続人の一部が、そもそも話し合いに応じてくれない |
このような場合は、解決のために,遺産分割調停を家庭裁判所に申し立てる方法が考えられます。
遺産分割調停とは,家庭裁判所の裁判官と調停委員(社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識を持つ人や, 地域社会に密着して幅広く活動してきた人が裁判所の非常勤職員として選ばれます。)が相続人の間に入り,相続人それぞれの遺産分割に関する主張や希望を聴いたうえで,相続人全員による合意を試みる手続です。
話し合いでの解決を目指す手続であることから,柔軟な合意の調整が可能です。また,法律の専門家である裁判官の意見を聴くこともできることから,相続人同士のみの遺産分割協議よりも,解決できる可能性が高くなる傾向にあります。
遺産分割調停が長期化しやすい場合とは
遺産分割が長期化しやすい類型として,相続人が多数人いるケース,相続人間に感情的対立が大きいケース,相続財産の評価に争いがあるケース,特別受益や寄与分の主張があるケース,不自然なお金の引出し・使い込みが疑われるケースなどが挙げられます。
質問者様の事案ですと,不動産という相続財産の評価に争いがあること,お兄様がお母様の面倒をみたことを理由に寄与分の主張をすることが考えられることから,調停が長期化する可能性があります。
遺産分割が完了していない場合には,被相続人の相続財産は各相続人の共有となっており、原則として一部の相続人が自由に処分することは認められていません。したがって、相続財産を利用・処分をしたいと考えている場合には、早期に遺産分割調停での合意を成立させることが重要となります。
遺産分割調停を早期に解決するために必要なこと
遺産分割調停を早期に解決するため、
という方法が考えられます。
相続に精通した弁護士を代理人として選任する
遺産分割調停では,法的知識を有していないと,調停委員や相手方の言っている内容が十分理解できなかったり,適切な主張をすることができないかもしれません。特に,特別受益や寄与分,使途不明金の有無が争われる場合には,自分の言い分を法的に構成して,適切な資料を家庭裁判所に提出する必要があります。
ご本人のみでこのような作業をすることは,専門的な知識経験を要することや,このような作業に慣れないこともあって,手間も時間もかかるでしょう。また,五月雨的に主張を展開した結果,相続人間の争点が明確にならず,いたずらに期日を積み重ねてしまう可能性もあります。
このような事態を避けるために,複雑・困難な事件においては,調停の段階で相続に精通した弁護士に依頼するメリットは大きいでしょう。
一定の譲歩をする
遺産分割調停は,相続人全員が合意をすれば,その合意した内容によって成立します。その内容は,必ずしも法律どおりとも限りません。
不動産の評価額については,当事者の出し合った査定書の中間の価額を採用したり,使途不明金についても,多少不明瞭なお金の引出しはあっても親の面倒を見てくれたことは確かだから,多少は目をつぶるといった解決をすることもできます。
相続の問題は,身内の問題であり,会社間の取引などとは異なり,きちんとした書面などを作成していないことが多く,客観的な証拠がないケースも多いです。そのような場合に,杓子定規に法律を当てはめるのではなく,相続人お互いがある程度のところで譲歩することは,相続案件では珍しいことではありません。
このように争点について,お互いが譲歩することができれば,細かい部分の主張立証を省略することができ,遺産分割調停を早期に終了させることができます。
相続分の譲渡・放棄を行う
相続分の譲渡とは、相続財産に対して相続人が持っていた相続持分を、譲受人に移転してしまうことです。この場合の「相続財産」には、積極財産(プラスの財産)だけではなく、消極財産(マイナスの財産)も含まれます。
相続分の譲受人が他の相続人の場合には、譲渡を受けた分だけ譲受人である相続人の相続割合が増えることになり、譲受人が相続人ではない第三者の場合には、今後は、その譲受人を含めて(譲受人を相続人として)、遺産分割協議を行う必要があります。
相続分の譲渡をすることで、譲渡人は遺産に対する相続分を失いますので、それ以降は、遺産分割の当事者になる必要がありません。これにより、遺産分割協議から離脱することができることになります。
相続分の譲渡は、相続放棄と異なり、いつまでに行わなければいけないという時期の制限はなく、また、相続放棄の場合に必要な「相続の放棄の申述」という家庭裁判所の手続も不要なため、いったん遺産分割協議に参加したものの、調停手続きや相続人間の人間関係が煩わしくなり,途中で遺産分割協議から離脱をしたい、というような場合にも行うことができます。
遺産分割調停の場合には、「相続分譲渡証書」(譲渡人は署名及び実印での押印をする必要があります。)と譲渡人の印鑑証明書を添付することで、相続分の譲渡をした相続人は、遺産分割調停手続きから離脱することができます。それ以降の調停期日への出席や遺産分割の話合いへの参加も不要となります。
なお、相続分の放棄によっても、遺産分割の当事者から脱退することができます。
相続分の放棄とは、相続財産に対する相続人の相続分を放棄するというものです。相続分の譲渡が特定の譲受人が譲渡者の相続分を取得するのに対し、相続分の放棄は、放棄者の相続分を他の相続人がその相続割合に応じて取得することになります。なお,相続分の放棄とは「相続の放棄」とは別の制度なのでご注意下さい(相続分の放棄をした場合,相続の放棄とは異なり,相続債務は負担することになります。)。
遺産分割の調停が不調に終わった場合
遺産分割調停において,裁判所による相続人間の合意の調整に応じない相続人がいる場合や,そもそも相手方が調停の手続に応じない場合には,遺産分割調停は不成立となり,審判手続に移行します。
審判手続は,調停手続と異なり相続人同士の話し合いの場ではなく,それぞれの相続人から提出された主張と証拠を基礎に,裁判官が遺産分割の方法を判断します。
家庭裁判所の決定(審判)には強制力があるため,結論に納得できない相続人も,原則として家庭裁判所の決定(審判)には従う必要があります。もっとも,審判の内容に不服がある相続人は,2週間以内に即時抗告することにより,高等裁判所で再度審理してもらうことは可能です。
まとめ
それでは今回の内容を確認しましょう。
(1) 遺産分割調停の期間はケース・バイ・ケースですが,平均して約1年かかっています。
(2) 遺産分割調停は様々な事情から,長期化する可能性があります。
(3) 遺産分割調停を早期に解決するためには,相続に精通した弁護士に依頼すること,一定の譲歩をすること等が考えられます。
(4) 遺産分割調停が不調に終わった場合は審判に移行します。家庭裁判所の審判には強制力があるため,最終的に遺産分割の争いを終了させることはできます。
相続人間の争いは長年の感情的対立などもあって深刻になりやすく、争いも長期化しやすいです。したがいまして,迅速かつ円満な解決のために,早期に,相続に熟知した弁護士が関与して,手続きを進めていくことが重要です。
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