遺産分割調停の管轄はどこ?~福岡の場合と遠方の場合を解説~

Q 先日、母が亡くなりました。相続人は、私と弟と妹の3名です。

  父は、10年前に亡くなりましたが、その際に母は、父名義の不動産を相続しました。


  現在、福岡市に住む私と、大分市に住む弟と、長崎市に住む妹で、母の遺産の分割方法について話し合っていますが、実家の名義を誰にするかで揉めています。

 

  これ以上揉める場合は、遺産分割調停の申立てをしなければいけないと思っています。私は、子育ての関係から、家から近い福岡家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てたいと考えています。

 

  福岡家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てをすることは、問題ないですか?

A 原則として、遺産分割調停の申立ては、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。

  なお、相続人が複数いる場合には、そのうち一人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行うことができます。


  そのため、相続人は、長女の子どもに対して遺留分侵害額請求をすることができます。

 

  

  本件のQ&Aの場合、福岡家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをすることはできず、大分家庭裁判所か長崎家庭裁判所に申立てをする必要があります。

 

  ただし、福岡家庭裁判所で遺産分割調停を行う方法や、福岡市にいながら調停に参加する方法もあります。

 

  以下で詳しく説明します。

 

遺産分割調停の申立先はどうやって決まるの?

 

 原則として、「遺産分割調停」は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行う必要があります。自分の住所地に近い場所がいいという理由だけで、自由に申立先の家庭裁判所を選べるわけではありません。

 

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遺産分割調停の申立先に例外はないの?

 

 相手方の住所地を管轄する家庭裁判所以外で行われる例外が2つあります。

 

① 遺産分割調停の管轄裁判所について、相続人同士で合意できた場合

 

 相続人全員が、「今回の遺産分割調停は、福岡家庭裁判所を合意管轄裁判所とする」という内容で合意した場合は、福岡家庭裁判所に申立てることができます。もちろん、単に合意しただけでは足りず、管轄合意書として日付を記載し、相続人全員が署名・押印した書類を家庭裁判所に提出する必要があります。

 

 しかし、遺産分割調停を申立てる段階では、すでに感情的対立が鮮明となっている場合が多いため、管轄裁判所を事前に話し合い、合意することが難しいケースがほとんどです。

 

② 管轄ではない裁判所が「自庁処理」をする場合

 

 「自庁処理」とは、管轄ではない家庭裁判所が、職権で自ら処理を行うことをいいます。

 

 原則、管轄外の家庭裁判所に遺産分割調停を申立てたとしても、「移送」という手続きによって、管轄地の家庭裁判所に送られてしまいます。

 

 しかし、本来の管轄地の家庭裁判所で調停を行うことが、著しく不合理である場合などの特殊な事情があれば、管轄ではない家庭裁判所であっても、申立てを受け付けてもらえることがあります。

 

 ただし、「自庁処理」は、特殊な場合に限られるうえに、最近は電話会議システム等でも対応できるという理由から、基本的には認められないと考えた方が良いでしょう。

 

福岡家庭裁判所に申立てをする場合

 

 福岡家庭裁判所に申立てるには、相手方となる相続人が、1人でも福岡市やその近隣に在住であれば可能です。

 【裁判所の公式HP(管轄裁判所の一覧図)

 

 また、相続人全員で管轄合意をするか、福岡家庭裁判所が自庁処理をすると判断した場合には、福岡家庭裁判所にて遺産分割調停を行うことができます。

 

遠方の家庭裁判所に申立てなければならない場合

 

 相手方の住所地を管轄する家庭裁判所が、ご自身のお住まいの場所から遠方の裁判所になってしまうこともあります。原則として、「遺産分割調停」は、家庭裁判所に出頭する必要がありますが、そうすると、仕事や病気、子育て等で、出頭することが困難な場合も少なくありません。

 

 そこで、遠方の家庭裁判所で遺産分割調停が行われる場合、以下の2つの方法を利用することが考えられます。

 

 ~詳しくはこちら~ 

 ★遺産分割調停を欠席するとどうなりますか?

 

① 各システムを利用する方法

 

 遺産分割調停を管轄する家庭裁判所が遠方、かつ、家庭裁判所が相当と認めた場合には、「電話会議システム」「WEB会議システム」、「テレビ電話会議システム」を利用することができます。

 

 「電話会議システム」及び「WEB会議システム」とは、管轄の家庭裁判所と、自宅や依頼している弁護士事務所等を、電話もしくはWEBでつなぐことで、遠方であっても調停に参加することができる方法です。これらのシステムを利用することで、遠方で開かれる遺産分割調停であっても、現地に出頭せずに遺産分割調停に参加することができます。

 

 他にも「テレビ電話システム」という方法もありますが、これは、それぞれの近隣の家庭裁判所同士をテレビ電話で接続して、調停を行う方法です。

 

 

 調停手続きは非公開であり、当事者本人と代理人弁護士以外は調停に参加できません。

 そのため、ご本人で、ご自宅などから調停手続きに参加する場合、配偶者やその他の親族など、当事者以外の方が周りにいない状況を確保できるか否かという問題があります。

 ご自宅から調停への参加を希望しても、裁判所に慎重な判断をされることになります。

 

② 弁護士に遺産分割調停の代理人を依頼し、本人に代わって出頭してもらう方法

 

 弁護士に出頭してもらう場合、弁護士費用(着手金や報酬金など)の他に、日当や交通費を負担する必要があります。

 しかし、弁護士に代わりに裁判所へ行ってもらえるうえに、説得的な主張・反論までしてもらえるので、仕事や子育て等で、時間的な余裕のない場合にはとても有用です。

 

弁護士へ依頼するメリット

 

 「遺産分割調停」は、本人のみで申立てを行い、手続きを進めることができます。

 

 しかし、なかなか頻繁に起こることではありませんので、手続きの流れや進め方が分からず、不安を感じる方も多いと思います。

 

 また、単なる話し合いとは異なり、裁判所で行われる正式な手続きですので、法的な視点ももちろん必要となります。

 

 弁護士に依頼することで、遺産分割調停への同席や、事前打ち合わせの際に、今後の進め方についてアドバイスを受けることができ、自分の考えを法的に整理した形で主張することができます。

 

 さらに、遠方の家庭裁判所で調停が行われる際には、ご自宅で環境を整えなくても、依頼している弁護士事務所に行くだけで、「電話会議システム」または「WEB会議システム」で参加できます。

 

 なお、「電話会議システム」または「WEB会議システム」は、弁護士が申請する方が、比較的認められやすい傾向にあります。

 

 

 

まとめ

 

 原則として、遺産分割調停の申立ては、相手方の住所地の裁判所で行う必要があります。なお、相続人が複数いる場合には、そのうち一人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行うことが出来ます。

 

 遠方の家庭裁判所で遺産分割調停を行う場合には、「電話会議システム」または「WEB会議システム」を利用する方法がありますが、環境を整えることが大変であったり、そもそも裁判所から認めてもらうことも難しいです。

 

 しかし、弁護士に依頼することで、代理人として調停へ出頭してもらえるだけでなく、ご自宅の環境を整えなくても、依頼した弁護士の事務所から「電話会議システム」または「WEB会議システム」を利用して出頭することができたり、より説得的に主張・反論できるようなアドバイスを受けた上で、法的な視点をもって対応することができます。

 

 そのため、遺産分割調停の手続きや流れに、少しでも不安や負担を感じる場合には、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

 

 当事務所は、弁護士歴27年以上の弁護士が在籍しており、多くの相続に関するご相談を受けてきました。机上の法律知識だけでは得られない、多数の相談や解決実績に裏付けられた実践的なノウハウを蓄積しております。

 

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この記事の監修者

監修者:弁護士・税理士 岡本成史

【専門分野】

相続、不動産、企業法務

 

【経歴】

平成6年に、京都大学法学部在学中に司法試験合格。平成9年に弁護士登録後、大阪の法律事務所勤務を経て、平成18年10月に司法修習の配属地でもあった福岡で岡本綜合法律事務所を設立。

 

平成27年に相続診断士を取得し、相続の生前対策に積極的に取り組む。また、平成29年には宅地建物取引士(宅建)、平成30年には家族信託専門士、税理士の資格を取得・登録。不動産や資産税・相続税にも強い福岡の弁護士として活動している。

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